動揺
結局足手まといの三人組は宿屋において、俺達だけで作業を始めることにした。
もともとそのつもりだったので、それはそれでいい。あの連中のレポートがどういう形になろうと俺の知ったことじゃない。
サイカニアは地図と俺の用意してきた人の資料を交互に見ている。
「やはりあなたに来てもらったのは正解でした」
サイカニアはにっこりと笑う。
ああ、その笑顔を向けてくれただけで、数日間の書類漬けの日々が報われたと心から思う。
だが、神様は俺が嫌いらしい。不意に背中からピリピリとした感覚を覚えた。
これは強い魔法をこの近くで使おうとした際に生じる余波。
俺はローブの下のペンダントを手に握った。
波長からタイミングを合わせる。サイカニアが詠唱を始めたがこちらのほうが早い。
あらかじめ術式を組み込んでおいたペンダントはきっちり俺とサイカニアを包む壁を作ってくれた。そして俺たち以外の、周辺の樹木が何本か折れて吹き飛んだ。
結構な大木も折れて地面に叩きつけられる。足元に響く振動でその重量感がわかる。その振動たるやバランスを崩して倒れそうになるほどだ。
「これ、きっちり殺す気だろ」
ペンダントにあらかじめ込めておいた魔力が切れて壁が消える。
『わが望みにこたえ、守りの風よ吹け』
そこにサイカニアの詠唱が終わる。
再び俺たちの周囲を壁が覆い。折れた木がもっと遠くにはじけ飛んだ。再び樹木が地面に叩きつけられ耳が痛くなるような轟音を感じる。
俺の呪陣は短時間で発動するが、効果は狭いし、威力も陣に込められるほどしかない。サイカニアの詠唱は時間がかかるがある程度の調整が効く。
まあケースバイケースってやつだ。
「あれ、何だったんだ」
気配を探れば徐々に遠ざかっていくのがわかる。
「どうやら、見張られているようですね」
サイカニアは小さく息を吐いた。
「いったい誰にだよ」
思わず口調がぞんざいになって俺は慌てて口を抑えた。
「わかりません、ですが、ティランの聖剣を狙う誰かでしょうか」
「なんで今更?」
百と数十年見つからなかった代物だ、今更見つかるとは考えづらい。
俺達も見つからないのを前提で探しに来たようなものだ。
「誰かが望んだからでしょうか」
ティランの聖剣の秘密がわかれば、世界が変わると言われている。誰かが世界が変わることを望んでいるというのか。
「ちょっとぞっとしないな」
「そうですね」
世界の変革が無血で終わるなんて考えるおめでたい頭の持ち主はそうそういないのだ。