ガチャ道とは修羅の道と見つけたり
「(おい、あれどうすんだ)」
「(どうするって言われても……不運ウェンズディだぞ?)」
俺たちはひそひそと顔を寄せ合い、真剣な表情で話し合っていた。
なにせ、この世界ではガキの頃の付き合いが血よりも濃く、知り合いの栄達は他人事ではないのである。
というのもこの世界、親子の情が限りなく薄い。
ガチャによって生活必需品を得るせいか、この世界では農業や商業といったものが壊滅的に発展していないのだ。
それはつまり、人と人の繋がりがほとんど必要ないということで……。
なので俺は父親の顔も母親の顔も知らない。
産んだら街や村に子供を任せてどっかに行く。それがこの世界の親子関係の常なのである。
そんなわけで、ガキの時代の付き合いは血よりも濃いとされる。
日本風に言うと、親が身元保証人にも連帯保証人にもなってくれないので、金がないときに頼れるものは友達だけなのだ!
実際、この村から巣立っていった先輩冒険者たちはKGを稼ぎ、たまに戻ってきては俺たちにうまいメシ(せいぜいレア度☆1か☆2だけど)を食わせてくれたり、修行をつけてくれたりしてくれてるしね。
そんなわけで、村の先輩や知り合いの栄達は他人事ではないのだ。真剣にもなろうというものである。
ちらっとウェンズディのほうを見やる。
広場のど真ん中で、俺たちの会議の結果を待つウェンズディはめちゃくちゃ不機嫌そう。
「知ってましたー。どうせわたしなんて要らない子なんですぅー」
俺たちの目の前で、ガチャ妖精のウェンズディが「ぶーっ」と膨れ面になりながら地面を蹴りとばした。
めっちゃグレていらっしゃる。
「(普通に考えたらチェンジでしょう)」
言ったのは悪友のバーバラ。
というのも、呼び出した妖精と相性が合わなかったときの救済処置として、ガチャ妖精は5回までなら再召喚可能なのだ。
(まあ、普通に考えたらそうだよな)
俺は改めてウェンズディを見た。
よく見ると着ているローブはほつれ、あまり手入れされていないのか髪のキューティクルもしゅーんとしている。
(最低人気か……)
俺は空を見た。
俺ってば転生する前ってどんな人生送ってたんだっけ。
なんていうか、他人事に思えないんだよな。
「チェンジでお願いします!」
でも、人生かかってるから仕方ないよね!
可哀そうだとは思うけど、不運と契約する=俺の人生も壊滅する、なのだ。
ただでさえ不運なのに、これ以上運を悪くしてどうする。
俺の言葉にウェンズディは「にこーっ」と笑みを浮かべた。
「え? すいません聞こえませんでした。もう一度お願いします。
あなたはわたしと契約してくれますよね? はい、いいえでお答えください」
「いいえ」
「え? すいません聞こえませんでした。もう一度お願いします。
あなたはわたしと契約してくれますよね? はい、いいえでお答えください」
「いいえ」
「え? すいません聞――「いいえ、つってんだろうがよぉっ!! どこの悪質キャッチセールスだよ!?」
「聞こえないって言ってんですよ!
だいたい、わたしのなにが不満だっていうんですか!?
ガチャでちょっとばかりレアが出ないだけじゃないですか!
そういう差別はいくないと思います!!」
「ガチャ精霊の存在意義ガン無視か、おお!? レアが出ないのは充分に理由だろうがよぉっ!!!」
「あーあー、聞こえなーい!
――ふふふ、知ってますか。チェンジってわたしが帰るまではできないんですよ? だから、諦めてわたしと契約するのです!」
「い や だ!!」
ギリギリギリ
互いに襟首をつかみ合う俺たち。
……ふう。
先に根負けしたのは俺のほうだった。
「そうか。仕方ないな」
ため息をついて手を離す。
「じゃあ――!」
満面の笑みを浮かべるウェンズディ。だがしかし、俺が代わりに手にしたのは冒険者カード。
「あー、神様? ガチャ妖精がチェンジに応じてくれないんですが……」
俺が声をかけたのは冒険者カードのステータスウィンドウの、その端っこの『神様に通報』と表示された部分。
この世界、割と簡単に神様にアクセスできるのである。
※悪用すると死ぬ。
「わーわー! やめてください! 神様に告げ口するのは勘弁してください!
ええと……ほら! わたしの悪いところばっかりじゃなくて、いいところも探しましょうよ!
そうだ! わたし、超可愛いじゃないですか!?」
「いや、そんなこと言われても……なあ?」
「不運はちょっと……」
俺たちが口々に不満を言うと、ウェンズディは腰に手を当てて人差し指を横に振った。
「チッチッチ。これだから人間さんは……。
いいですか? 例えばピックアップガチャで欲しいものがあるとしますよね? でも、あなたには100万KGしかないとします。10連ガチャ1回分ですね?
さあ! あなたならどうします?」
大きな身振りでバッと指さされたのは、12歳の少年デニー。
「えっと……。神様に祈ってガチャる?」
その答えを聞いたウェンズディは「oh」と大げさに肩をすくめた。
「ノンノンノン。違います。
よいですか。欲しいものがあるなら運などに頼らず、己の力で切り開くべきです。
よって、いまの正答は『黙ってモンスターをハントし、KGを稼ぎに行く』。
――そう! 100回ガチャッてもダメなら1000回、いいえ! 1万回試行すべきなのです!
ガチャ道とは修羅の道と見つけたり! わたしと契約するということはそういうことなのです!」
「いや、それはダメだろ!?」
「なんでですか!? いまのは『いいハナシダナー。よし契約しよう』ってなるところだったでしょう!? ぐぬぬ!」
俺が真顔でツッコむと、ウェンズディは喚きながら拳を振り回した。なんて賑やかなやつ……。