自らを無に溶け込ませることによって、ありとあらゆる攻撃を無効にすることなど、この俺にとっては児戯にも等しい。
「ええい。こうなったらやけくそかしら!」
俺のガチャ装備に圧倒されていたアリッサベルではあったが、そこはさすがBランク冒険者と言うべきか。
「でええい!!」
気合を入れたかと思うと、まっすぐに踏み込んで果敢に俺に攻撃をしかけてきた。
速い!
魔法少女と言っても、格闘系のほうの魔法少女であるらしい。すさまじくキレのある動き!
「あ、やばっ!?」
からかうのに調子にのりすぎてて、完全に虚を突かれた形になってしまった!
「これが実力差というものかしら!」
アリッサベルが勝利を確信し、会心の笑みを浮かべる。
唸る鉄拳。
ひぃ。あんなの食らったら死んでしまう!
「――おっと。危ない」
ひょい。
だがしかし、完全に虚をついて放たれたはずのその攻撃を、俺はいとも簡単に避けてみせた。
「……。え?」
ぱちくり。
腕を伸ばした姿のまま、思わず目を丸くするアリッサベル。
それはそうだろう。
いまの攻撃は、誰がどう見ても完璧なタイミングと角度だったのだから。
唖然とするアリッサベルに対し、俺は挑発するように笑みを浮かべた。
「ふっ。どうした? ピックアップガチャでピックアップ以外のレアが出たような顔をして」
「ま、まぐれで避けたのを偉そうにしないで欲しいかしら。今度こそ食らうかしら!」
「あ、やばっ!?」
今度は闘技場の砂に足を取られて体勢を崩したところにアリッサベルの攻撃が迫る!
あ、これ死んだかも。
「やっぱりさっきのはまぐれだったかしら!」
ふたたび勝利を確信したような笑みを浮かべるアリッサベル。が。
「おっと、危なーい!」
ひょい。
「なっ!?」
だがしかし、またしても避けてみせる俺!
あまりにも華麗な避けっぷりに、観客席のウェンズディも大興奮。
「ナバルさん、すごいです! いつのまにそんな回避技術を!?」
わはははは、もっと俺を褒めろ。
とはいえ、もちろんこれは俺の隠された実力が発揮されたというわけではない。
「ウェンズディ、あまりはしゃぐな。これはお前のおかげでもあるんだぜ?」
「わ、わたしのですか?」
「ああ、そうだ。
見よ! この装備の効果を!」
俺は冒険者カードにセット効果を表示させ、手に掲げた。
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バニーボーイセット
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【セット効果】
幸運といえばバニー! バニーといえばガール!
しかーっし! この世界は男女平等なので、ちゃーんと男性用の装備も用意してあるのです。
女性諸君。きつめの網タイツが生み出す筋肉の艶やかさを堪能せよ。
ただしセクハラ厳禁。異性はおさわり禁止です。
&このセット効果を発動すると、KGを得たときに4倍になります。みなさん半裸生活をエンジョイしてくださいね!
(ダンジョン途中の付け外しで無効)
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おわかりいただけたろうか!
そう、この装備!
なんと異性からの物理接触不可という効果がついているのである!
「つまり……このルールにおいて、相手が異性かつ物理攻撃のみの場合、俺は完全に無敵なのだああああああ!!」
「ぶー!?」
「ウェンズディ! お前の選んだこの網タイツといい、海パンといい、素晴らしい締付け&効果だ!
ほんとにお前は最高のパートナーだぜぃっ!!」
ちなみにウサミミカチューシャは『男がウサミミとか(笑)』とかいう理由で不人気だったらしく、100年前に廃止されたため現在入手不可である。
「その変態装備を、わたしがお膳立てしたみたいな言い方やめてください!?」
ウェンズディが顔を真っ赤にして否定するが、ふふ、謙虚な奴め。
――というわけで。
「覚悟はいいか。アリッサベル」
俺はビシィっとポージングをしながら、改めてアリッサベルと対峙した。
くくく、今の俺にとっては、自らを無に溶け込ませることによって、ありとあらゆる攻撃を無効にすることなど、児戯にも等しい。
「くっ……」
覇王のオーラすら纏って距離を縮める俺。
そんな俺に気圧されて後ずさるアリッサベル。
もはや、この場において、どちらが主導権を握っているかなど言うまでもない。
だが、そう簡単に敗北を認められないのが冒険者。
アリッサベルは悪あがきをするように、悲鳴のような声をあげた。
「そ、そんなことを言っても! あなたの攻撃だってわたしに通じないかしら!?
しょせん武器でもない、☆1のアルミ製のトレイではわたしの防御を――」
「だからどうした」
「え?」
俺は言いながら、指をワキワキさせてアリッサベルに接近する。
確かに俺の攻撃力は低い。☆5の魔法少女装備にはダメージが通らないだろう。
だが……だからこそ可能な攻撃手段がある!
「……」
無言で接近しながら指をワキワキ。
「あ、あの……ナバル……さん? まさか、そんなひどいこと……考えてない……かしら……?」
「……」
顔を引きつらせるアリッサベル。
「ひっ……」
だいたい何をされるかわかってきたらしい。その眼尻に涙が浮かぶ。
「ち、近寄らないで……」
「くはははは! 泣いても叫んでも許さん!
お前はこの観衆の前で、俺の慰み者になるのだああああああ!!!」
とう!!
「「おおおおお!!!」」
闘技場にいる紳士諸君がその光景を想像し、思わず歓声を上げる。
これはあくまでもPvPの最中に発生した不幸な事故であるゆえ、エッチな意図はございません!!
俺の魔の手が、アリッサベルにかかろうとし――
「ぎぶあっぷ。ぎぶあーーーーーっぷ!!! だから、助けてかしらああああああ!!!」
ちぃっ! 惜し――もとい、ふっ。勝利とはいつも虚しいものだな!
アリッサベルの降参の声に、賭けを外した冒険者たちの悲鳴と、むふふな光景を見損ねた紳士たちの残念そうな呻きがあがる。
だが、わかってくれ。
俺だって、このワキワキさせた指の行き場を失って、とても悔しいのだ。
「……ねえ、ご主人様?」
そんななか、俺の勝利を讃えようというのかアルバコアが歩み寄ってくるのが見えた。
なんだかんだ言って、気が利く奴である。
俺は拳を振り上げ、英雄の風格をもって「ふっ」と笑いかけた。
「見たか、アバコ。ご主人様の勇姿を」
それに対して、アルバコアはにっこりと笑い返し、
「ええ、歯を食いしばりなさい。ご主人様」
賭け札が試合場の空を舞うなか、アルバコアが俺を殴り倒した。




