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夕食後ミーティングを始めたが、三人組の持ってきたのが、三人ともティラン・レックスの伝記一冊だとわかった。
いや、三人とも申し合わせたように一冊ずつ同じ本て、何考えてんだ。
サイカニアもなんだかフォローできないという顔で、ノートをいじっている。
サイカニアが用意したのは、今までここでオリエンテーリングした先達の残した記録。そこから参考になりそうなものを抜粋したようだ。
結構膨大な量があったのを全部確認したと言っていた。
サイカニアは地道な努力のできるできた女性だとわかる。
ついでに俺の用意したのは、ティラン・レックスの時代の魔方陣について。
封印されているなら、時代が合わなければならないはずと考えてだ。いろいろと書き写した分はノート三冊分ある。
その紋章を抜粋したものを真新しいページに書き写した。
「とりあえず、これに似た紋章を見つけたら地図に印をつけておいてくれ」
地図はサイカニアが用意していた。今までの調査結果も書き込まれてある。
「この資料どうしたんだ?」
「ああ、その、懇意にしている先輩に頼んだら用意してくれて」
「ええ、男?」
マルレラがいらんことを言い出す、このまま脱線するかもしれない。
「二学年上の女性です」
サイカニアがそういうとマルレラはつまらなそうに唇を尖らせた。
いったいどういう話をしようとしたんだ。
いや、こいつらが戦力にならないということはわかっていたはずじゃないか、せめて邪魔にならないことだけを祈ろう。実際別の意味で邪魔だけどな。
「紋章を刻むということですが、樹木にですか?」
「それはちょっと難しいかもしれませんね、樹木って、成長するじゃないですか。その過程で紋章が壊れたり、位置がずれたりしますから、その場合こまめな調整が必要なはずですよ、ティランはすでに亡くなっているので、調整は不可能。結界が壊れるはずです」
「結界に封じられていると思われるんですか?」
「そうでもなければ、探知の魔法に引っかかるはずですよ、どれほど地中深く埋まっていたとしてもね、それに、この課題に挑戦した人たちはそれなりの実力者が多かったはずですしね」
「確かに、顔触れを見てもそんな感じですね」
サイカニアが、自分のノートを確認しながら呟く。
「でも、何かが引っかかるんですよ」
サイカニアが髪をかき上げる。白い額があらわになり、ちょっとドキッとした。
「まあ、そうですね、それなり血こちらも進歩しているはずなのに、かつての魔法使いの宝を何年も見つけられないって」
オピバニアが伝記をぱらぱらとめくっている。
「ティランの聖剣ってその力を倍にする魔法がかかっているっていうけどね」
少しだけ目が真面目になる。
実際魔力は入学規定ギリギリ、もし平民だったら確実に入学できなかった、最低ランクとはいえ爵位なしでは入学できなかったろう実力のオピバニアには魔法を増幅する魔法というのはとても魅力的だろう。
これは俺の悪意ではなく正真正銘学校の成績表に刻まれた事実だ。
「ティランはもともと無能な魔法使いと思われていたんだけど、聖剣を手にしていきなり頭角を現し、聖剣を持っていない状態で殺された」
「そして聖剣はいまだ見つかっていない」
政権探しに血眼になる理由はそこだ。魔法を増幅する方法はまだ開発されていない。その魔法が手に入るかもしれないとなれば誰だってほしいだろう。
「岩ですか、そんなのあったかなあ」
サイカニアだけが真面目にノートを確認している。