天才たち
カレンダーにうきうきと丸を付ける。
俺は満面の笑みで手帳を閉じた。
「おい、お前さ、まああの」
アデロがなんだか挙動不審だ。
「どうかしたのか?」
小柄で目立たない容姿のアデロはいつもいかにもおどおどとした物腰で、はっきり口を利くことはあまりない。
「あの子、どういう付き合いだ?」
アデロの後をモノが続ける。
「あの時から友達になったんだ」
俺はにこにこと笑って答えた。
今は友達だが、友達で終わるつもりはない。友達から始めようだ。
なんだか妙にこいつらの様子がおかしい。ランチでは俺に気を聞かせて彼女と二人きりにしてくれたのかと思ったが。
少し気になって問い詰めようと思ったが不意にモノが窓の向こうを指さした。
「あ、あれ、もしかしてアグスティニアじゃないか」
アデロがモノの指先にいる女性に気が付き息をのむ。
中庭に金髪の絶世の美女がいた。
アグスティニア・リガブエイ、俺達より二学年上の女生徒であり、この学園で知る人ぞ知る才媛だった。
成績が首席であるのは言うまでもないが、本来卒業後にとるはずのいくつかの資格をすでに最終学年に到達する前に取得しているとか。
さらに魔力量もけた違いに大きく。通常の魔法使いでは十人がかりでも彼女の魔法を受け止めることはできないという話も聞いていた。
さらにさらに、国でも五本指に入りそうな名門で金持ち貴族の生まれ。
天に愛されまくっている女性だ。
その傍らに背の高い男がいる。額の上にかき上げられた黒髪、鋭い灰色の瞳。そして生徒ではなく魔法兵団の制服を着ている。
あれがレヴィアタン・メルビレイ。おととし卒業た先輩であり、魔法学校創立以来随一の天才といわれている。怪物それ以外の形容詞はない。顔は整っているが。
「何だよあのツーショット」
モノがあまりに珍しい二人に思わずつぶやく。
「珍しいな、魔法兵団の団員が学校まで来るなんて」
レヴィアタン氏は一年で実力を買われ、すでに管理職になっているらしい、本当に天才という生き物は理不尽だ。
「もしかして、あれかな」
アデロがそう言って別の校舎を見た。
「俺らの同学年でさ」
そういえば聞いたことがある。あの二人に匹敵するような非常識な生き物が俺らの同学年にいるとか、確か何て名前だったかな。
「オリエンテーリングで、なんか難しい課題を取ったとか言っていたし、その激励かねえ」
「奇跡の人か」
モノはそっと俺を見た。
まあ、俺には関係ないし、ああいうけた外れの存在とはあまりかかわりたくない。
同じ人間とも思えないしな。
俺は俺、平凡な秀才として、それなりの人生を送れればいいんだよ。
当座の目標として、それなりの普通の女の子が傍にいてくれればそれでいい。
オリエンテーリングで、結果を出せればそれでいいけど、それとともに人生の目標もあきらめていない。可愛い彼女のいる人生だって必要だ。
さて、どうやって距離を詰めよう。
俺はサイカニアの笑顔を思い出し。こぶしを握り締めた。