第一日目
一度俺は階下に降りた。一階は食堂兼大広間になっており、男女はそれぞれの部屋に入ることは禁じられているためこの場所で会合などを開くことになっているという。
資料はその都度部屋から持ってきて、終了次第片付けて部屋に持って帰る。そうディロング氏に説明された。
客人は俺達だけでなく食事にも使うからだという。
まったくもって当然のことだが。それと、滞在中はあてがわれた部屋の掃除は各自で行うことになっている。もし掃除してほしいときは別料金が発生するそうだ。
そこそこ裕福といっても親は俺を甘やかしてくれなかったので、はたきがけや床の掃き掃除ぐらいは苦ではない。おそらくサイカニアも似たようなものだろうと判断する。あの三人に関しては、考えないことにしよう。
資料の運搬についてはそれぞれ持ってこられる量だけ出し、使う分だけ持ち込めばいいからそれほど手間ではないだろう。
この近所には村が無く、ディロング氏と奥方とで切り盛りしているこの宿はかなり遠くの村から配達される食糧と週一回の買い出しで日用品を賄っている。
俺とサイカニアも最低限の身の回りのものは持ってきたが、買い足しをしたいときはその週一回の買い出しに合わせなければならないと言われた。
食料は最近配達を受けたばかりなので、たっぷりとあるので、そのことは心配ないという。
「リネン類は三日に一度、下に持ってきてください、洗濯したものを渡します。さすがに洗濯はこちらでやりますよ」
ディロング氏の説明を締めくくると、また仕事があると食堂のほうに行った。
俺達以外の客は今姿を見せなかった。
サイカニアが下りてくると、俺はサイカニアにディロング氏から受けた説明を繰り返した。
サイカニアは小さく頷く。
「私達何かお手伝いをするべきかしら」
「いや、食事以外はセルフサービスみたいなもんだし、もしかしたら食事も、自分たちでトレイをもって受け取り、食事が終わったら返すシステムかもね」
ディロング氏が説明を忘れただけでそうであってもおかしくない。
少人数で切り盛りしている宿なんだから。
そういえばあの三人は遅い、荷物の片づけにどれほどかけるつもりなんだか。
それからほどなく夕食の時間になった。
俺とサイカニア、そしてあの三人は同じテーブルで食事をとった。
「もうやってらんない、どうしてあんなに箪笥が小さいの」
備え付けの箪笥にマルレラの衣服が入らなかったとぐちぐち言っている。なんでそんなに服がいるんだろう。これはオリエンテーリングなのに。
平服と動きやすい野外服。着替えを含めてもそんなに数がいるだろうか。
「もう、なんであんなにわかりにくいの、ベッドの上に荷物棚があるなんて」
いや、一目瞭然てやつだろ、見れば変わるんだから。
「もう、どうやって荷物をしまえばいいのよ」
鞄ごと棚に置いておけ。
「私ね、平面活用するのも立体活用するのも同じことだと思うの。空間の作用に抽象的な役割が」
何言ってんのかわかんねーよハルキゲニア。
「あの、私、やっぱり駄目なんでしょうか、会話に入る糸口が見つけられなくて」
サイカニアが悲しそうに三人を見ている。
いや、君は悪くない。君が普通なんだ、おかしいのはこの三人。それとこいつら会話なんかしてないから。単に思いついたこと片っ端からしゃべっているだけだから。
コカトリスの照り焼きを食べながら俺は何を言っていいのかわからず無言を貫いた。