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Bランク冒険者が戦いを挑んできた!

「わたくしはアリッサベル。Bランク冒険者かしら」


 その女は、ツカツカと俺に詰め寄ると自己紹介から始めてくれた。

 背は160センチくらい? 170センチの俺よりは頭一つは若干低いが、この世界の女性としてはだいぶ大柄な部類にはいる。


 歳は25歳くらいだろうか?

 金髪碧眼。どこぞのお嬢様かと思うような縦ロール。

 いかにも自信ありげな強気な表情だが、この年齢でBランクだというのだから、実際に強者なのだろう。


「あ、あのお二方? ここでいざこざは――」


 あたふたしながら俺とアリッサベルの間に割って入ろうとしたのはウェンズディだった。


 それもそのはず。


「――人間さん? ここでの人間さん同士の争いはご法度(はっと)ですよ?」


 ウェンズディの言葉を遮って、首を傾げたのは受付の妖精さん。


 あ。やばい。

 前にも言った通り、妖精さんは正のマナが満ち溢れた場所――街の中なんかだとめちゃくちゃ強い。


 もしもここで暴れ出したりしたら、間違いなく街から叩きだされて出禁になってしまう。


 この街は周囲にダンジョンをたくさん抱えているので、いまの段階で出禁になるのはきつい。


 アリッサベルのほうも妖精さんの圧力に一瞬だけ、顔を真っ青にする。

 が、だがしかし、そこは矜持が勝ったらしい。

 ごほんと咳払いをすると、ふんっと鼻を鳴らした。


「こ、これはケンカなんかじゃなくて、先輩冒険者としての純粋な忠告かしら!

 いいこと!? Aランクっていうのは、ただ強ければいいってものではないかしら。

 何かの奇跡で条件を満たしたとしても、実力がないうちはやめておくかしら!」


 続けて、アリッサベルは「スタートダッシュで運良くUR装備を手に入れていたとしても、壊れたらそこまでなんだから」と言ってくれた。


 ああ、なるほど。スタートダッシュガチャでUR装備を手に入れたと思われていたのか。


 彼女の言う『壊れる」とはガチャ装備の耐久度のこと。

 ガチャ装備には耐久値が設定されていて、それを過ぎると壊れてしまうのだ。(それを回復するのが各種の耐久度回復アイテムなのだが)


 運よく高レアの装備を手に入れたとしても、実力がなければ破損したときに一気に戦力ダウンするってことを心配してくれているのだろう。


 日本を例に挙げるなら、前年の所得税が住民税にかかってくるようなものだと言えばわかりやすいか。

 泣いても笑っても、Aランク冒険者に課せられた義務がまるで借金のように押し寄せてくるのである。


 なるほど……。わざわざ忠告してくれるってことは、よくあることなんだろうな。


「あ。この人は放っておいて手続きを進めてください」


「ガッテン承知!」


 でもそんなの関係ないね!

 俺がお願いすると、妖精さんはぴゅーっと書類をもって裏のほうへと走っていった。


 他人の冒険者ランクうんぬんに口を出すなんて、余計なお世話。

 それに、Aランクへの申請が可能になる条件はさっきの通りだけど、そもそも通るかどうかはわかんないし。


「ナバルさん、ナバルさん」


 ちょいちょいと袖を引っ張ってきたのはウェンズディ。


「もしもAランクが通ったらどうするんですか?」


「そうだな。いっちょ上級ダンジョンに挑んでみるか」


 この世界、上級以上のダンジョンに挑むためにはそれなりの冒険者ランクが必要なのだ。

 そう! Aランク冒険者なら上級よりもさらに難易度の高いダンジョンにだって挑むことができるのである!


「上級? ふふ、ちょっとワクワクする響きじゃないの」


「だろ? 修復スプレーもまだ大量にあるから、アバコも思う存分暴れてもいいぞ」


「ナバルさん、上級ダンジョンをクリアしたらあれですよ! そろそろ一回くらいプレミアムガチャ回しましょうよ! いまの勢いなら一個くらい☆3が出る気がするのです」


「おう、クリアできたらな!」


「ええ、わたしに任せなさい。ウェンズディ」


「わーい。ナバルさんもアバコさん大好き!」


 夢が広がるね。


 俺達のパーティー全員、すでにAランクになった気分。

 審査結果がまだだって? いいじゃないの。宝くじと同じようなもんで、こういうのは夢を見てなんぼなのだ。


 と。


「ちょっと!? 無視するんじゃないかしら!」


 バシンバシン。

 アリッサベルが俺が座っている椅子の背中を叩いてくる。


 なんて無粋なやつなんだろう。

 妖精さんに警告を受けたんだから大人しくしてりゃあいいのに……。


「そんなことより早く上級ダンジョンいきたいなー」

「そうですねー」

「ふふ、楽しみね」

「か、完全に無視かしら!?」


 ええい。声をかけてくるな、バカたれ。

 こういう輩は無視するに限る。


「あの……」

「そうそう、ハルベルの近くには超級ダンジョンがあるらしいぜ。いっそのこと上級どころか超級までいっちゃうか!」

「をを! それは素晴らしい考えですよ、ナバルさん!」

「……その難易度設定ってどこまであるの?」


「無視しないでかしらぁ……。ぐすん……」


 こいつ、ケンカ売ってきたくせに泣き始めやがった!?


 ははーん。さてはこいつ、ボッチだな。

 でも優しくなんてしてやんない。

 無粋(ぶすい)なやつはボッチをこじらせて死ね。


 やがて待つこと数分。


「はい。お待たせしましたっ!」


 さっきの妖精さんがカウンターに戻ってきたかと思うと、水晶玉のようなものをドンっと俺の前に置いた。


 あまり見たことがない道具だけど……。


「これは?」


「神様との交信のための道具ですよー」


 妖精さんいわく、Aランクになるためには例の条件の他にも、神の許諾が必要なんだとか。


「Aランク候補にまでなった人が、ダンジョンで無理して死んじゃったらとても悲しいですから、神様が直々に判断してくれるのです」


 なるほど。


「それでは神様カモン!」  


 言って、妖精さんがむにゃむにゃと何かの呪文を唱え、バシーンと斜め45度で叩く。

 いや、ブラウン管のテレビじゃあるまいし……。


 だが、その心配は杞憂(きゆう)だったらしい。

 水晶は金色の光をペカっと放つと、空中に文字を描き出した。


【サクラ5分咲き】


「これは?」


「はい。条件付き承認出ましたっ! これから発表される条件を満たせば、晴れてAランクです!」


「お、おお?」


 もともとダメ元の申請だったので、なんか嬉しいね。

 だって試験で試す程度には能力が認められたってことだし。


「では、試験内容の発表です。だららら……」


 口でドラム音を再現する妖精さんが、一瞬だけ口をつぐんだその瞬間、水晶がピカっと空中に新たな文字を描きだす。


【Bランク冒険者と試合をし、勝利せよ】


 ……しあい?


「はい! ナバルさんにはこれから指名される方と試合をしていただいて、勝利していただきます!

 えーと、お相手は――」


 妖精さんが水晶を操作すると、空中に描かれた金色の文字が砕けて粒子となる。

 その粒子は、まるで何かに導かれるようにフワフワと漂い、


 その光の先は――アリッサベル?


「わたしかしらっ!?」


「はい。アリッサベルさんもちょうどAランク申請をされていましたよね。

 勝ったほうがAランク冒険者ということでOKとのことです!」


 うわ……。なにそのめんどくさい展開。

 それならいっそのこと、不合格にしてくれりゃあいいのに。


「ふ、ふふふ……」


 不気味な笑みに振り向くと、そこには暗い笑みを浮かべたアリッサベル。


 うわ。めっちゃ怖い。


 ドン引きしていると、アリッサベルはビシィッと俺たちに指を突きつけた。


「ちょうどいいかしら!

 このわたし直々にお相手をしてあげるかしら!」


 やだ。勝っても負けても超めんどくさい展開になる未来しか見えないんだけど。


 な、なにかいい方法は……。そうだっ!

 俺は知らぬ存ぜずを決め込んでいるアルバコアの袖を引っ張った。


「なあ、アルバコア。お願いがあるんだけど」


「なによ? あれの相手をしろって言うならお断りよ?」


「デスヨネー」

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