表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/35

我が筋肉の輝きを見よ

 ――1時間後。


「あの、ナバルさん?」


「なんだい、ウェンズディさん」


「自殺はいくないと思います」


 俺たちがやってきたのはフィオの村の近くにあるダンジョンだった。

 自然洞窟タイプのダンジョンで、じめじめした空気がうっとうしい。


 むき出しになった土の通路。曲がりくねった道程。でこぼこした足場。さらに言うと薄暗くて視界が悪い。


 第一層の適正レベルは15。ぎりぎり中級ダンジョンに相当する難度のダンジョンだ。


 ちなみに俺のレベルは1。

 筋トレは欠かさずにしていたものの、モンスターを倒したことがないので最弱の冒険者の扱いだ。

(もっとも、レベル=強さというわけではないのだが)


 たしかに、普通の者から見れば自殺しにきたようにしか見えないだろう。だが、


「そんなこと言ってらんないだろ。ウェンズディが死んじゃうと困るからな」


 ダンジョンにやってきたところでウェンズディは意識を取り戻したものの、KGを手に入れたわけでもない。

 あと2時間以内にガチャを回さないとウェンズディが餓死してしまう状況に変わりがないのだ。


 そして、この村から2時間以内にあるダンジョンはここだけ。

 となれば、命の危険を冒してでも中級ダンジョンに挑むしかないではないか!


「うるうる。そんな命の危険を犯してまで……。

 ナバルさーん! 大好き!」


 感激したウェンズディが顔に抱き着いてくる。

 よせやい。そんなこと言われちゃうと照れちゃうじゃん。


「で、でも……装備なしで中級ダンジョンに挑むなんて……。せめてそこらに落ちている木の枝だけでも装備してみては?」


「ああ。いいんだ。問題ない。お、さっそくモンスターが来たな」


 狭い通路の曲がり角。やってきたのはオークと呼ばれる直立歩行の豚のモンスターだった。


 俺なんかよりも頭3つはデカイ。

 腹はまるまると太っているように見えるけど、薄い脂肪の下はすべて筋肉だという。


 適正レベルは10程度。

 けど、頑丈なことや攻撃力が高いこともあいまって、ここみたいな細い道のダンジョンだと、その危険性は下手なレベル15の敵よりも高い。


 オークは俺の姿を見止めると、


「ぶもおおおおおおおお!!」


 雄叫びを上げて周囲の仲間に獲物がやってきたことを伝えた。

 呼び声にぞろぞろと集まったオークたちの数は10。

 1対1で戦うことすら無謀なのに、10体。はっきり言って絶体絶命だ。


「ぶもおおおおおおぉぉおっ!!」


 一番最初のオークが(いなな)くや否や先頭を切って、突撃してくる!


「ひぇぇぇぇ。無理! 無理無理です! ナバルさん。逃げましょう!」


 ウェンズディが怯えたように俺の腕にしがみつき、出口に向かって引っ張ろうとする。

 が、俺はぐっと胸筋に力を込めた。


「ふんぬっ。ぶるぁぁぁぁぁっ!」


 バリバリバリ。俺の着ていた布の服(☆1)は破れ、そこから現れたのは厚い胸板。黒光りする胸筋!!


「へ?」


 あまりにも見事な肉体美を前にウェンズディが目を丸くしてまじまじと見つめてくる。


 いやん恥ずかしい。

 でも、仕方ない。俺だって、自分が女だったら惚れてしまうに違いないほどの筋肉美なのだから!


 俺は突撃してきたオークに向かって右腕を後ろに引いて構えた。そして――


「どらああ!!!」


「ぶもっ!?」


 アッパーカット。

 まさか素手で殴りかかられるとは思っていなかったようで、無防備な顔面にクリティカルヒット!

 パンチ一発。俺は先頭のオークを倒した。


「ちょ!? ……ぇぇぇえええ? な、なんですかそれっ!?」


「ふはは! ガチャ装備など花拳繍腿(かけんしゅうたい)! 男ならどこまでも肉体のみで戦い続けるのみなのだぁぁぁっ!! どらああああ!!」


 続けて2体目のオークも右フックで撃破!


「わははは! 今宵の我が拳は血に飢えておるわぁっ!」


 ガチャ装備? そんなものはなかった。

 そもそもこの世界において信頼できるのは我が肉体のみであったのだ。筋肉は俺を裏切らない。おお、マッスルに栄光あれ。


 ……というのはジョークとして、これはガチャアイテムのプロテインを摂取したおかげだ。


 覚えておられるだろうか。

 プロテインのフレーバーテキストには【筋トレのお伴。摂取した日は攻撃力が上昇】と書かれていたことを。


 プロテインの効果は摂取した日の(ゼロ)時まで攻撃力を1.2倍にするというもの。


 実はこういった日常アイテムにもバージョンがあって、フレーバーテキストが異なるのだが……このフレーバーテキストのバージョンは初期型のプロテインのものなのだ。


 例えば、現在(・・)のプロテインの最新版のフレーバーテキストはこうだ。


------------------------

プロテイン

------------------------

レア度:☆1

マッスルマッスル! 完璧なアミノ・インデックスはあなたの筋肉を元気にする。摂取した日は攻撃力が上昇(重複不可)

------------------------


 お気づきだろうか。わざわざ重複不可と書かれていることに。


 そう! 逆に言うと、現在は廃盤となった初期版のプロテインは摂取するたびに複利のように掛け算で効果が乗算されていくのである!


 具体的に言うと、入手した9つすべてのプロテインを摂取した俺の攻撃力は1.2の9乗=約5.2倍!


 そして俺の拳の攻撃力は20。

(筋トレのおかげで普通よりも遥かに高い数字だ)


 参考値として挙げると、レア度☆1の【銅のナイフ】は攻撃力5。

 ☆2の【鋼の剣】が15。

 ☆3の【ミスリルの剣】が45。

 ☆4の【ドラゴンスレイヤー】でようやく70。


 だが、しかぁし!

 プロテインによって強化された俺の拳の攻撃力はなんと104!

 ならば中級ダンジョンの1階層程度の敵など、クリティカルヒットが出れば余裕のよっちゃん!


 うーっぷす。プロテイン食いすぎて吐きそう。


【コングラッチェレーション。レベルが上がりました】


 倒したオークが光の粒子となり、俺の冒険者カードに吸い込まれていき、アナウンスとともに【ぴんぴろりーん】と周囲に羽毛のようなものが舞う。


 うざいことで有名なレベルアップのエフェクトだが、世の中にはこれのせいで敵に気付かれて全滅したことのあるパーティもあるのだとか。


 でも、今の俺には関係ないね!

 レベルが上がって、筋肉にさらに艶が増したのを感じる。


 そして上がった攻撃力にプロテインの倍率がドン!


「ふははっ! この俺の歩みを止めることの出来る者などいなぁぁい!!」


 俺は呆然とする残りのオーク共に向かって走った。


 ウェンズディ死ぬまであと2時間。

 こんな雑魚どもにかまっている時間すらもったいない!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ