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古代文明と俺の夢

 この世界のダンジョンにありがちなことなんだけど、階層が変わるとガラッとその風景を変えることがある。


 このフィオ・ダンジョンもその典型的な例だ。

 ここにたどり着くまでは自然の洞窟のような構造だったんだけど、ここ最下層だけは不思議な素材で構成されている。


 不思議な手触り。不思議な光沢。

 いわゆる『古代遺跡のような』と言えばわかりやすいかもしれない。


「もしかして、その目的って古代文明の道具です? そんなにいい物が残っているとは思えないのですが」


 そんな話をしながら、深き棺の悪魔(カースド・デモン)のいた部屋よりもさらに奥に進む俺たち。


 このダンジョンが発見されてから約200年くらい?

 ウェンズディの言うとおり、めぼしい物は持ち去られていて、天井の高さも相まって、カツーンカツーンと俺たちの歩く音だけがダンジョンにこだまする。


(不思議なもんだな)


 俺はふと笑った。

 安全だとわかっている古代文明の通路を歩いているだけなのに、さっきよりも冒険してるって気がする。


 青く輝く天使の像――地上への帰還装置(リターンポイント)を見つけたけど、いまは無視。


 俺たちはさらに奥に向かい、


「お、ほんとにあった」


 神様に祈るための場所なのかな?

 悠久の(とき)を超えてなお、荘厳(そうごん)さを感じさせる大きな漆黒の石製の祭壇がそこにあった。

 高さは俺の背丈以上。ここからではその頂上をうかがい知ることはできない。


「前に村にきた冒険者に聞いたんだ。ここの最下層にはアレがあるって」


「祭壇の上に、ですか? レア運向上の神様のご利益(りやく)があったりとかです?」


「そんな神様がいたら、ぜひともあやかりたいところだけど、残念ながら違う」


 俺たちはゆっくりと階段を登り、やがて祭壇の頂上にたどり着く。


「これは……魔導人形マナティックドール?」


 そこにあったのは大きな黒い石製の石碑と、破棄された大量の人形たちだった。


 通称、魔導人形マナティックドール

 文字の通り、自立行動する人型のユニット。

 かつてこの世界にあったという古代文明の労働力として大量に生産された代物だ。


 同じく古代文明で利用されていたというゴーレムよりは力が弱いが、そのぶん人間と変わらない思考と器用さを持ち合わせていたという。


 そのほとんどはのっぺらぼうのマネキンのような物ではあるが、たまに人間のような顔を持つ物もあったりする。


 とはいっても、いまは朽ち果てており、修理できそうな感じに原型を留めているものは一つもない。


 古代文明があったのがだいたい2000年前だから仕方ないんだけど、この世界の昔の文明ってすごいな。


「この魔導人形マナティックドールが目的だったのですか?」


 ウェンズディが不思議そうに首を傾げる。


 この世界のあちこちには、遥か昔にこの世界に繁栄していたという古代文明の痕跡(こんせき)があり、この人形もその遺物のひとつというわけだ。


 古代文明では魔導人形(マナティックドール)はありふれた物だったらしく、壊れた魔導人形自体は珍しいものではないし、一般的に価値があるものでもない。


 実際、俺に人形の存在を語った冒険者も『めちゃくちゃ重いし、どう見ても修理できそうにないから放置してきた』と言ってたくらいだ。


「でも、もう完全に朽ち果てていますよ?

 これはメンテナンスしても、どうにもならないレベルだと思うのですが」


「そうなんだよな」


 さすがにここまで朽ち果てているのは想定外だなぁ。

 触るとボロボロと崩れそうな状態になっちゃってるし。


「……なんだか気味が悪いです。ナバルさん、帰りましょうよぉ」


 ぐいぐいとウェンズディが袖を引っ張って、「まるでお墓みたいです」と言う。


 なるほど。魔導人形の墓場と言われればそう見えるかもしれない。

 壊れてる人形の数がものすごく多いし、石碑もなんだか墓石っぽいし。


「でも、せっかく来たんだ。ひとつくらいは……」


 どこかに一つくらいマシなレベルの代物が残ってないか。

 と思って、ふと俺は首を傾げた。


「――というか、この石碑って何なんだ?」


 もしかしてこの下に埋葬されてる人形がいたりするんじゃないの? と思って手を触れ――


 ずずん。


 その瞬間、ダンジョンが揺れた。


「あ、あわわ!? 地震でしょうか!?」


 ふっ。妖精と言えどもしょせんは異世界の生物か。こんな地震にびびるなんて可愛いやつ。


 元日本人たる俺は地震ごときに動じない。


「落ち着け。こういうときは遮蔽物の下に――」


「どこに遮蔽物があるんですか!?」


 Oh……。

 ま、待て。慌てるのはまだ早い。


「じゃ、じゃあ、落ち着いて外に――」


「外に出る前にダンジョンが崩れますよ!?」


 ウェンズディの言うとおり、揺れはだんだん大きく……。あれ。これ詰んでね?


「や、やばい!! え!? これ、もしかして俺死んだ!?」


「お、落ち着いてください。こういうときはまず深呼吸。ひっひっふー!」


「ひっひっふー! って、やべえ! 天井がなんかぱらぱら言ってるんだけどぉっ!?」


 ずずずず……。

 揺れは収まるどころか、だんだん大きくなり、


「ナバルさん! 石碑が! 石碑が!」


「あんやだばー!?!? 倒れてくるぅーっ!?」


 こちらに倒れてくる大きな石碑。

 あんなのに押しつぶされたら死んじゃう!


 俺とウェンズディは抱き合って、ぎゅっと目をつむる。


 どばだーん! べきぃばきぃっ!!


 けたたましい音が鳴り響く。


「……っ!!!」


 それからどれくらい経ったろうか。

 地震もおさまってずいぶん経った後、俺たちは恐る恐る目を空けた。


「た、助かったのですか?」


「そ、そのようだな」


 倒れた石碑は粉々に砕けていた。

 さいわいにも俺たちに届くことなく、その手前に欠片をまき散らして。


 そして、その石碑のなかにそれ(・・)はいた。


「これは……?」


「きれい……」


 なかに保存されていたのだろうか。

 石碑のなかから一体の魔導人形マナティックドールが姿をのぞかせていた。

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