魔法少女(25歳)
ハルベルの冒険者ギルドの隣には試合場がある。
冒険者同士で模擬戦をしたり、先輩冒険者が後輩冒険者に対して戦闘技術を教えたりするための場所だ。
(低ランク冒険者への指導も高ランク冒険者の義務のひとつなのだ)
「おー、新人がんばれよー」
俺が準備を終えて闘技場に顔を出すと、そこにはたくさんの妖精さんたちや冒険者たちが待ち受けていた。
どうやら酒の肴にでもされるらしい。
妖精さんが「いまはオッズ7対3でーす。みなさん賭けてくださいなー」なんて言いながら周囲の連中からカキン額を巻きあげているのすら見える。
そんな試合場の中央で、
「恐くなって逃げたんじゃないかって思ったけど、よくきたかしら。根性だけはあるかしら!」
ドヤ顔で待ち構えていたアリッサベルが「かしらーっ!」と笑った。
さっきまでと赴きの違う恰好だが、どうやら戦闘用のガチャ装備に着替えたらしい。
ピンクと白を基調としたリボンがいっぱい散らばっているふりふりの衣装。
前髪は星型のアクセサリーのワンポイント。
後ろ髪は現実離れした大きさのリボンでツインテール。
その手には謎のきゃぴっとしたステッキが握られ、くるくると回したかと思うと、右手の指をぴっと立ててキラッ☆とポージング。
「いいかしら。ならば、このわたしが相手をしてあげるかしらっ!
超級ダンジョンに挑んだこともある、この偉大なるアリッサベル様の実力を思い知るといいかしらっ!」
うわ……。
「きっつ」
簡単に言うと、魔法少女とかいうやつ。
……いや、いい。魔法少女の存在はいい。100歩譲ってアリだとしよう。
だが、しかし――この女。御年25歳である。ババア無茶すんな。
「きついって何かしら!?
――はっはーん! あれかしら。この☆5装備を前に嫉妬が隠し切れないのかしら! そうかしら。そうに違いないかしらー!」
「ちげーよ! 25歳の女がその恰好をしてることがきついって言ってんだよ!」
ここは秋葉原のコスプレ会場か。ドチクショウが!
だが、アリッサベルは「ふっふーん」とドヤ顔を浮かべた。
「これを見てもまだそんなことが言えるかしら!? さあ、見るかしら。この偉大なる冒険者カードを!」
渡された冒険者カードにはいま装備している魔法少女装備のフレーバーテキストが表示されているけど、なになに……
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魔法☆少女『ぷにフラ』
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レア度:☆☆☆☆☆
♪大空をかけるその弾丸のようなその姿。空を超えて星のかなた。だけど、頭についているアクセサリーは星じゃなくてヒ・ト・デ♪
そう、魔法のあとの☆は星じゃなくてヒトデなの。
夏も冬もなく、どんな季節も半袖ふりふりミニスカート。理不尽な強さでこのふざけた世界を駆け抜ける♪
風邪を引くなよと人は言う♪
でも大丈夫。だって装着者はバカだから。触れるな危険。不審者の通報は冒険者カードからどうぞ。
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「……」
オレは空を見上げた。屋根のない試合場から見る空はとても青かった。
アリッサベルもつられて空を見上げた。遥か遠い空にはスカイ・ドラゴンが舞い、鳥型モンスターを襲っていた。
「なあ、アリッサベル?」
「ふっ、何かしら」
オレがにこっと笑うと、アリッサベルもにっこり笑った。
オレはにこっと笑ったまま、手に持ったオレの冒険者カードを高く掲げ、
べちーん。
無言で地面に叩きつけた。
「ちょっ!? なにするかしらー!?」
「この世界の神々への、反逆……かな?」
魔法少女が☆5装備とかふざけんなよ、バカ野郎。
っていうか、せめてそれが似合うやつに引き当てさせろよ。
25歳・身長160センチの魔法少女とか『どこにそんなババアがいるか』案件だよ。ぜんぜん似合ってねーよ。
「なにちょっと格好つけて言ってるかしら!? ぜんっぜんかっこよくないかしら!? やってることは最低かしら!?
そういうあなたの装備は――」
アリッサベルが改めて俺を見て「へえ……」とつぶやいた。
俺のほうはと言うとウサちゃんバスタオル(☆1)を3枚ほど纏って全身を隠した姿で入場している。
「どうやら、装備を隠すだけの知恵はあるみたいかしら?」
アリッサベルが言うのは対人戦の鉄則だ。
この世界、ガチャアイテムには様々な効果があるので、できるだけ隠すのが良いとされているのだ。
なので、ウサちゃん柄のバスタオルで全身を隠していようが、誰も笑うことなど――
「ねえ、ウェンズディ! あれ超ださいんだけど! あいつ、あれ本気でやってるの?! ぶふー!」
「わ、笑いすぎですよ。アバコさん! その気持ちはよくわかりますけど! ぷーくすくす」
なんで身内だけが笑ってんだよぉぉぉぉ。ちくしょおおおおおおおおおおおおお!!!
あいつら、あとでぶんなぐる!
……まあ、いい。
とりあえず勝てば官軍。なんでもいいのだ。
「では戦闘を開始しますがよろしいですか?」
俺とアリッサベルの間に立つのは受付をしてくれてた妖精さん。
どうやら最後まで付き合ってくれるらしい。
やはり俺の腰くらいの背の高さだが、さっきまでと違いタキシードっぽい服ときりっとした表情でちょっと出来る女の空気を醸し出している。
「ルールはいわゆるダメージ戦です。一定のダメージを受けるか、ギブアップで終了です。よろしいですか?」
妖精さんは俺とアリッサベルの間に入って、互いの同意を得ようとする。
これがこの世界における標準的なPvP。生死をかけた戦いではなく、一定ダメージを受けたら終了というやつだ。
……まあ、どこぞでは血を血を争うような悪趣味な賭け試合もしてるらしいけど。
「ああ、問題ない」
「こっちも問題ないかしら――にしても、さすがにウサちゃん柄のバスタオルで装備を隠す奴は初めて見たかしら。笑えるかしら」
アリッサベルがバカにしたように笑うが、本気で言っているわけではない。
戦闘開始直前のわかりやすい挑発だ。
あわよくばこれで冷静さを失ってくれればいいというだけの。
だがしかし、俺のほうも酸いも甘いも嗅ぎ分けた転生者。
そんな挑発に引っかかるほど若くはない。
「では、はじめてください!」
妖精さんが試合開始を告げるとともに、俺は不敵に笑った。
「……ふっ。笑いたくばいくらでも笑うがいい。しかし、俺の装備を見てなお笑えるかな?」
「舐めないでほしいかしら。
わたしがいったいどれだけの間、冒険者をしてると思っているかしら。
どんな装備が出てきても平常心。それこそが一流の冒険者の条件かしら!」
「いいだろう!
ならば見よ、俺がこの戦いのために選びぬいたガチャ装備を!」
開始の合図とほぼ同時、俺は纏っていたウサちゃんバスタオルをバッと投げ捨てた。




