表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/61

第60話『閑話 新米冒険者(仮)の初任務』

時は少し遡り王都でシドたちがバラデロの命を受けたと思われる部隊の夜襲から2日後。

神聖国が世界に誇る、名門校エクレシア学園の学生寮の一室でお揃いの制服に身を包んだ2人の少女が、声を顰め密談をしていた。


「カレン大丈夫なのかしら?突然、カレンのところの執事がやってきたと思ったらそのまま帰国してほしいって言うからびっくりしちゃったわよ。」


赤い髪と学生にしては豊満なラインが印象的な女生徒がそう言うと、薄緑の髪と人族にしては長く尖った耳が特徴的な女生徒が少し考えたような調子で答えた。


「・・・ん。執事さんカレンに頼まれたって言ってた、多分王都で何かあったと思う。きっと私たちを巻き込まないようにしてくれたんじゃないかな。発着場も物々しかった。」


「何かって何よ?・・・まあ、確かに私たちの飛空艇が出てすぐに発着場に兵士が駆け込んだように見えたから、只事ではなさそうなんだけど・・・。」


カレンと共に長期休暇を利用して王都観光していたこの2人。アルメラ・カーラベインとクロエ・ヴェールは、王都に残してきた友人の安否を気にしていた。あの夜、事態を受けカレンは脱出の最中、家令のジルニトラに2人を帰国させるよう頼んでいた。王都の封鎖が完了すれば、2人を巻き込んでしまうかもしれない。手段を選ぶような相手とは思えない以上、関係者としてバラデロの手に落ちれば2人が酷い目に遭うのではないかと危惧しての選択だった。


「・・・アルメラ、それについては王都にまだ兄様がいるはず。状況を調べてみる。」


「調べるって、手紙でも出すの?キトルス家の客人だった私たちも無関係ってわけじゃなさそうじゃない?もし検閲で見つかったらクロエのお兄様も危ないんじゃ・・・。」


「・・・ふふん。そこは私も考えた。私たち森妖精(エルフ)族が秘密の話する時に使う古代エルフ語で書いた。森妖精(エルフ)の少ない王国なら多分解読は無理。抜かりない。」


「なるほど暗号ってわけね。でも、手紙が届いて返事が来たとして1週間はかかるんじゃない?あのシドさんって人が付いてるんだろうから大丈夫って思いたいけど、もしカレン1人とかだったらいくらあの子が鍛えてても危ないことになるかも?」


「・・・む。確かに可能性はゼロじゃない。でも、電信魔法(メッセージ)を使えない私たちには、連絡手段が他にな・・・・・いや、あるかも。」


クロエは思い出した方法をアルメラに伝え、席を立つ。


「・・・行こう。」


「クロエって、時々とんでもない事を言い出すよね。まあ、バレたら一緒に怒られましょうか。」


2人は外套を羽織り、部屋をあとにした。


___________________________________________________________________



陽の光が大渓谷の稜線にかかる頃。

本来生徒が立ち入りを禁止されている学園の教師棟に2人の姿はあった。


「ん〜通信室・・・通信室っと。」


「・・・アルメラ。経路図あった。通信室は二階の奥にある。」


クロエの思いついた方法とは、本来学園と各国に点在する保護者の緊急連絡手段として『電信魔法(メッセージ)』が付与された通信魔道具を拝借して、直接キトルス家に繋ぎカレンの安否を確かめるという大胆なものだった。


「ナイス!クロエ。長期休暇中とはいえ学内に先生がいないわけじゃないから、鉢合わせないように慎重に行きましょう。」


「・・・アルメラ。提案は正しいけど、声大きい。」


「うぐっ!ごめん・・・。」


2人は慎重に階段を進み通信室のある通路に到達した。しかし、ここで問題が発生する。


「(・・・あれは厄介。)」


「(なんで、よりによって教員室の隣なのよ!しかもガラス張り!!)」


目的の通信室の隣には、通路側に大きくガラス窓の付いた教師の部屋がある為どう考えても通信室に向かう間に在室中の教師から丸見えになってしまう構造であった。基本、学園内では指定された実技訓練室や教師が立ち会いする以外に魔法を使った場合、警報が鳴り見回りの風紀委員会や指導教員が即座に飛んでくる仕組みであった。そのため、立ち入り禁止の教師棟にいるというだけでバレれば捕まる上、隠蔽魔法を使おうものなら警報が鳴り響いてしまい捕まるのは必至である。


「(どーすんのよ?)」


「(・・・隠蔽魔法もここじゃ使えない。声の数から判断すると4、5人の先生がいると思う。)」


忍び込んだまではよかった2人は絶体絶命のピンチを迎えていた。すでに夕日もすっかり落ち教師たちの帰宅時間が迫っている以上、このままここにいるわけにもいかない2人は頭を抱える。


「(何か姿を隠せるものがあれば・・・・!?)」


ゴソゴソとポケットを漁っていたアルメラの手に小箱のようなものが触れる。


「(・・・どうしたの?)」


「(これなら・・・イケるかもしれないわよ。)」


アルメラの手には、王都で買った小さな小箱が納まっていた。王都の観光をしていた時に立ち寄った古い魔道具屋で面白半分に買ってみたそれは、『変化の鱗粉』というごく短時間ではあるが小型の動物に変身するという、なんとも怪しい魔道具であった。


「(・・・本気?)」


「(やってみなきゃわかんないじゃない?このままじゃどの道バレるわよ?)」


「(・・・むむ。確かに。どうやって使うのそれ?)」


「(使い方は・・・なりたい動物の姿を強くイメージして頭から粉をかける。って書いてあるわね。)」


「(・・・わかった。やってみよう。)」


2人はそれぞれ頭の中に動物を思い浮かべる。そして粉を互いに振りかけた直後、2人の体が淡い光が包みやがて眩く光を放ち始めた。


「ん?なんだ?廊下で何か光って・・・」


教師の1人が廊下の光に気づき、ガラッと扉を開け廊下に顔を出しあたりを伺うが・・・


「(ちょっ!ひ、光り過ぎ!!)」


「(・・・絶体絶命。)」


扉が開く寸前に光が収まり、教師は不思議そうに首を傾げ室内に戻っていった。


「「(・・・た、助かったぁ。)」」


窮地を脱し、安堵の声がシンクロする。


「(・・・ア、アルメラ。)」


「(え?クロエ、どこいったの?)」


振り返ったアルメラがクロエの姿を探し辺りを見回すと、いつの間にかしゃがんでいたアルメラの足がペチペチと叩かれた。視線を落とした先には、ふわふわと柔らかそうな毛玉みたいなものが居た。


「(・・・ここ。)」


「(え!?ええ!??)」


そして・・・互いの姿を確認し合った結果。アルメラが赤毛の猫に、クロエは薄緑のリスになっていたのだった。


「(・・・ん。この小ささなら窓の下も抜けられる。)」


「(う、うん。急ぎましょ!)」


ようやく通信室の前に辿り着いた2人もとい2匹は、通気口から室内へ侵入を果たし目的の魔道具を探し始める。


「・・・あった。」


「ほんと?!やったじゃない。でも、どうやって動かすの・・・これ?」


二匹の目の前には、存在感のある大きなレバーが見える。しかし本来、人のサイズで使用するそれは二匹にはあまりにも大き過ぎるのだ。


「・・・む。とにかく今は変身が解けるのを待つしかない。」


「そうね。帰りが心配だけど、まあ目的さえ果たせれば反省文でも奉仕活動でも望むところよ。」


「・・・ん。時には、仲間のために体を張るのも冒険者。兄様が言ってた。」


「冒険者かあ。結局、王都ではドタバタのおかげで登録し損ねたし、聖都のギルドで登録しかなさそうね。私、帝都と聖都(ここ)くらいしか知らないからいろんな国に行ってみたいのよね。そういえばお兄様から冒険者について色々聞いてたわよね?」


「・・・ん。カレンもアルメラも魔力系攻撃職(アタッカー)だから、私は回復職(ヒーラー)支援職(バッファー)で構成すればバランスいいみたい。討伐系の依頼やるなら盾職(タンク)がいるといいけど。」


「ふむふむ。確かに、学園じゃ集団戦とか習わないし、実戦だと怪我じゃ済まない場合もあり得るものね。でも聖都って討伐系の依頼がないってカレン言ってなかった?」


「・・・ん。今の教皇猊下の代から冒険者は『独占法』のせいで不遇だから神聖国に行き難いってお兄様も言ってた。」


現教皇体制発足に合わせてさまざまな新法が発布されたが、その中でも大陸中に支部を持ちながら国の問題には基本無干渉な冒険者ギルドと高位の冒険者が国内で力をつける事を危惧した現教皇と枢機卿の一部が強引に決めた法が通称『独占法』と呼ばれ、主な収入源である魔獣討伐や希少資源採取に規制や重税をかけて冒険者の資金力を落とし、極力信徒が冒険者と接点を持つことを規制するというものだ。そのため国内で脅威となる魔獣討伐などは神聖騎士団が担うことになり、飯の種を失った戦闘系冒険者のほとんどは早々に国外に移ってしまっていた。


「なんか、聞けば聞くほど今の教皇猊下たちのやり方って独善的で帝国っぽいのよねー。」


「・・・ん。この国は光神信仰が揺らぐことを一番嫌うから。他国出身の信徒じゃない私たちがそれぞれの科で主席なのも面白くないんだと思う。」


「確かに。妙に当たりキツい時あるのよねー。何かったら改宗勧めてくるし、カレンとクロエが居なかったら帝都のお父様に泣きついて辞めてたかも。」


「・・・。」


「ん?どうかした?」


「・・・これ。いつになったら解けるの?」


「そういえば、長いわね。箱には『ごく短時間』って書いてあったけど、なんだかんだで結構経つものね。どのみち、この姿じゃ操作できそうもないし気長に待つかないんじゃないかしら。」


カチャカチャ・・・


「「!!!」」


その時、扉の鍵を開ける音が部屋に響いた。


「・・・!?(誰か来る。)」


「(隠れなきゃ!)」


咄嗟に隠れる場所を探す2匹の検討虚しくガチャリと音をたて通信室の扉が開かれ、1人の年老いた女性教師が部屋に入ってきた。


「あらあら?随分かわいい闖入者だねぇ。お前たち、一体どうやってここに入ったんだい?」


老教師の問いかけに答える訳にもいかず、さりとて目も離せない2匹は固まってしまう。


「ああ。このリスを追いかけてきたのかねぇ。それにしては随分仲が良さそうだけど?」


(・・・鋭い。魔力の反応を見られたら、変身なのもきっとバレる。)


(なんとかやり過ごさなきゃ・・・)


「ふふふ・・・。まぁいいさね。こんなところまで入り込んだお前たちにも色々と『事情』があるんだろうさ。さて、悪ガキがおったらと思ってきてみたが私の勘違いのようだねぇ。どうにも最近、私らも歳のせいか『うっかり』通信魔道具のスイッチを切り忘れることがあるからねぇ。よいしょっと。さあさあ、お前たちもあんまり遅くなるとご飯にありつけなくなるよ。気をつけておかえり。」


老教師はそれだけ言うと、言葉通り『うっかり』切れてたスイッチのレバーを入れて帰っていった。扉が閉まり、足音が離れていく。状況が飲み込めずにいた2匹の体が淡く光り始め、変身した時と同様に光に包まれ元の姿に戻った。


「・・・奇跡。」


「うん・・・ドキドキし過ぎて心臓が口から出そうになったわよ・・・。」


2人は互いの手を取り合い、思わずその場にへたり込む。


「今だけは、本当に神さまに感謝ね。と、とりあえず時間はかかったけど、後はカレンの家に連絡取れば目標達成よね?クロエコレの使い方わかる?」


「・・・ん。問題ない。でも何故手助けされたかはわからない。けど今は連絡が取れることに感謝。」


クロエは、魔道具に保存されたアドレスからカレンを探し出し、『通話』と書かれたボタンにてかける。


「・・・お願い。出て。」


数度コール音が鳴り、女性の声が聞こえる。


「こちらは、レムリア王国キトルス辺境伯邸執務室でございます。現在、辺境伯閣下は王都にて執務中でございますので私、秘書官のエンドラがご用件を承ります。」


「つ、繋がった!あ、あの!私はカレンの学友でアルメラと言います。そばに同じく学友のクロエもいます。」


「これは、アルメラ様、クロエ様。この魔法具は緊急連絡用のはずですが、どうなさいましか?」


「・・・ん。今、カレンか家令のジルニトラさんはそこにいる?」


「いえ、ここは辺境伯領のカーテナ城です。国王陛下の勅命にて王都での式典に参上のため、ジルニトラ様も旦那様に同行し王都におられます。カレンお嬢様も長期休暇を利用してご参加されると聞いておりますが・・・。」


実家(そっち)かー。どうするクロエ?」


「・・・そこに。電信魔法(メッセージ)使える人いる?いたらお願いがある。」


「それでしたら私が使えますが、一体何事なのでしょうか?」


「私たち、ついこの前までカレンと一緒に王都にいたんです。式典の後しばらくして、『何か』があっていきなり帰国するようにって。残してきたカレンが心配で、無事なのかを確認したくて・・・。」


「・・・なるほど。そう言うことでしたか。厳しく緘口令が敷かれていますので、詳しくはお伝えできませんが、現状お嬢様は安全と伺っております。しかし居場所に関しては、我々にも伝えられておりませんので、おそらくご存じなのは旦那様と同行するジルニトラ様だけでしょう。」


「では、ジルニトラさんに連絡をとってもらうことはできないですか?」


「申し訳ございません。現在、こちらから旦那様とジルニトラ様への電信魔法を用いた連絡は禁止されておりますので・・・。」


「・・・。無事は間違いない?」


「はい。お嬢様のことでジルニトラ様は嘘などおっしゃいませんので、信用していただいて問題ないかと。」


「緘口令だなんて王都は、どうなったんですか?」


「申し訳ございません。お答えする権限が私にはないのです。」


「・・・ん。それなら。王都にいる冒険者に言伝をすることはできる?」


「個人を特定しなくては、使えませんので王都の冒険者ギルドへ伝えるということでしたら、可能かと思われます。なんとお伝えいたしますか?」


「・・・。王都にいる森妖精(エルフ)族の冒険者『クラウス・ヴェール』にクロエが『聖都で昔話をしたがっている』って伝えて。」


「クラウス・ヴェール様にクロエ様が『聖都で昔話をしたがっている。』ですね?畏まりました。すぐにギルドに連絡いたします。少しこのままおまちいただけますでしょうか?」


「・・・ん。わかった。」


保留を知らせる曲が流れ、クロエは椅子にもたれ掛かる。


「ねえクロエ。昔話ってどう言う意味なの?」


「・・・ん。私が本当に困った時に使う『暗号』。これを聞いたらどこにいても来てくれるってお兄様が教えてくれた。」


「なるほど・・・。でもそんな大事な暗号を使って大丈夫なの?心配ではあるけど、とりあえずカレン無事みたいだし・・・。」


「・・・。大丈夫。お兄様もわかってくれる。お兄様と『翡翠旅団(ジェイドブリゲード)』ならきっとカレンを見つけてくれる。」


「確か、クロエのお兄様がリーダーの探索で有名なパーティなんだっけ?」


「・・・ん。お兄様たちはすごく有名な探索のプロ集団。それに『伝令鳥(レターバード)』が使えるから手紙より早くて確実。」


「その辺の魔法は専門外だから私にはわからないけど、クロエがそこまで言うなら間違い無いんでしょ?」


「・・・ん。」


保留を知らせる音色が止み、秘書官のエンドラの声が聞こえてきた。


「大変お待たせいたしました。辺境伯権限でギルドへ言伝の要請を出しましたので間違えなく対応していただけるでしょう。」


「ありがとうございます。辺境伯権限なんていいんですか?お願いしたの私たちなのに・・・。」


「お嬢様を気遣ってのこととお見受けいたしますし、問題はないでしょう。それにお嬢様のご学友に失礼があっては、それこそ叱られてしまいますから。」


「・・・。ありがとう。」


「とんでもございません。どうかお気になさらず、ご用件は以上でしょうか?」


「はい。本当にありがとうございました。」


「お役に立てたのなら幸いです。それでは失礼致します。」


プツンと通話が切れ、通信室が静寂に包まれる。


「さて、あとは脱出するだけね。」


「・・・ん。でも変身解けたからバレるかも?」


「あ・・・。」


そして案の定クロエの予想通り玄関前で宿直の教師に見つかった2人は消灯時間ギリギリまでお説教されるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ