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5)実食(加熱編)

 割とボロクソな事を書いてしまった生食編だけど、別に不味くはないんですよソデイカ刺しは。

 薄味なだけです。(キッパリ)

 だから「クセが強い食い物は苦手だよぅ。」とか、「刺身は余計な味が付いていない”コンニャク”を以て最上とする。」という人には好まれるんじゃないだろうか。


 一方で、エンペラや脚は煮物になんか加熱調理すると、不思議と味が湧いてきて、正直かなり美味い。

 煮物にするのなら皮を剥かなくて良いから、スゲー楽でもありますし。

 スルメイカに比べて煮た時の匂いもマイルドだから、「シーフードは、味は好きなんだけど臭いが……ちょっと……。」という人にもオススメだ。


 料理人の方が言うには「バカイカは、熱を掛け過ぎると硬くなるからね。コツはサッと仕上げる事! それさえ間違えなければ、大丈夫。」との事です。

 実際、かぶや大根と一緒に煮てみたら「えっ? これ、刺身だと味がしないソデイカなの?」ってビックリした。蕪・大根にもイカの味と香りが沁みて旨し。


 手順としては、蕪もしくは大根を下茹でをして、じっくり火が通ったのを確認した後、酒・みりん・醤油で味付け。(お酒は下茹で段階で投入しておいてもいい。その辺は好みで、どうとでも。)

 面倒だったら下茹でした後に、湯を一部捨ててから麺ツユをドボドボしても可だ。

 刺身で食べた時に味も香りも薄いから、カツオ出汁入りの麺ツユだとイカが負けそうな気がするかも知れないけれど、脚やエンペラを皮付きのままで使うせいか、力不足は感じないよ。

 カツオ出汁の燻製臭が嫌いなら、近頃流行のアゴ出汁(トビウオ出汁)の麺ツユを使えばいいだろう。

 自作するにしても既製品を使うにしても、煮汁の味は薄めが良いように思う。


 で、煮汁がグツグツしだしたら、ソデイカの脚やエンペラを入れ、ひと煮立ちするかしないかというタイミングで火を止める。

 火を止めたら、アツアツの内に小鉢か深皿によそって、煮汁をかけて味わおう。

 プリッツプリですよ。熱々のプリプリ!

 ある程度までは弾力があって歯を押し返そうとするんだけど、邪魔にならないところでスッと繊維が切れる。例えて言うなら炊き込みご飯にした松露しょうろの食感。松露と言って分かり辛ければ、あ~……八宝菜の中のエリンギが近いかも。

 取り皿に煮汁を入れた状況で味わっても、味が薄過ぎるなぁと思ってしまうんだったら、皿に醤油か麺ツユを足してしまえば問題無い。味を濃くするのは後からでも可能だけれど、初めから塩辛いのは修正か難しいからね。

 それに、煮直して「サッと仕上げる」というには程遠い「十二分に火が通った」状況で食べても、言うほど硬くはならなかった。ゴマメとか塩昆布くらい難無く食えますよ、という人ならば全然問題無い。煮詰めても煮詰めても、消しゴムより硬くはならなそうだ。


 脚とエンペラはそんな風だが、肝心の身の部分はというと「天婦羅で最高」っすよ。

 まず何と言っても、『天プラに揚げていて、油跳ねしない』!!


 ほら、(料理の上手な人には何の問題にもならないのかも知れないけれど)イカ天揚げる時って怖いじゃないですか。

 キッチリとキッチンペーパーで水気を取っても、油に入れたとたんにバチバチって煮えた油が四方八方に飛び散るっていうね……。

 なぜか私がやると、何時もそうなるんだよ。本皮の下の薄皮までチャンと剥いでも、そんな感じ。ヘタクソなんだろうよ。否定はしない。

 (ちなみに揚げ物をやってみて、今まで一番怖かったのは、生のキクラゲを中華鍋で油通しした時。切れ目を入れておかなければならないのを知らなくて、キクラゲが風船みたいに膨れ上がって来た時には、現場放棄して退避しようと思った。)


 それがですよ! ソデイカの身を揚げる時には、全く何の問題も無い!

 油に投入したら、バチバチッではなくジュワ~です。幸福。

 ちょうどサツマイモの天プラや、豆アジの唐揚げを作っているのと同じくらい、心穏やかに料理を楽しめるわけです。

 防爆型のグローブボックスも、耐熱手袋+保護眼鏡も必要無いんだ。これは大きいよね。


 で、衣が揚がったらサッサとソデイカ天は油から拾い上げる。

 生でも問題無い食材だし、熱を加え過ぎない方がよいからだ。油切りしながら、余熱で中まで火を通す感じだな。


 口に含むとフワッフワだぞ。何コレ?! イカ天じゃないみたい。

 いや油で加熱している分、ナマよりもイカの香気と味わいは増しているんだが、食感が良い意味でイカ天という概念を裏切ってくるんだ。

 シフォンケーキみたいと言ったら良いのか、外郎ういろうみたいと例えたら良いのか。


 塩で行っちゃってもヨゥゴザンスが、出来れば天つゆで味わいたい。

 そしてビールだな。

 うん。日本酒や焼酎よりビールだ。

 けれどもアルコール類より、最も合うのはメシなんじゃないだろうか。


 大どんぶりに熱々のメシをよそい、ソデイカ天を惜しげも無く大盛りにして、天つゆをタップリ降り注がせる。上に刻み海苔をパラリと行っても合いそうだ。

 香の物は野沢菜みたいな青菜系で。しば漬けも良いかもしれないけど、沢庵はちょっと違う。自己主張が強烈過ぎるキムチは論外か。刺激系が欲しいのなら、小ナスの辛子漬けは意外に合うかも知れない。


 揚げたてアツアツのソデイカ天は、ふゎんふゎんした食感が非常に特徴的で面白いが、冷めると若干硬さを増す。

 別に極端に不味くなるわけではないけれど、揚げたての至福を味わった後では、物足りなさを感じるのも事実だ。

 なんだかねぇ、ジューシーさが消えるっていうか、ほとばしるソデイカ汁が失せてしまったのだよ。

 意地悪な例えをするならば、軟らかめのロウソク?


 ソデイカの肉は、ラップに包んで冷凍庫に放り込んでおけば日持ちするんだから、一度に大量に揚げようとせす、食べきれる分だけその都度ごとに天プラなりフライにするのが良いだろう。

 これが私の結論だ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ここからは蛇足。


 ソデイカの身肉はアツアツの天婦羅を以て至上となす、と結論した私だが、自分で天プラを揚げながら、かつ同時にメシを食うというのは結構難易度が高い。

 広々としたダイニングに小型の卓上フライヤーを持ってる御大尽様とかさ、優しいベター・ハーフが目の前で揚げてくれるのを食べるだけ、などという恵まれた人生を送っている幸福者を除いたら。


 そうすると『冷めても美味いソデイカ料理』を試行錯誤したくなるじゃないか。

 「足らぬ足らぬは工夫が足らぬ」だ!


 そこで注目したのが『辛子酢味噌あえ』だ。

 イカゲソや茹で蛸の脚なんかでは、分葱わけぎの「一文字ぐるぐる」を添えたりして、定番の一品ですな。

 毒さえなければ雑草でも食えるという、最強の調味法だ。


 冷めても美味いとか看板を掲げておきながら、食材の個性を戦車の履帯で引き潰すような調理を選んだのは私の弱さの表れなんだが――まあ、確かに喰えはします。

 喰えはするんだが……食感はかなり変だぞ。


 試しに酢味噌を付けない、お湯でさらっと茹でて冷水に晒しただけのイカサイコロを食べてみると

――味は、砂糖もバニラエッセンスも加えていない、卵白のみの素メレンゲのよう

――食感は、硬くも無く、かと言って弾力に富むわけでもない生落雁なまらくがんのよう

という、メチャクチャ無個性なのが逆に強烈な個性とでも評すべき、スゲー変な材料になっていた。

 もしかしたら、湯通しする時には真水でなく昆布出汁で煮るとか、水に晒さないで熱い内に食べるとかしたら別の感想が生まれていたのかも知れんのだが、私の頭の中には「面白いやん!」という感動が生じていたのだ。

 (まあ、四コマ漫画にするならば、例の『余計な事ひらめいた!』のAA付きなのは間違いの無いところ。)

 「これ、糖質レスでタンパク質リッチなスイーツに出来るんじゃないかぁ?!」


 そこでカロリーゼロ甘味料に見立てたガムシロップを、少量垂らしてみると――なんだろう? 出来損ないの「すあま」?

 次に細かく刻んで、カロリーゼロ炭酸飲料に見立てた普通の炭酸飲料に加えると――Oh! 寒天入り清涼飲料水みたいじゃないか!


 ……そして、このあたりで正気に戻るわけです。

「俺はいったい、何をしているんだろうか?」


 道は遠い。


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