待ちに待ったガチャ解禁日
「みんな、俺はついに15歳になったぞっ!」
俺が目の前にいる少年少女たちに宣言すると、彼らはおざなりにパチパチパチパチと拍手を送ってくれた。
ここはフィオの村。
これといった特徴のない牧歌的な村だ。
俺たちが集まっているのは村の広場で、これまた特徴のない分厚いヒノキでできたテーブルには普段は見られぬ馳走が並び、それはさながらお誕生日会のよう。
(いや、誕生日会で合ってるのか)
それは、俺がこの異世界に来てから15年という時間が経ったと言うことでもある。
――異世界。
空を飛ぶ船が行き交い、超常の魔法やモンスター蔓延るファンタジーな世界。
こちらの世界に来た当初は、ファンタジックな世界に心を踊らせたものだ。
だがしかし、冒険者になるには年齢制限があるため、ずっと我慢させられていたのである。
そしていま。
「お前ら! 俺のガチャ解禁日だっていうのに、なんそんなにおざなりなんだよ!?」
「だって……なあ?」
「『もずく酢』のナバルだし」
ぐぬぬ!
なんと友達がいのない奴らだろう!
だが、それも仕方ないのかもしれない。
確かに俺はこれまで不運だった。
朝食ガチャではいつももずく酢。昼食ガチャでもいつももずく酢。夕食ガチャでもいつも……。
そう。
この異世界はガチャで回っている。
食料品も、日用品も、装備も、ありとあらゆるものは神々の奇跡『ガチャ』で得る。
モンスターを倒すことや、ダンジョンやクエストをクリアすることで、『KG』というポイントを得ることができ、そのKGでガチャを回す。
それがこの世界の人間の生活形態――つまり人類皆冒険者な世界なのだ。
――笑えよ、お前ら。
この身はもずく酢で出来ている。
だがしぁっし!
冒険者用のガチャが解禁される日こそが15歳の誕生日!
つまり、今日が俺の冒険者解禁日なのであるっ!
「ナバル。ついにやるのね! スタートダッシュガチャを!」
集まったうちの友人たちの一人――幼馴染のバーバラが、感極まったように声をあげ、俺は「うむ」と鷹揚にうなずいた。
「おう。やらいでか!」
俺はビシぃっと親指を立ててサムズアップ!
周囲の少年たちもなんだかんだ言って、やんややんやと囃し立てる。
そして懐から取り出したるは銀色の冒険者カード!
某交通系カードくらいの厚さと大きさの代物だ。
15歳になったときにもらえるもので、今日もらったばかりのピッカピカの新品!
表面に手を滑らせると、青い光が輝きだして情報を表示する。
表示されているのはKGの残額や、過去にクリアしたクエストの情報。
現在表示されているKGはもちろん0。
カキン額ゼロってやつだ。
1回10万KGも必要なプレミアムガチャどころか、一番安い1回100KGの食料品ガチャすらも回せやしない。
だけど、一つだけ例外がある。
それが『スタートダッシュガチャ』だ。
ここでURが出れば未来の栄光間違いなし! とでも言うべき人生の節目。
それがこの世界における【成人】であり【スタートダッシュガチャ】なのである!
(たぶんきっと、ここまでの不運はこのための試練だったのだ。そうに違いない!)
俺は天高く手を掲げ、願った。
「出でよ、ガチャ妖精! 我が栄光の道標!」
カッ。
俺の声に応えるように天空からまばゆい光がが舞い降りてくる。
「おおぉ、あれがガチャ妖精……」
ガチャはガチャ妖精という存在を通しておこなわれる。
世界には数千万人のガチャ妖精がいると言われ、だいたい1妖精あたり契約している人間の数は100人だとか。地味に激務である。
「ウェンズディだけは来るな。ウェンズディだけは来るな」
降りてくる光を前に、集まった少年少女たちが呪文のように唱え始める。
基本的にこの世界におけるガチャは確率で排出される。――とされてるんだけど、どういうわけか妖精によっては確率が偏るため、人気妖精と不人気妖精がいるのだ。
いわば、この最初のガチャ妖精との契約こそが、一番最初のガチャと言ってもいい。
ちなみに最高人気は幸運請負人クルチャ。
最低人気は不運ウェンズディ。
「……きた!」
ずどおぉぉんと地面に光が突き刺さり、もうもうと土煙が立ち込める。
「……」
みながゴクリとつばを飲み込む。
「これが……ガチャ妖精っ!」
土煙が晴れ、現れたのは俺の腰の高さくらいの小さな女の子。
いたずら好きそうなつぶらな瞳。透き通るような白い肌。うっすらと青い髪。群青を取り入れた白いローブのような服はちょっとだぼだぼで、それが愛らしい。
「……」「……」「……」「……」
ガチャ妖精はみなの注目が集まるなか、すっくりと立ち上がり、
「ちゃお! みんなのアイドル! ラッキー・ウェンズディちゃんです。よろしくねっ!」
可愛らしくきゃぴっとポージング。
「……」
俺は空を見上げた。
どこまでも澄み切った、遠く、青い空だった。
俺はガチャ妖精――ウェンズディに向かってにっこりと微笑みかけた。
彼女もニコッと笑った。可愛かった。
お互い満面の笑顔になったところで一言。
「チェンジで」
「なんでですかァっ!?」
彼女は飛びついてくると、俺の襟首をつかみながら「きぃーっ」とガクガクと揺さぶった。