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4)実食(生食編)

 ソデイカは「生のままでは硬く、一度、冷・解凍してから料理すべし」と書いてある事もあるけれど、実際に捕まえて食べてみると、捕獲したその日に刺身に切っても硬くはなかった。

 ――と言うよりも、巨大ななりにも関わらず、ヤリイカの活け造りは勿論、一度冷凍をかましたコウイカよりも柔らか。軽く前歯で噛んでみても、特に抵抗感も無く歯が入って「あれっ?」って拍子抜けするような感じである。

 薄く削がずにサイコロ大に切った一片を齧ってみても、やわらか~なナタ・デ・ココだぞ。


 但し『味が薄い』!! いや薄いというか……

 醤油も塩も着けずに口に含むと、なんちゅうか……無味に近い?


 「淡白な味わい」と評価される白身の刺身って色々あるけれども、普通は淡白な中にも一本の旨味はクッキリ通っているでしょう?(「えべっさん」というアダ名を付けられている標準和名テンスみたいな、ね?)一本ではなく複雑なハーモニーになってる、キジハタ(アコウ)みたいな濃厚な旨味の白身もあるし。

 でもソデイカの刺身は「淡白過ぎにも程が有るだろ!」って愚痴ぐちりたくなる、脱イオン水レベルのキッパリとした味の砂漠だ。いさぎよいっちゃあ、潔いのカモ知れんが。


 けれども塩なり醤油なり、塩味の調味料を付けると隠れた甘味が立ち上がって来る。

 白い台紙の上に白の折り鶴を置いても目立たないけれど、黒い台紙の上に白の折り鶴を配置すれば目立つようなものか。塩味がソデイカの刺身の甘味の背景になるわけだね。


 この微かな甘味、不思議な事に粗塩よりも醤油、それも生醤油よりワサビ醤油で食べた方が分かり易い。

 ワサビにはワサビ自身の持つ甘味があるから、味わう時には邪魔されてしまいそうな気がするのだけど、舌はちゃんと糖質系の甘味とアミノ酸系の甘味を見分けてくれるから問題無いみたいだ。


 ただしワサビで味わう時には、刺身の上にワサビの固まりを乗せるより、ワサビを少量醤油に溶かしてしまうワサビ醤油を作った上で食べる方が(個人的な好みにもよるんだろうが)美味いかな?

 ソデイカ刺しの場合、刺身にワサビを乗せる方法だと、ワサビの存在感というか、鼻に抜ける刺激が大きくなり過ぎてしまうのだ。

 刺激が大き過ぎるという意味では「唐辛子醤油」や「ポン酢」も同様で、味蕾みらいの感知能力が一時停止するのかソデイカの味は分からなくなってしまう。

 ソデイカの刺身は、暴言すると新ワカメの湯引きよりも存在感が希薄だから、酢味噌やショウガ醤油、ニンニク醤油や柚子胡椒は論外だぞ。(まあ単にソデイカ刺はプラットホームと認識して、調味料の味を味わうと考えるならアリ。)


 この傾向は活けのソデイカ刺のみならず、冷蔵庫で寝かせても一発冷凍をカマした場合でも、大して変わりは無かった。

 確かに冷凍してから解凍した身肉の方が、更に柔らかくなるのは確認出来たし、若干ながら甘味も増しはする。

 けれども刺身の甘味・旨味を増そうとするなら、糸造りなり微塵切りにして表面積を増やす方法の方が有効だと……言ってよいのかなぁ?

 大根の千六本を作るときみたいに細々刻んでしまうと、歯応えは完全に消えてしまうので、こりっとした食感を好む西の人間には物足りないだろう。

 逆に「活けの身の締まりなんて、舌で味わうには硬くて邪魔なんだよ。食い物は何でも、腐敗寸前のぐにゃぐにゃ軟らかいのが最高なのさ。」という顎弱系アズマオトコや、入れ歯になって硬い食べ物が不如意になった御長寿のかたなら泣いて喜ぶのかも。


 オイラの独断と偏見で物申すのなら、刺身で食べるのならば、エンペラとか耳とか呼ぶひれの部分がオススメである。

 泳ぐのに使われるために筋肉が締まっていて、歯応はごたえもシッカリしているし、味も胴体部分より凝縮されている。

 エンペラの刺身は、口に含んでみて如何にも「安定したイカ刺し」ちゅう感じですな。

 薬味もワサビだけでなく、タカノツメや針ショウガ、大葉だって通用する。

 ソデイカのガタイが大きい分、エンペラも広いのでタップリと刺身が取れるのも嬉しい。(片側の一枚分だけで、ヤリイカ一杯分相当の量になるよ!)

 ただエンペラを刺身にする時には、『皮がメチャクチャ剥き難い』というワン・アンド・オンリーの問題点が有るにはある。


 「釣り師とイロゴト師は一見似ているが、指先を見れば一目で区別が付く」という格言が有るけれど、理系の人間だとイロゴト師でなくとも爪は短く刈り込んでいるのが普通なので、ソデイカのエンペラの皮を剥くには頭に血が昇るゾ。

 もう、いっその事「ワイヤーブラシでこすり倒す」とか「グラインダーを当てる」とか「TEM用スライサーで削ぐ」とかの代替手段に走りそう。

 これはね――エッセイ書いてる本人が口走ることじゃないのは重々解っちゃいるけど――正解が分かりません。

 剥け残りの皮は無視! くらいに割り切るしか無いんじゃないか?

 耐水ペーパー(伝家の宝刀)で磨いたところで、多分身が崩れて透明感を失い「ああっ!」って頭を抱える事になるのはマチガイ無いと思う。

 どうせ消化器系に送ってしまえば溶けてしまうんだから、己がタンパク質分解酵素の力を信じて

「我が養分と成れぃ!」

と不敵に笑って、剥け残りごと食べてしまうのが良いんじゃないだろうか。


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