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見た目と雰囲気が魔王みたいな勇者の俺が美しく心清やかで聖女みたいな魔王と結婚することになる話

 俺は自分の顔が嫌いだ。

 雰囲気も嫌いだ。

 才能が嫌いだ。

 もう自分のなんもかんもが嫌いだ。

 神様ってやつが人間を作ったんだろ?

 だから俺をこんな風に作った神様も嫌いだ。

 俺は誰かって? アインス・ツヴァイ、一応勇者なんてもんらしい。

 人類を救う英雄?

 そんな立場は嬉しくもない。

 勇者なんてもんになるより普通の人間になりたかった。

 子どもの頃は誰も近寄ってこなくて、いっつも一人ぼっちだった。

 成長して、異性ってやつに興味を持ち始めた時、ちょっと可愛いと思っていたお隣のヌルちゃんに微笑みかけたところガチ泣きされた。

 彼女曰く悪魔の王様が笑ったとのことだ。

 はは、俺は悪魔の王様――魔王らしい。

 人混みの中を歩こうとすれば俺の進行方向だけすっぽりと人がいなくなり、ちょっと考え事で難しい顔をすれば気絶する人間や泣き出す人間が後を絶たない。

 実は俺は大魔王の生まれ変わりだったりするんじゃないのかと本気で悩んだものだ。

 そんな俺だが、ある日突然城に呼び出された。

 村長の家でも領主様の館でもなくこの国の王様が暮らしている文字通りの城に、だ。

 そこで語られたのは、俺が勇者であると神託が下され、復活した魔王を打ち倒しすのが勇者である俺の仕事なのだという。

 何が驚きって、俺が勇者だなんてあまりにも信じられなくて驚きに固まっていたら、王様がおどおどしながら金貨がずっしり詰まった財布を取り出して「これで勘弁してください」と言い出したことだ。

 断じて俺はカツアゲなんてしていないし、したいとも思わない。

 差し出された財布は丁重にお断りして、魔王を打ち倒すために旅立った。

 行く先々でトラブルが巻き起こったが、そのトラブルの影には、魔王の部下や四天王なんて存在がトラブルの黒幕として控えていた。

 それらとの戦いによって俺は勇者としての経験を積むのかと思ったが、なぜか毎回俺が辿り着くと黒幕たちは土下座して即座に降参してきた。

 本当に実は俺が魔王なんじゃなかろうかと心配したのもおかしくないだろう。

 そんな風に何の苦労もしないで魔王の城に辿り着いてしまった。

 城を守る魔族も俺を見た途端に逃げ出してしまい、無人の野を行くがごとく進めてしまう。

 本当にこれでいいのだろうか?

 生まれて初めて剣を握ったその日に剣闘大会に出場し、運だけで決勝にのぼった気分だ。

 決勝の対戦相手は激戦をくぐり抜けた本物の戦士が相手なのだから、それまでのように運だけで勝てるとは思えない。

 もしかしたら、無残に負けてしまうんじゃないだろうか?

 そんな不安を抱えながら、その奥に魔王がいるであろう扉を開いた。


「あ…………」


 ギギギと軋む扉を開けた向こうには、予想していた通り魔王が立っていた。

 彼女を見た時、俺はただその美しさに見惚れる他なかった。

 陶器のように透明感のある美しい肌、華奢で折れてしまいそうな細い身体。

 儚げに俯く横顔に浮かぶ憂いの表情を見てしまうと、こちらの方がどうしようもなく胸が苦しくなってくる。


「お待ちしておりました、勇者様」


 魔王(?)は扉を開けた俺を見て優雅に頭を下げた。

 待っていた?

 俺と戦うことを?

 いや、それより俺が恐ろしくないのか?


「待っていた? それはいったい……」


――詳しい話は僕たちからさせてもらおう。


「だ、誰だ!?」


――僕はわかりやすく言えば神様だよ。

――こやつが神なら儂は邪神じゃな。


 神と邪神!?

 普通はお前ら敵対してるんじゃないのか?

 なんでそんな2人が一緒にいるんだよ!?

 というか……え? あれ? 頭に直接声が聞こえる?


――信じてもらいやすい奇跡だよね。

――疑り深いやつは自分の頭を疑うがな。


 お前が神なら言っておきたいことがある!


――まぁまぁ、落ち着いて。それよりも先にこっちの話をさせてよ。

――相手に主導権を握らせない話術は詐欺師の手口じゃな。

――うるせぇぞクソ爺! 誰が詐欺師だ!

――実年齢ミリオン越えの僕っ娘合法ロリのお前。

――違いますぅ。僕は永遠の17才ですぅ。

――身長120センチで17才ってお前……どんだけ発育悪いの?

――だから黙れ爺!


 喧嘩してないで話を進めてくれないか?


――おっとっと、ごめんごめん。実は君には、今目の前にいる魔王『エイリーン』と結婚して欲しいんだ。


 血痕? いや決行? それとも欠航? まさか血行?


――どんどん離れてるね。結婚だよ結婚。いわゆるムァルィッジ。

――巻き舌……発音悪いし……


 マリッジ? 真剣まじっち? マジ実地?


――あ、ダメだね。バグってる。

――だからお前が作った人間はダメなんじゃよ。

――うるせぇクソ爺! だったらテメェの作った魔族はどうなんだよ!

――…………


 作った? やっぱり俺はおまえのせいでこんな風になったのか!?


――あ、った。そうだね。そのためには勇者と魔王の仕組みを説明しないといけないんだ。

――勇者はこいつ、魔王は儂が作る。

――そして、世界に刺激を与える。神の試練ってやつだ。


 その試練で無駄に人が死んでもか!?


――それは君たち人間の都合だ。

――魔族が世界の覇権を握っても神の子どもであることに違いはない。

――どっちが覇権を握っても構わないんだよね。

――むしろ、何事もなく平和という名の堕落が世界に満ちる方が問題じゃ。

――だけど、今回は色々弄りすぎて問題が起きちゃったんだよね。


 問題?


――そう。人間でも魔族でも魂には容量キャパシティがある。

――圧倒的な力を持ち、豊富な魔力とそれを操る技術、容姿に恵まれ、性格も素晴らしい。そんな存在は作れんのじゃ。

――で、君の場合は圧倒的な身体能力に膨大な魔力と戦闘センスを得た代わりに容姿は極端になったし人に与える印象がマイナスの限界に達してるんだ。そのおかげで、誰もが威圧されちゃう魔王みたいな存在になっちゃったんだよね。

――そして、エイリーンはお主に対抗するため圧倒的な能力を持たせた結果、魔族の特性である人間への敵意と残忍な性格がマイナスの限界に達し、博愛主義の聖女のようになってしまった。


 逆じゃねぇか!?

 魔王が聖女で勇者が魔王で……立場が完全に逆転している。


――そんなわけでいろいろと問題が出たわけじゃ。

――で、このクソ爺と考えたわけだよ。いっそ、魔族対人間の構図はやめて共存体制にしてみるのも1つの手段だよねって。

――幸いなことにお主は性格は悪くない。

――とりあえずモデルケースとして結婚させて、魔王と勇者に魔族が暴れるのを押さえさせて、それと同時に人間と共存できるようにしてほしいんだ。

――幸い、お互いに容姿と性格が好みのドストライクらしいしのう。


 邪神の言葉に驚きつつ魔王を見るとポッと頬を染められた。

 言っちゃ悪いが、魔王さん趣味悪くない?

 俺、見た目は完全に野獣だよ?


――というわけで頑張ってね?

――達者でな。


 おい!?

 この状態で置いていくのか!?

 答えろ、おい!

 いくら呼びかけても神も邪神も答えない。

 いったいどうしたらいいんだ?


「あの……勇者様、まずはお茶でもお飲みになりませんか?」

「え? あ、はい……」


 どうしたらいいかまったく分からないが、どうやら俺はこの美しく心清やかで聖女みたいな魔王と結婚することになるらしい。


王様が財布を差し出すくだりと設定をはき出したかっただけなので山なし谷なしオチもなし。

反省はしているが後悔はしていない。

恋愛としてもコメディとしても中途半端になっちゃったなぁ……

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