第8話『シドの目的』
「『火焔槍』!」
「っっ!?『氷城壁』!」
投擲された槍の形の炎が分厚い氷の壁に当たり爆発を起こす。砕けた氷は瞬時に蒸発し辺りを水蒸気が埋めつくした。
「今のは危なかったよー♪」
銀髪の少女がカラカラと笑う。
「むむー。今のはイケたと思ったんだけどな。」
やや伸びた黒髪をかきあげながら答える青年。
シドがこの世界に転移して3ヶ月が過ぎようとしていた。
「そろそろゴハンにしようよ。ボクお腹ぺこぺこだよー」
「そうだな。戻るか。」
二人がいるのは住処の洞窟の裏手に広がる草原だ。魔法と格闘の訓練には丁度いい広さがあり、火魔法を使っても木々に延焼する心配がない。
……
「そう言えばシド、目的は決まったの?」
「あー、まあ、何となくな。」
「やっぱり帰る方法を探しに行くの?」
「んー、そうだな。まずは俺を連れてきた『あの子』を見つけるとこからかな。」
「カレンちゃんだっけ?」
「ああ、この世界にいるのは間違いないだろうし、あれだけの力だ。すぐ見つからないにしても、手掛かりくらいはあるだろ。」
確証はないし、手掛かりもない。だけど夢の中で会った彼女が唯一の自分の世界とこの世界を繋ぐ存在だ。俺の中に居るあの子の魂の一部が導いてくれる。そんな気がしていた。
「最近は特訓なのに手加減する余裕ないよ。」
「だいぶ魔法にも慣れてきたな。」
「だいぶ…って。ボク相手に互角に戦える人はなかなかいないと思うよ!」
そう言ってファムはカラカラと笑った。
銀髪のダークエルフ『世界樹の守護者』ファム・ファタル。
俺のを見たからと見せてくれた『自己証明』を見た時は驚いた。
……
名前/ファム・ファタル(年齢不明)
種族/ダークエルフ
固体識別/『守護者』
クラス/魔獣使い
天命/65000/65000
魔力/180000/180000
『称号』及び『加護』
『最後のひとり』
この称号を持つ者は種族固有能力が開放される。
種族固有能力『神獣契約』
『天狼の契約者』
この称号を持つ者は天狼の能力を共有使用が可能になる。
『世界樹の恩恵』
世界樹の守護者に与えられる加護
永続効果『天命供給』
基本適正値
体力 A 筋力 B 魔力 S 技巧 A 速度 SS
ランク
A+
能力
『狼眷属』
天狼の眷属を呼び出し使役する事が可能。
『上位属性魔法』
下位から上位の属性魔法を使用可能。
『魔獣使役』
Aランクまでの魔獣を使役可能。
固有能力
『神獣契約』
神獣と交信出来るようになり。契約を結んだ神獣の能力を使用可能になる。
……
最強の魔獣である神獣の能力を使えるとか、最早チートな気もするが…
最大の脅威はそのスピードだ。近接格闘では俺の『絶剣領域』で反応できるが、距離をとられると目で追うのは不可能に近い。
常時天命が回復し続けるため、ダメージを与えてもすぐ回復して反撃が飛んでくる。
天狼と組まれたら勝てる気がしない…
それが『守護者』という存在。
「守護者はみんなファム並の強さなのか?」
「ん?知らないー。ほかの守護者に会った事ないからねー」
「なるほど、まあ強いのは間違いないだろうし、揉めないようにしないとな。」
「シドなら、倒しちゃいそうだけどね♪」
「買い被りすぎだよ。」
「あははっ!そんな事ないとおもうけどねー」
「でも、やっぱり旅に出る事にしたんだねー」
「ああ。戻る方法もあるのか分からないけどな。」
「ボクは森を離れられないから、一緒に行けないけど。浮気したらダメだよ?」
「浮気ってなんだよ?!」
「シドはボクが拾ったからボクのものなのだ!」
「なんだそれ…人を犬みたいに言いやがって。」
「まあ、なんだ…その…感謝してるよ。ありがとう。」
「なに!?急に。そんな事言われると照れるなー」
「で、いつ経つの?」
「とりあえず次の交易馬車に乗る予定だから、それまではよろしく頼むよ。」
「うむ。任された!」
そう胸を張るファムの横顔は少し寂しそうだった。