第6話『ファムの魔法講座 後編』
「うわっちちち!」
「あははははっ!」
俺は今、荒れ狂う炎に追いかけ回されてる。
「み、水!水!」
慌てる俺にファムが叫ぶ。
「シド!早く!湖に飛び込んで!」
たまらず目の前の湖に飛び込んだ。
何でこうなった……
理由は少し前に遡る…
……
「シドは魔力適正が高いから、魔力のコントロールをまずは覚えてみようか!」
「魔力のコントロールか。どうすればいいんだ?」
「自己証明の魔法や生活魔法と違って攻撃魔法を使うには大きく分けて触媒を使う方法と直接魔法を詠唱して使う2つがあるんだけど。」
「触媒を使う魔法は持ってる魔力が低い人や自分の魔力適正以上の魔法、詠唱魔法は自分の魔力を放出して使う魔法。て感じかな。」
「触媒?」
「うん。魔石を使うものが一般的だね。例えば杖とか。」
「杖か。確かに魔法使いは杖持ってるイメージだな。」
「シドの世界にも魔法使える人いたの?」
「すまんすまん。アニメとか…あ、テレビが無いか…んー、本で読んだ?からイメージ的に…いや、あっちで使える奴は見た事は無いな。」
「そっかー。こっちからシドみたいに転移した人がいたのかもね♪」
なるほど。その可能性はありえなく無いな。
こういう視点の持ち方も鍔沙っぽいんだよなー…
遠い世界に残した家族の事が頭を過る。
みんな心配してるよな…多分。
「シド?」
「あ、すまん。で触媒の話だったな。」
「うん。まあ、ほとんど魔石を使うのは特大魔法とか本当に魔力適正が低いくらいだからほとんどの魔法は詠唱魔法になるんだよー」
「で、詠唱魔法には属性の選択、対象の選択、対象との距離と攻撃範囲の決定、発動って手順がある訳。」
「詠唱魔法は全文詠唱、省略詠唱、無詠唱の3種類があるんだけど、前にワイルドボアにボクが使ってた魔法覚えてる?」
影から生まれた狼を自在に操り、巨大な魔獣を一瞬で焼き上げた凄まじい炎が脳裏に浮かんだ。
「あれは、凄かったな。」
「あははっ!ありがと♪」
「あれは、省略詠唱で魔法の名前だけを唱えて使ったんだよ。」
「詠唱は属性文、対象選定文、魔法名で出来てて、全文詠唱はその全てを言ったら使えるんだけど。省略詠唱や無詠唱は魔力適正が高いと頭の中で詠唱を終わらせて好きなタイミングで撃てるようになるんだー」
なるほど、適正が結構重要なのは理解した。
「まあ、細かいルールはあるけどだいたいこんな感じかなー」
「仕組みはわかったけど、魔法はどうやって覚えるんだ?」
「ん?自分の中にあるから、それを引き出すんだよ。」
「自分の中から引き出す?」
「うん。自己証明は自分の内側にある情報を見える形にイメージするじゃない?」
確かに、自分の姿をイメージしたら出せるようになったな。まあ、コツを掴むのに10日ほどかかったが…
「ふむ。」
「他の魔法も一緒で自分の中にある、と言うか…。例えば本とかをイメージする感じかなー」
本か…本…本……本…………。
「イメージしたら次は属性を決めてみて。」
「属性……」
俺はファムに言われるままにイメージを続ける。
火、水、土、風……
…ん?
ぼんやり何か見えてきた…
これは…火だな。
小さな炎が見える…
「属性のイメージが完成したら、自分の魔力をそれに少しづつ向けてみて。」
魔力を向ける…少しづつ…
ふと、ファムが使ってた魔法を思い出す。
……『獄炎』だったけ?
その瞬間、小さな炎が爆発的に大きくなった。
「あっ!!」
様子を見ていたファムが驚いた声をあげる。
「え?!」
「シド!ダメだよ!!意識をそらしちゃ…」
ファムの注意を聞き終える前に俺の前に巨大な炎の塊が出現し瞬く間に燃え上がった。
コントロールを失った炎は狂ったように暴れる。術者の俺を巻き込んで……
「うわあああっ!!!あっちぃいいい!!!」
「シド!早く湖に飛び込んで!!」
炎に追いかけられた俺は慌てて目の前の湖に飛び込む……
飛び込んだ瞬間、遠くからファムの爆笑が聞こえてきた…
……
そして現在。
「大丈夫…?ふふっ♪」
「ふふっ♪……ごめんごめん『乾燥風』くふっ♪ふひひっ……」
ずぶ濡れの俺に声をかけてくる。全身ずぶ濡れになり、濡れた服を乾かしながら笑いを堪えつつニヤニヤが止まらないファム。
俺は腰布1枚の情けない姿である。
「す、すまん……」
「いやあ、でもびっくりしたよ。最初に使った魔法が火属性の上位魔法並の威力とは…」
「…ファムが使ってた魔法を思い出したら突然…」
「ああ、なるほどねー。でもイメージだけであの威力かー。さすが適正値Sの魔力だね。」
「まあ、これでコントロールの重要性はわかったかな?」
うん。これは覚えないと危ない。
「はい…頑張ります…」
腰布1枚の俺は小さくもしっかりと決意する。