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2)ソデイカとは(たぶんアナタも食べている!)

 イカは大雑把おおざっぱに分けると、コウイカやモンゴウイカ(カミナリイカ)みたいに銅の中に平べったくて固い骨(フネなどと呼ばれるヤツ)を持った『コウイカもく』のイカと、スルメイカやヤリイカ、アオリイカのようにフネを持たない筒状の胴体の『ツツイカ目』とに分けられます。


 ソデイカは『ツツイカ目』のイカで、フネは入ってないし五体もデカいので、可食部(食いでのある肉)が多いイカだと言えます。


 一枚目の写真を見て「こんな変なん、食ったことねぇし」と冷笑した人も居るかもしれないけれど

えて言おう。それは認識不足であると!』


 ……ソデイカはね、実はみんな食べた経験を持っているハズなんだよ。

 それとは知らないまでも。


 回転鮨で『イカ』をチョイスした時、「身はモンゴウイカっぽく見えるけど、ちょっと薄味な気がするなぁ?」なぁんて思ったことは無かったかい?

 天ぷらの『いか天』で、「すげぇ分厚いけど硬くない。ふわっふわで馬鹿ウマ!」なんて舌鼓をうった経験は無いかな?


 それらは多分、このソデイカなんだわ。

 外食以外でも量販スーパーで、分厚い『冷凍ロールイカ』みたいな姿にされて御対面していることも有るんだよ。

 漁獲量は沖縄方面の暖かい海なんかで、結構多く獲れるものらしい。

 産卵時期も「ほぼ年間を通して」という”大らかさ”みたいなので、春に産卵床を沈めて捕獲するコウイカや、近頃その年ごとの産卵数が問題になってる函館名物スルメイカみたいな種類とは、一線を画している感じでありますな。


 イカ漁専門の漁師さんに訊くと、「あっちでイカというと、だいたいはソデイカだねぇ。」なんて答えが戻ってきて驚いた事がある。

 なんとなくだが、沖縄・奄美の海のイカといったら「コブシメ」とか「巨大アオリ」のイメージがあるからだ。(釣り好きの勝手な感想です。)


 日頃からソデイカが餌として食べている獲物は「それこそ何でも」らしくって、魚・エビ・カニどもドンと来いだし、自分より小型のイカも捕食対象なのだとか。


 山陰沖ではこのソデイカを、樽をウキにした延縄はえなわ漁で獲るから「タルイカ」という地方名も持っている。その時の餌はサンマやイワシの一匹掛けらしいですぞ。

 遊漁船でもタルイカを釣らせる船があり、専用の巨大スッテ(イカ用掛け鈎)や、巨大餌木(イカ用疑似餌)も販売されている。

 鈎がかりさせると、「ブリなみに猛烈に抵抗する」とかで、一度経験すると病みつきになっちゃうそうだ。ちなみに私は未経験。

 竿もゴツくて、大阪湾岸の冬の名物といえばシラサエビ(モエビ)餌のヒイカの夜釣りなんだけど、その繊細な仕掛けと比較すると思わず笑ってしまうくらい大きさが隔たっている。

 例えて言うなら「野鯉釣りのブッコミ仕掛けVS寒タナゴの脈釣り仕掛け」――いや、これでは釣りをしない人には伝わらないなぁ――「洋弓VS楊弓」みたいな感じでしょうか。

 (念のために解説しておきますと、楊弓というのはお座敷遊びで使用するちっちゃな弓の事。究めるのには、時間とお金とを湯水のように注ぎ込まなくてはならないらしいから、ご注意を。何が悲しゅうて舞妓さん相手に、30㎝サイズの弓矢でキャッキャせねばならんのか。)


 この標準和名「ソデイカ」というイカ、「タルイカ」という勇壮な二つ名の他にも「アカイカ」「バカイカ」なぞというニックネームを持っている。

 「アカイカ」の方は、写真を見て頂ければ分かるように体色が赤いから。


 だけども「アカイカ」という標準和名を持つイカは別にいて、そいつは「ゴウドウイカ」という通り名の方がメジャーかも知れない。

 ちょっと太めのスルメイカっていう外見のイカだ。店頭に並ぶ時には皮を剥かれて冷凍イカになっているのがほとんどだから、食べている割にはそれと認識していないという点で、ソデイカとも似ている(形状でなく扱いがネ!)のかも。


 また刺身がウマ~なケンサキイカも、赤い色のせいでアカイカと呼ばれたりする。

「旦那、今日は良いイカが入ってますよ!」

「オウ、握ってくれ。で、大将、何イカだい?」

「へい。アカイカの野郎で。」

という遣り取りがあった場合の「アカイカ」は、多分ケンサキでしょう。ややこしいね。


 一方ちょっと可哀想な気がする「馬鹿イカ」というアダ名は、ソデイカの生態に由来している。

 ソデイカは前述したように南海の巨イカだから、黒潮や対馬暖流に乗って九州・本州にやってくる個体は、ロウニンアジ(GT)の幼魚みたいな死滅回遊である。

 (死滅回遊ちゅうのは、春から秋の間に暖流に乗ってやってきて姿は見せるけれども、冬の寒さに耐えられずそこで繁殖も越冬も出来ないで死んでしまうっていう回遊のこと。でもロウニンアジの幼魚いわゆる『メッキ』は、本土沿岸では越冬出来ないとされていたが、発電設備を持つ巨大工場の排水路なんかにはメーター級にまで育ったヤツがウヨウヨしていたりする場所があるという。)


 まあ、その「寒さに弱い」というウルトラ戦士みたいな弱点のために、ソデイカは冬になるとボ~っと岸辺で揺蕩たゆたっているのを発見されてしまうことが有るんですね。

 だから少々失礼な「馬鹿イカ」なんてアダ名を付けられちゃうんですな。

 特に人気ひとけの絶えた冬の海水浴場なんかでは、波打ち際に力無く転がってエンペラだけをペタンペタンと動かしているヤツなんかがいるものだから、『馬鹿イカ拾い』という趣味のターゲットになったりする。


 馬鹿イカ拾いのシーズンになると、早朝の海岸にはバケツと玉網を持ったハンターがウロウロとしていたりするわけだが、地方ニュースで取り上げられるのは2月ごろのことが多いから、僕は馬鹿イカ拾いのメインシーズンは、ずっとその時分だと思っていた。

 けれども今回、自分で捕獲に成功したのは年末のことだし、その時ギャラリーの老漁師さんからは

「年末にまで馬鹿イカが回っているのは珍しいなぁ。」

と言われてビックリした。

 ――え? 馬鹿イカ拾いって、これからシーズン・インするんじゃないの?

 だって、海水温が下がる(あるいは上がる)のは、おかより1ヶ月半から2ヶ月遅れるっていうのが海釣りの常識なんですよ。海水温がキーンと下がり切って秋の釣りが成立しなくなるのは、だいたい成人の日を過ぎたあたりから。

 けれども「いや、馬鹿イカを見かけるのは、10月から11月だねぇ。年末なんかには、滅多に見なくなるよ。」というのが、ベテラン漁師さんの見解だった。


 無知(もしくは誤認)とはオソロシイものである。

 クロダイ釣りやスズキ釣りのハイ・シーズンには、アタリが無くても

「釣れねぇなあ!」

なんてブ~垂れていずに、目を皿のようにして海面をサーチしていなければならなかったのだよ!


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