ハロー、古代文明
「他の魔導人形より状態がいいな」
俺たちは石碑の中から魔導人形を掘り出し、まじまじと観察していた。
半壊してはいるものの、外に放置されていた他の魔導人形と違い、だいぶん状態がいい。
やはり壊れているようで動く様子はないけれど。
モデル体型とでも言えばいいのだろうか。手足はスッと長い。
銀色の髪の毛は長く、触れてみると光が反射してキラキラと輝く。
真っ白な肌はなめらかだけれど、金属っぽいということもなく、触ると人肌独特のしっとりした感触が返ってくる。
3DCGで造られたような、どこか不自然さの感じるほどのキレイさとでも言えばいいのだろうか。
ものすごく人工的な美しさだ。
「でも、こんなものになんの用です?
確かに美人さんではありますが」
これが目的だったと言われて、ウェンズディが不思議そうに指で人形を突つっつく。もちろん人形が動くことはない。
「古代文明の遺産って、それだけでロマンがあるだろ?」
オレもペタペタと胸部や顔を触ってみて人形の状態を確認する。
よし。これならば――
オレが満足げにうなずいたのを見て、ウェンズディが首を傾かしげた。
「……でも、これってただの魔導人形じゃなくて、兵器なやつですよね?」
その言葉にオレも首を傾げた。
「いや、愛玩人形だが?」
「ぶー!?」
「ええい、汚い。唾を飛ばすな!
……まあいい。ここまできたなら教えてやろう。俺の真の目的を!
俺の目的とはずばり――モテモテになってハーレムパーティを作り出すことなのだぁぁぁっ!!!」
男の子の夢がいっぱい詰まったキャッキャウフフなハーレム!
せっかく異世界に転生したのだから、目指さなきゃ嘘ってもんだよね!
「そしてその手始めとしてメイドな人形娘をハーレムに加えるべく、俺はこのダンジョンの攻略計画を練っていたのだぁぁぁぁっ!」
我が異世界人生の目標に一片の曇りなし!
なんてピュアな人生設計なんだろう!
だというのに、ウェンズディは俺を批難するように指をつきつけてきた。
「最低です! ナバルさんは最低のクズ人間さんです!!
というか、修復スプレーで修理できるのはガチャアイテムだけでは!?」
「くくく。知っているかウェンズディ。
初期版の『修復スプレー』なら古代の道具すら修復することができるんだぜ!
ビバ! ガチャ! ビバ! 古代文明!
さよなら、彼女いない歴15年! ようこそ、マイスゥイートハーレムぅっ!!」
理解していただけるだろうか!?
スタートダッシュガチャで修復スプレーを得たときの感動を!
修理の仕方に悩んでいたときに現れた奇跡。まさに天啓!
異世界に転生した理由とは、ハーレムを作るためと見つけたり!
スタートダッシュガチャとさっきの日用品ガチャで手に入れた修復スプレーを実体化させ、両手に持つ。
準備は万端。「さあ、吹きかけるぞー」と勇む俺。
ふはははは! 見える! 見えるぞぉっ!
もうすぐ、夢にまで見た『了解しました。我が主』とか言って、俺に傅く忠実なメイドが俺のものとなるのだ!
「スたぁぁぁぁっぷ!! そんな貴重品をなんてもんに使おうとしてんですかぁっ!?」
どげしぃっ!
ドロップキックで俺の邪魔をしたのはウェンズディ。
「人形相手にモテたからっていったいどうなるっていうんですか!? ナバルさん、正気に戻ってください!」
「ええい。邪魔をするな、ウェンズディ!
俺は人形相手でもいいからとにかくモテたいのだ! 具体的に言うと……たゆんたゆんなおっぱいを揉みしだきたいのだぁっ!!」
「邪魔しますとも!! なにがたゆんたゆんですか!?
さっき『ちょっとかっこいいな』って思ったわたしの純情を返してください!」
「うっせえ! お前にモテたいと思う男の気持ちがお前にわかるか!? 筋トレしすぎて女の子に『筋肉気持ち悪……。うわぁ……』って言われる男の気持ちがわかるのかぁっ!?!?」
「血の涙を流すほど!?
いや、そもそも! ナバルさんはこれを愛玩ドールって言いますが、これたぶん兵器なやつですよ!? 腕の裂け目からちょっと銃身っぽいの見えてますし!
愛玩ドールって、どこ情報ですか!?」
「俺を信じろ! 俺はこう見えてインテリだぞ」
にっこり笑ってサムズアップ。
さっき胸を触った感じ、ぼいんぼいんな感じに修復されそうだったし。間違いなくこれは愛玩人形。絶対に間違いない。
「嘘です! 嘘乙です!
落ち着いてください! これは絶体やばいやつですよ!?
あなたの低俗な夢で世界が超ピンチになりかねないんですよ!?」
「安心しろ! ついでに古代文明の謎も解き明かしたいって思ってるし!! ほら! 超高尚じゃん!!」
「ついでの夢のほうがなんで壮大なんですか!?
真剣に古代文明の謎を解明してる冒険者さんたちに殴り殺されますよ!?
安心できる要素が欠片もありませんっ!!
却下っ! あなたの夢は却下です!!!」
「だいじょぶだいじょぶ。暴走したら俺が口説いてやんよ!
大丈夫だって! 昔から人工物はチョロいヒロイン――略してチョロインだって相場が決まってる! だから、俺を信じろ!」
「どう考えても不安しかないです!!」
なんと失敬な妖精だろう!!
さっき「ナバルさーん。大好き!」と言ってくれた、あの可愛らしくポンコツだったガチャ妖精はどこに行ってしまったのか。
俺は……とても悲しい。
「まあそんなことはどうでもいいや。隙をついてプシューっとな!」
「ほあああ?!」
ウェンズディの隙をついて、両手にもった修復スプレーを人形に吹き付ける俺。
目を見開いて驚き、俺を盾にするように避難するウェンズディ。
「……」
「……」
しばしの沈黙のあと。
「……動きませんね?」
ウェンズディがふぅっと安堵するように息を吐いた瞬間だった。
――ギギギ
人形の関節が動き出し、軋む音がした。




