絶級すらもなかった
ヂヂヂ、ボンッ。
グレイト・ベヒモスは胴体に空いた穴から火花を発すると、小さく爆発を起こし、それきり動かなくなった。
最強と言われたわりには、あまりにもあっけない決着であった。
『……』
「……」
目の前の光景に対し、信じられないと言わんばかりに沈黙するクスィフィアスとアリッサベル。
「……さて」
そんななか、アルバコアがふぅっと髪を掻きあげた。
キューティクルよりもきれいな輝きがさらりと舞うなか、アルバコアはくすくすと笑った。
「いったい誰がちんちくりんなのかしら。ねえ、クスィー?」
でもその目は笑っておらず。
『ひっ』
投射機の向こう側で、ぺたんと尻餅をついたクスィフィアスが悲鳴を上げた。
だが、そこはすぐに矜持を取り持だしたらしい。
クスィフィアスはお尻をパンパンと叩き、立ち上がると、ごほんと咳払いをした。
『ま、まだ最下層をクリアされただけであります! 9階層のデアーズ・ウィンズなら……って、ぎゃー! 半分故障してるでありまーっす!?』
なんてダメなやつ……。
っていうか、古代文明の魔導人形ってポンコツぞろいだよね。
うちのポンコツの方は、グレイト・ベヒモスの奥に見える階段に向かって歩きながら「ふふふ」と笑った。
「ねえ、クスィー。久しぶりの再会をしたなら、きっと熱い抱擁を交わしてくれるのよね?
なにせ会うのが2000年ぶりで、わたしたち姉妹機だもの」
言って、アルバコアは階段の上の様子をうかがうと腕を伸ばし、
「は、半分故障していると言っても、デアーズ・ウィンズは拠点防衛のための――」
ぴちゅーん!
クスィフィアスの言葉を遮って、ビームが発射。
【コングラッチェレーション レベルが上がりました】
わーい。なにこの全自動レベル上げマシーン。
めちゃくちゃ楽なんだけど。
『あ、あわわ……最高の防御力を誇るデアーズ・ウィンズが……』
「ウェンズディ、スプレー」
「は、はいっ!」
まるで医者と助手がメスを受け渡しをするような呼吸で、ウェンズディがアルバコアに向けて修復スプレーをぷしゅー。
アルバコアの魔力は満タンだ!
「ほら、さっさと次に行きましょう」
カツーンカツーン、と階段を上がるアルバコア。
大人しくついていく俺とアリッサベル。
「……」
階段を上がりきるとなんということでしょう。
そこには戦うまでもなく破壊された、哀れなドラゴン型の魔導ゴーレムが。
たぶんこれデアーズ・ウィンズ。
半分故障とかそういうレベルじゃなく完全に破壊されてんだけど。
「で、デアーズ・ウィンズって……ドラゴンゴーレムの最上位種かしら!? 絶級どころかもうひとつ上の神級に出てくるモンスターかしらーっ!?」
「そういえば――絶級って意外と簡単なのね?」
にっこり笑うアルバコア。
「は、ハイかしら!」
直立不動で答えるアリッサベル。
さっきまでの先輩風はどこかに行ってしまって、もはや軍隊における新兵のような態度である。
というか、1階層1体のボス戦だけっていうのが俺たちに相性が良すぎるよね。
デアーズウィンズを倒して、こともなげに階段を上るアルバコアは天井にあるカメラに向かって天使のような微笑みを浮かべた。
「ねえ、クスィー。そこの階の魔導集音機で聞いているのでしょう?
さっき言ったことは本当よ? わたし、あなたに会うのがとても楽しみ。さっきも言った通り姉妹機だもの。
……でもね、こうも思うの」
『ひぃ……』
スピーカーから漏れ出た悲鳴を聞いて、アルバコアはにっこりとほほ笑んだ。
それは転生前を含めて、俺の人生のなかでいままで見たことがないほどに美しい微笑みだった。
「妹のおいたをお仕置きするのは姉の仕事よね」
――だから、そこでガタガタ震えて待ってろ。ぶっ壊す。




