甘い目論見
星明りの元俺は資料作りにいそしんでいた。
本日の資料は今日、この晩しか利用できないのだ。
封印の呪の名手といわれた人物だが、そのため、自分の著作にも封印をかけまくっていたのは少々いただけない。
文字の並びで呪印を作っているため複製も封印が解けない。それも全ページ。
どんだけ暇人だったんだ。
それでも呪については第一級の人物だったので、そのための資料を集めなければならない。
封印が解けるのは星の並びが既定の範囲にある間だけ。それを調べるためにどれほどの時間がかかったか。全く一流だからこそできることではあるが。
さもなければそんな手間誰がかけるかというところだ。
星の並びが変わったら読めなくなるので、俺は要点をサクサク書き写していた。
しかし、星の並びや天体が作用する封印は結構多い。もし、オリエンテーリング中にその星の配置にならなかったら封印など反応しないかもしれない。
だとするとサイカニアにいいところを見せられないかも。
それは困る。サイカニアと距離を詰めるためにはできる男にならなければ。せっかく頼ってくれたのに。
ペンを握る手が震える。
いや不吉な想像で手を止めるな。とにかく最善を尽くすんだ。
俺は雑念を払い、資料作りに邁進した。
ティランの伝記を資料として持っていくことにした。図書室で同じく資料を探しているサイカニアの姿を見つけた。
「持っていく資料は二人で決めたほうがいいんじゃないかな」
そう言って俺は伝記を見せる。やはり持ってきた資料の重複は避けたい。何せ旅に出るのだ。荷物は少ないに越したことはない。
「そうですね、資料が多すぎるのも問題な気がしますね。だってどれをもっていけばいいのか迷ってしまって」
背の高い書棚を見上げてため息をつく。
「持っていける資料の数も決まっているしね」
鞄の容積は決まっている。容積以上の量が入って軽いマジックバックなど学生の身で持てるはずがない。
ましてや数日間泊まり込みだ。そのための着替えその他も持ち込まなければならない。
そう数日間泊まり込み。サイカニアと数日間泊まり込み。
ニヤニヤしそうになる頬を慌てて引き締める。
旅行じゃないんだ、これは研修だ。とはいえサイカニアと二人きりという妄想はとどまることを知らず俺の脳裏を跳ねまわった。
「そちらの専門書はいいんですか?」
サイカニアに尋ねられ、俺は我に返る。
「要点だけはすでにノートにまとめてありますので」
それに持って行っても役に立たない本だし。
そしてふと気が付いた。今日は図書室、すいてますね」
普段は結構人が多いはずの図書室は閑散としている。これからオリエンテーリングに向かうとなればもっと人が多くてもいいはずなのだが。
「そうでしょうか」
サイカにははなぜか怪訝そうだ。
「ほかの人とも相談できればよかったんですけど、クラスしか教えてもらえなくて」
サイカニアは聞き捨てならないことを言い出した。
「ほかのクラス?」
「ええ。三人追加だそうですよ」
俺の甘い目論見が見事に砕け散った瞬間だった。