ウェンズディ、お前がナンバーワンだ
「ハッ!? も、戻ってこれたのか……」
気づいたとき、俺達はハルベルダンジョン(超級)の帰還地点に戻ってきていた。
「ぎ、ギリギリだったかしら」
どうやらアリッサベルが帰還の糸(☆3)を使用してくれたらしい。
周囲にはこのダンジョンに挑戦していたらしい冒険者たち。
みな一様に「なんだなんだ」と騒いでいる。
話を盗み聞きしたところ、なんでもアルビオンの起動時の揺れはダンジョン全体に響いたらしく、みなすぐに脱出したのだとか。
嫌な予感がしたらすぐに脱出するあたりは、さすがAランク冒険者とでも言うべきだろう。
「ナ、ナバルさん、見てください! 湖が!?」
ウェンズディに言われて湖のほうを見ると、格納庫に流れ込んだせいか、なみなみと湛えていた水が半分くらい抜けていた。
干上がった部分には水草がくたりと横たわり、魚たちがピチピチと跳ねている。
そのちょうど中央では渦を巻くようにして、水がまだまだ吸い込まれ続けている。
なんかお風呂場の排水口みたいで面白いね。
と。
「おい、見ろよ。あれはなんだ?」
誰かが指をさしたのは、その湖の中央――排水穴だった。
「あれは……指?」
大量の水が流れ込む、穴の縁をガシッと力強く掴んだのは巨大な5本の、指にも見えるもの。
なんだ? と思う暇もなかった。
俺がその指を見た瞬間、力強くぐっと穴の縁が握りしめられて、
『アアアルバコアアアアアアアアアア!!!!』
「あ、あれはアルビオンかしら!?」
懸垂の要領でぐいっと姿を表したのは、さっき俺達が相対していた白いゴーレムだった。
「でもさっきよりちっこくない?」
全長40メートルはあったのに、いまは10メートルくらい?
その答えはアルバコアが教えてくれた。
「あれは大きな魔導ゴーレムのなかに、さらに小さな魔導ゴーレムが内蔵されているタイプなの。
どうやらさっき自爆したのは一番外の巨大な魔導ゴーレムの部分だけのようね」
……なにその合体ロボ。
古代文明の研究者はロマンに走り過ぎではなかろうか。
『アアアア……アルバコアアアァァ……』
なんにせよ、さすがに中身のアルビオンも無傷ではいられなかったらしい。
穴から這い出すとこちらへ向かってくる。
が、その姿はすでに満身創痍。
ボロボロになった表皮を剥離させながら、一歩、また一歩とぬかるんだ湖の底を歩いてくる。
操縦者であるクスィフィアスの意志に応えるように、確実に一歩ずつ。
なんてけなげな魔導ゴーレムなんだろう。
正体不明の魔導ゴーレムの接近にパニックになったのは冒険者たちだった。
「だ、誰かあいつが何なのか知っているやつはいないか!?
強さは!? 脅威はどの程度だ!? ここいる冒険者だけでどうにか――」
『アアアルバコアアアアアアアアアア!!!!』
冒険者の問いを遮るように叫んだのは、湖の中央に浮かぶアルビオン――クスィフィアス。
吠えるように天を仰ぎ、体を震わせる。
『アルバコアはドコダ!? アルバコアはドコニイル!?』
「お、おい。あいつぶっこわれたのか!?」
動きがなんかおかしい。
なんかやばいクスリをやったような感じといえばわかるだろうか。
見てる間にも、体の先端がビクビクと震えだし、その腕を向こうにある山に向け――っておい。
バヂバヂバヂ。ぴちゅーん。……。チュドオオオオオン!!!
「や、山が吹っ飛んだ!?」
向こうのほうにある山の頂上が影も形もなくなったんだけど!?
ちょ!? あれ、アバコビームより威力高くない!?
『アアアア……ワタシのシメイは……アルバコアを……』
あ。ビームを放ってちょっとは落ち着いたのか、クスィフィアスがガックリと項垂れてる。
『アァァァ……アルバコアアアアアアアア!!!』
と思ったけど、そんなことはなかった。気のせいだった。
「おい、アバコ。あいつぶっ壊れてない!?」
「あの魔導ゴーレムには乗った魔導人形の戦闘思考を暴走させる魔法がかけられているのよ。
一種の反逆防止ね。まあ、代わりに敵も味方も手がつけられない状態になってしまうのだけど」
基本的には敵地に送り込んで暴れさせて使うものらしい。
なにそのハタ迷惑な兵器。
「や、やばいぞ。あいつ、クレアボヤンスでも強さが測定不可……」
というのは遠見の水晶球(☆4)――相手のステータスを知るためのアイテムを使った冒険者だった。
クレアボヤンスはステータス判別アイテムの最高級――神級までの強さを判別できるので、あのアルビオンの強さはそれ以上ってことか……?
『アぁぁルバコアアアアア!!!!』
冒険者たちが真っ青になっていると、アルビオンが叫びながら湖のなかで四つん這いになった。
「壊れたの……かしら?」
アリッサベルが暢気に言うが、そんなわけがない。
その頭についた射出口のような部位にすさまじい勢いで魔力が溜まっていくのが見える。
「照準が壊れて定まらないから、この方角一帯を吹き飛ばす方向にしたみたい。ポンコツの割に頭を働かせたみたいね。
発射までは……あと10分ってところかしら」
「冷静に言ってる場合ですか!? ここにいたら危ないってことですよね!?」
「おい、お前ら! それは本当か!?」
目の前の魔力の高まりと、ウェンズディの悲鳴を聞いて、顔を真っ青にする周囲の冒険者たち。
「やってられるか、オレは逃げるぞ!」
冒険者の一人が荷物を持って、アルビオンが向いている方向とは逆方向――街の方へと走り出す。
それを責めるものはいない。
冒険者とは冒険しないもの。確実に勝てる相手以外に挑むなんてアホのすることなのだ。
「わ、悪いが俺も無理だ。あんなのに勝てるわけがねえ!!」
それに端を発して、冒険者たちが我先へと逃亡し始める。
「な、ナバルさん。わたしたちも逃げましょう!」
「そうかしら! 命あってのものだねかしら!」
ウェンズディとアリッサベルが言う。
もちろん、それが正解なんだろう。
だけど、
「おい。なんとかしてあいつを倒すぞ」
「しかたないわね。付き合ってあげる」
「二人ともなにを考えているのかしら!?」
何を考えているも何も、俺たちが発端な以上、逃げるわけにはいかない。「何をって……あいつを倒すのさ」
横に立ったアルバコアが俺に尋ねる。
「でも、言っておくけど、いまのアレにはわたしの魔導ビームは通じないわよ?」
言って、アルバコアが巨大魔導ゴーレムに腕を向け、
ぴちゅーん、バヂバチィ!
「あ、アバコさんのビームをはじいた!?」
「攻撃ユニットも何もない今のわたしだと、あの魔力障壁を突破するのはやっぱり無理ね。
発射までの時間を少しだけ伸ばすくらいがせいぜいってところかしら」
「なんですとぉ!?」
あわわ、と慌てるウェンズディ。
「あわわ。や、やばいですよ。ナバルさん! あれが発射されたら死んでしまいます!」
だが、俺はふっと笑った。
「ウェンズディ、お前はいったい何に怯えていると言うんだ」
「いや、あんなの見たら普通怯えますよ!?」
ウェンズディのパニックは仕方のないことなのだろう。
俺にしてもアリッサベルにしても、アルバコアにしても。
俺達はみな戦うことを己の役割として生きる者たちだ。
でも、ウェンズディだけは違う。
――だが。
「ウェンズディっ!!」
俺はまっすぐにガチャ妖精の目を見つめた。
このダンジョンに挑んでいたのはいずれも屈強なAランク冒険者たち。
逃げた者も、残っている者も、みな熟練の戦士たちだ。 そして、この場に残った戦士たちの視線が一様に言っている。 こんなときにガチャ妖精ごときに何の用があるのか、と。
そんな怪訝な空気のなか、俺はウェンズディの瞳をまっすぐに見つめ、その頭を撫でた。
「いまこそお前の真の力を見せるときだ」




