不運のなかにあっても嘆くことなく
「よーし、チェンジ! チェンジすることに決めたから!」
「あああああ! 助けてください! もう餓死寸前なんです!」
ウェンズディの最後の手段は泣き落としであった。
ぐすぐすと目頭を押さえながら、顔を伏せて必死で訴える。
さすがの俺もこれには罪悪感が――
ちらっ。「チッ」
こいつ。様子見て、泣き落としが通じないと見るや舌打ちしやがった……。
というか、
「餓死? え? ガチャ妖精って餓死すんの?」
この世界、人間がみんな冒険者である代わりに、街や村の運営は妖精さんという存在が請け負っている。
フィオの村に在住する妖精たちは大地からマナっていうファンタジーパワーみたいなの吸い取って生きてるから、てっきりそういうのとは無縁だと思ってたんだけど。
「はい。ガチャ妖精は村妖精とは違い、ガチャったときの1割を掠めて……じゃない。マージンとして頂いて生きてるんです!
ちょっと前にわたしと契約してくれてた最後の人が死んじゃって……。
ううう……草を齧って生きていくのももう限界なのです」
「……どれくらいで死ぬんだ?」
「いまから3時間後です。いえーい☆」
キラッ☆と笑顔でポージング。
ずいぶん元気のいい餓死寸前だこと!
「な の で 契約しましょう!
いまならなんと! おまけでウェンズディちゃんのスマイルを0KGでご提供ですよ!」
さて、ここで俺はどう対応すべきなのか。
その選択権は俺にあり、ガチャとは違って運頼りってわけでもない。
「……」
俺は改めて空を見上げた。
そういえば、転生前には俺もこうやって一生懸命営業してたっけ。それで不運で台無しにしてたっけ。
(考えるまでもないな)
俺は苦笑した。
「ったく、しゃーねーな……」
「ナバル! ほんとにこんなのと契約するの!? 考え直したほうが……」
バーバラが慌てて言うが、俺はにやりと笑って首を横に振り、「落ちつけ」とその鼻頭を押さえた。
「この世界に生まれて15年。俺には常々(つねづね)思っていたことがある」
「うん?」
「俺はすごい冒険者になりたいんだ」
いきなり何を言い出すんだ、とでも言わんばかりの表情を浮かべるバーバラ。だけど、俺は構わず言葉を続ける。
「だってさ。冒険者ってすごいと思わないか?
ガチャっていうのは引いてみるまで何が出るかわからないんだぜ?
10万KGをカキンしてもクズしか出ないかもしれない。100万カキンしても欲しい物が出るなんて稀だ」
「……」
俺の言葉に、みんな『なに言ってんだこいつ』みたいな表情。
そりゃそうだよね。知り合いがいきなりこんなこと言い出したら、俺だって病院連れてくよ。
でも、構わずに言葉を続ける。
「だっていうのにさ、世の中の冒険者ってのはそんなものに人生を預けて、この世界を冒険してるんだ。
俺は、それってすごいことだと思うんだよ」
期待と不安の入り混じる表情で見上げてきたウェンズディの頭を撫でてやる。
「たぶんだけど、すごい冒険者たちにとって、ガチャっていうのは『出るか出ないか』じゃなくて、『出すか、出さないか』なんだ。
不運のなかにあっても嘆くことなく、それでもなお自分を信じ、己の力で道を切り開いていく。
俺がなりたいのはそういうカッコいい冒険者――カキン戦士なんだ。だからここで可愛い女の子を見捨てるって選択はなしだ」
「な、ナバルさん……っ!」
俺の演説に感動したように、じーんと目を潤わせるウェンズディ。
対して半眼でじとーっと見るは我が幼馴染たち。
「で、本音は?」
「こんなに可愛い子にどうしてもって言われちゃ断れねーじゃん」
「うん、いつものナバルね」
失敬な! いまのは『いいハナシダナー。さすがナバルだな!』ってなるところだっただろ!?




