とりあえずAランクで
「ようやくたどり着きました! ここがハルベルの冒険者ギルドです!」
ダンジョン崩落事件の2日後。
俺たちはこの国最大の街の冒険者ギルドにたどり着いていた。
ああ、そうそう。
この国を統括しているのは、精霊王フィンブルニド。
通称、春風の精霊と呼ばれる存在で、大陸の最西端に位置するこの国は『春を呼ぶ』って呼ばれている。
そのハルルメイラの三大都市のひとつが、このハルベルだ。
街全体を囲っているのはモンスター避けの大きな白い壁。
いったいどこまで続いているのか、その端はここからでは確認できない。
その規模も流石だ。
妖精さん人口10万を誇る大都市だけあって、めちゃくちゃ広い。
美しい水の流れを湛えるのは、外界と街とを区切っている堀。
どこかの川の水が流れ込んでいるのかその流れは爽やかで、川遊びでもしたくなる。
流れはそのまま海へと流れて行って、湾港には他の国から来たのであろう大型帆船がいくつも係留されていた。
ファンタジーに出てくるような美しい城塞都市って言えばわかりやすいだろうか。いや、それ以上だ。
妖精さんの街だけあって、生活臭のないどこか幻想的な雰囲気に満ち溢れている。
さらにその奥には引退した冒険者たちが生活しているマイハウスエリアが見える(もちろんマイハウスもガチャアイテムである)。
そんな街の、冒険者ギルドで。
「おー! すげえ、大都会じゃん!」
「思ったよりも発展しているじゃないの」
俺たちは初めて見る大都会にオノボリさんよろしくはしゃいでいた。
いや。ほんとすごい。
地球で言うなら大神殿って言うのが近いかな?
まるで王侯貴族の持ち物かと思うような壮大さだ。
遥か高い天井は大理石のような美しい柱に支えられている。
その赤地の天井には純金で描かれたらしい立派な装飾が施されている。
受付口から続く通路は赤い絨毯が敷かれていて、俺たちはそのふっかふかを踏みしめながら、歩みを進める。
その先には妖精さんたちによる冒険者受付。
俺の腰ほどの背の高さの妖精さんが「つぎ、どうぞー」なんて案内してる姿は微笑ましく見える。
整理券を受け取ると……俺たちの番まであと5組くらいかな? ふー、わくわくしてきたぜ。
俺の興奮が伝わったのか、ウェンズディが首をかしげる。
「ナバルさん、ずいぶんと期待に満ちた顔をしてますね?」
「そりゃそうさ!
この冒険者ギルドはこの国でも最大級。船を使って国外に行くクエストだってあるらしいからな」
ここでひとつ白状すると、俺は転生前に海外旅行をしたことがない。
それどころか、国内旅行すらせいぜい高速バスを利用した程度で、フェリーにも乗ったことがない。
そんなわけなので『帆船で海外への旅』というシチュエーションには大興奮なのである!
「なるほど、そういうことですか。
ふふ、ナバルさんにも初心者らしいところがあったんですね」
うるせえやい。
「それにここで冒険者登録を済ませさえすれば次は宿決めだろ?
もしも宿ガチャで特級を当てれば、すさまじいサービスが受けられるらしいじゃないか」
先輩冒険者の話だと、宿ガチャでは1%の確率でロイヤルスイートルームが排出されるらしい。
そのサービスはこの世のものとは思えないような酒池肉林の宴なんだとか!
普通のガチャだとウェンズディ限定だからどうにもならないが、宿ガチャの主幹は宿を経営している妖精だ。
むしろ、普段が不運なぶん、揺り戻しでいい部屋が出たっておかしくない!
おお、我がハーレムはここに見つけたり!
ふひひ。期待で思わず顔がにやけるな。
「それだけじゃないぞ。この街は港町だから世界中の食べ物が集まるんだ。
メシだってびっくりするほど美味いんだぞ。
そうだ、ウェンズディ! 久々に草以外のものが食べれるんだぞ!?」
「ををを! それは素晴らしい情報ですよ、ナバルさん!
ふひひひ。だったら、なにを食べましょう!」
なんて期待を胸に騒いでいると、俺たちの番がやってきた。
「はい、どうぞー。
あ、人間さんは冒険者ランク未登録ですね?」
冒険者ギルド受付の妖精さんがつぶらな瞳で首をかしげる。
俺の腰くらいの身長の女性の妖精。
小学生がママゴトをしているみたいで可愛らしい。
「そういえばナバルさんは、まだ冒険者ランク登録してなかったですね」
冒険者ランクとはAからDまで指定される、冒険者としての等級だ。
15歳で冒険者カードを得た時点では未登録。
普通はその後のスタートダッシュガチャで出たアイテムでランクを決めてしまうのだが……。
本来は俺もスタートダッシュガチャを終えたあと、村の大妖精からランクの登録をしてもらうべきだったのだが、なにせあの状況だったからね。
なので俺はまだ未登録。真っ新な状態なのだ。
「人間さんは希望ランクはありますか?」
ちなみにこの冒険者ランク。
それが通るかどうかはさておいて希望ランクの申告をすることができる。
なので俺は言った。
「ああ。Aランクで頼む」
「ぶーーーー!?!?」
「どうしたんだ、ウェンズディ。唾なんて吐いて。
汚いじゃないか」
「いや、ナバルさん!? エーって言いましたよね!? デー、じゃなくてエーですよね!? 一番上のやつですよね!?」
「ああ。Aだぞ?」
「いや。そんな『それがどうしたの?』みたいな表情で言わないでください。
ランクは希望申告ありって言ってもですよ?
Aランクの条件は、『装備にURが含まれる』ことか、冒険者カードに『1億KGを資産として貯蓄している』ことか、あるいは『直近1ヶ月のカキン額が500万』だとか……あ」
「ふっ。気づいたか。ウェンズディ」
そう! 俺はダンジョンをクリアしたあの日、日用品ガチャを10600回回すことでその条件を満たしていたのだ!
っていうか、まるでクレカのVIP適用の条件みたいだよね。これ。
さあ。
俺の要望を聞いた妖精さんの反応は。
「はーい。承りましたー。処理の申請をしますので少々お待ちくださいね!」
かっるーい。
もっと『ゲゲエ、Aランク!?』みたいな反応してくれると期待してたのに、なんかがっかりだな。
そんであれだ。『ぼくなんかやっちゃいましたか? てへぺろー』『さすがナバルさんだ。さすナバ!』みたいなのを想像していたのにね。つまんないね。
なんて思ってたそのときだった。
「あ、あなたのような新人がAランクですって!?」
代わりと言うのもなんだけど、俺の期待に応えてくれたのは、行列待ちをしていた20歳くらいの女性(人間)だった。




