いきなりボス戦
「むう。やはりあれは……グレイト・ベヒモスかしら」
「知っているのか、アリッサベル」
グレイト・ベヒモスを前にした俺たちはその存在感に圧倒されていた。
でかい。かたい。つよい。
いわゆる穴のないタイプ。どんな相手にも絶対的な強さを誇る敵。
脳みそにある本能の部分が「あれはやばい」とガンガンに警鐘を鳴らしている。
俺の問いにアリッサベルがうなずく。
「あれは……かつて古代文明が生み出した魔導ゴーレムのひとつで、冒険者の間では最強のモンスターとも呼ばれているかしら」
「最強、だと!?」
「ええ。聞いたところによると、エルドナという国で発掘されたグレイト・ベヒモスを起動させたことがあるらしいのだけれど。
そのときはAランク冒険者が10人死んだあげく、魔力切れで止まるまで誰も止められなかったというかしら……」
なにそのチートボス。
「そ、それじゃいまのわたしたちじゃ……」
ウェンズディが喉の奥から「ひぃ。…」と情けない声を絞り出す。
だが、そこは熟練の冒険者であるアリッサベル。
彼女はウェンズディの肩を安心させるようになでながら、
「落ち着くかしら。
……とはいえ、古代文明の遺跡にはあれが破壊された状態で見つかることもあるかしら。
決して倒せない相手じゃないかしら!」
「それはそうかもですが……」
「逆に考えるかしら!
まだグレイト・ベヒモスで済んだだけマシだって。
例えば、『白き蜉蝣』『銀髪鬼』なんて呼ばれた魔導人形は三日三晩にわたって古代文明の首都を焼き尽くしたというかしら!」
アリッサベルは戦慄する俺たちを宥めるために言ったのだろうが。
「古代文明を?」 byウェンズディ
「焼き尽くした?」 by俺
ぎぎぎと俺たちの視線の先にいるのは、しれっとした顔の『白き蜉蝣姫』で『銀髪鬼』ことアルバコア。
銀髪ロリ魔導人形は俺たちの視線に気づくと、コメントを求められていると勘違いしたらしい。
「あら。まあ。怖い人形がいたものね」
おめーだよ、おめー。
しれっと言ってるけど、間違いなくそれおめーだよ。
っていうか、ああ、国家の敵ってそういう……。
色んな意味で俺たちが戦慄していると、
『――アーハッハッハ! いい顔をしているでありますね。アルバコア!』
突如として広間に響く笑い声。
その笑い声の主はグレイトベヒモスではなく……広間に設置してある魔導スピーカー?
俺たちが思わず凝視していると、広間の天井にあった投射機が動いたかと思うと、光を発し、一人の女性の姿を投影した。
齢は20歳くらいだろうか。
全体的に大人モードのアルバコアに似ているモデル体型であるが、アルバコアとは若干毛色の違う黒髪黒目のきりっとした顔だち。
軍服のようなものを着ているのも凛々しさを醸し出すのに一役買っているのかもしれない。
「あなたは……!」
アルバコアが思わず驚いたように声を漏らし、その女性はアルバコアとは対照的に余裕ぶるように胸を張った。
『そう! このわたしこそはあなたの天敵、クスィフィアス! 正式名称クスィフィアス・グラディウス。
アルバコア!
あなたがこの世界に甦ったと知り、このわたしもまたこの世に舞い戻ったのであります!!』
――クスィフィアス・グラディウス。通称メカジキ。
いわゆるカジキマグロとかいうやつである。
いや、まあ。確かにクスィフィアスって、アルバコアを餌にしてる魚ではあるけどさ……。
『アーハッハッハ! さすがのあなたも驚いているようでありますね。
あなたもここに修復のためにやってきたようでありますが、わたしのほうが早かったのであります!』
勝ち誇ったように笑うクスィフィアス。
というか、
「……なあウェンズディ、古代文明の魔導人形ってなんで聞いてもないことをぺちゃくちゃしゃべりだすんだろうな?」
「え、えーと……2000年間さびしかったから、とかじゃないでしょうか」
クスィフィアスはドヤ顔のまま言葉を続ける。
『くくく。まあ、わたしも驚きではありましたよ?
わたしがここの6階層にある制御室を掌握したとたんに、ちょうどあなたが入り口にやってきたのですから!』
「ということはクスィー。あの落とし穴はあなたのしわざなの? 」
『そうであります!
ここは新兵器の開発のための魔導研究所で、そこは戦力評価室。
わたしのいる6階層――制御室にたどり着くまでには各階一体ずつ最強の魔導ゴーレムを倒して登ってこなければならないであります!!』
どうやら古代文明では最強という言葉が安売りされていたらしい。
挑発するようなクスィフィアスの言葉に、「へえ……」と大いに不機嫌になったのはアルバコアだった。
「この程度のできそこないに、わたしの相手が務まると、あなたはそう思っているのね。クスィー?」
『た、確かにグレイト・ベヒモスごときでは完全体のあなたには勝てないかもしれません。
ですが、どうやらあなたはセーフモードで動作している様子!
チンチクリンなあなたならば、このわたしが出るほどのことでもないであります!
チンチクリンのあなた相手ならば、グレイト・ベヒモスでお釣りがくるであります!!!』
アーハッハッハ。
何が面白いのかクスィフィアス大爆笑。
『それでは思う存分にやるであります! いけ、グレイト・ベヒモス!!』
その声に応えて戦闘を開始しようと、グレイト・ベヒモスがずずずと動き出す。
「我ヲ作リ給イシ祖国コソ世界イチィィィィッ! 我ガ祖国ニ支配サレルノガ全世界ノ幸福!!
賛同デキヌ者ハ地獄ニ落チヨ。我ガ使命ハ鏖殺デアルッ!」
「くっ。みんな! 勝ち目は薄いけれど、ここはわたしの指示に従うかしら! ベテランの冒険者の意地を――」
動き出したグレイト・ベヒモスを前に、アリッサベルも戦闘態勢。死闘の予感に冷や汗を流す。が、
「アバコ」
「ええ」
修復スプレーをぷしゅーっとな。
『アーハッハッハ……え?』
ぐぐぐ。
まるで某国民的ヒーローがキノコをゲットしたときのように大きくなるアルバコア。
そしてその腕に装備された魔導ビーム砲をグレイト・ベヒモスに向け。
バヂバヂ……ピチューン!
【コングラッチェレーション。レベルがあがりました】
「やったぜ。いえーい」
「こんなものね。いえーい」
レベルアップのアナウンスが流れ、仲良く両手でハイタッチ。
っていうか、こいつら経験値設定されてんのな。
アルバコアの魔導ビームに胴体を破壊されたグレイト・ベヒモスさんに合掌。
『「……え?」』
クスィフィアスとアリッサベルの呆然としたつぶやきが広間に響いた。




