表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/61

第59話『白兎と竜人』

久々にバトルシーン書けるかと思ったら、前説の尺が長くなってしまいました・・・。次こそは!

キトルス辺境伯の王都屋敷。隅々まで手入れされた美しい中庭の中央には直径40メートル程の円形広場があり、周りを様々な花が彩っている。よく晴れた空から降り注ぐ陽光が石畳に三つの影を落としていた。


「とりあえず、動作確認と魔力還元が正常に行われているかを見たいから、ラビは出力60%スタートね。ジルニトラさんは、ひとまず受け流すか防御でお願い。ぶっつけ本番だと恐らく出力90%から先は狂化の制御がシビアになるだろうし、もしもの時は遠慮はいらないから。」


「なるほど。わかりました。精一杯役目を果たすとしましょう。ラビさんも遠慮は要りませんので、私の事をシド殿の敵だと思って全力でいらして下さいね。」


「ジル様を敵だなんて思えませんけど、できる限りやってみます!」


「まあ、実際自分の意思で狂化を発現してた訳じゃないから、ちょっと荒っぽいけどラビの光子脳に狂化状態の再現を実行させてみるしかないわね。」


「では、この場に防諜と防御の結界を張らせていただきますね。中庭を壊す訳には参りませんので。」


そう言ってジルニトラが軽く指を鳴らすと、円形の広場にドーム状の強固な結界が展開された。以前シドのお披露目でカーテナの本屋敷に施したものと同等の強力なものだ。


「いい?ラビ。今から読込(ロード)するけど、溢れ出てくる魔力をそのまま手足の装具(アルベド)に流すイメージでゆっくり出力をあげていって。わかった?じゃ、はじめるよ。ジルニトラさんもよろしくね!」


「はい!よろしくお願いします!」


「ええ。こちらこそよろしくお願い致します。」


「よーし!読込(ロード)開始!!」


ティエナが、掛け声と共に手元の携帯端末の実行キーを押した直後、ラビの体からドス黒い魔力が溢れ出す。


「ティ、ティエナ様?!」


「ほう?これは素晴らしいですな。全身を覆うほどの魔力の流れを手足の装具が吸い上げていくのがそばにいる私の目にもわかります。さすがティエナ様、暴走は杞憂でしたな。」


狂化の発現を思わせる魔力の奔流に慌てるラビを他所に様子を注視していたジルニトラは、落ち着いた様子でティエナに賞賛を贈った。


「ここまでは想定通りね。さあ!ラビ。まずは全身の状態を確認するから、体術でよろしく。ジルニトラさん、無理はしないで良いからヤバそうなら合図してね?」


「わ、わかりました。ではジル様、参ります!『アルスマグナ』起動!!『白兎化(アルベドモード)』!!」


ドス黒い瘴気のような魔力の奔流がラビの呼びかけに呼応した装具により吸い取られ、それまでと対照的な純白のオーラが全身を包み込んだ。そして全身から噴き上がる純白の魔力を纏ったラビがジルニトラに向かって弾丸の如く突っ込んだ。


「ふむ。なかなかの速さですな。では、私も準備運動に入りましょうか。」


ジルニトラは、無駄のない最小限の動作で避ける。慣れた手付きで袖のカフスを外すと、軽く腕を回しながら広場の中央に歩み出ていく。その間も高速で攻撃を繰り出すラビなどお構い無しに全身の部位を確認すようなストレッチが続く。


「!!?なら!・・・70%・・・・・75%!!!!」


純白のオーラを纏った突進を躱されたラビは、擦りもしなかった事に一瞬驚きつつも出力を上げていく。もはやそばで見ている常人(ティエナ)には補足すらままならない。そのままラビは、まるで跳弾のように連続攻撃を仕掛け続けるが・・・


「はあ・・・はあはあ。」


「おや、お疲れですかな?先程、ティエナ様から『ラビさんの攻撃を防御』するようにと申しつかりましたが、当てていただかなくては受けられませんぞ?」


「ぐぬぬぬn・・・・」


「いやあ・・・驚いたよ。今のラビのスピードを物ともしないばかりか、掠りもしないなんて。ただの家令じゃないとは思っていたけど、これは出力90%でも捉えれるかわかんないね。ラビ!今の出力制御(リミッター)は90%に設定してあるから、思いっきりやってみなさい!」


いかに自律型魔法人形(オートマタ)と言っても、無尽蔵に行動できる訳ではない。魔力の供給量が落ちれば、出力も低下する。外部動力とも言うべき『アルスマグナ』による魔力還元も供給元であるラビ自身の狂化状態(バーサク)が収まって仕舞えば、元のラビの性能に落ちるのは必然であった。そして、ティエナのいう出力制御(リミッター)とは現在のラビが自己意識を残しつつ、本体の耐久値を損耗せず活動できる限界である。そもそも本来の出力限界(リミッター)機能は、製造元である国立魔科学研究所に対し共和国の十席会議が、自律型魔法人形(オートマタ)の暴走などが発生し制御不能となった時に備えて全個体に取り付けを義務付けた制御機能だ。個体が制御不能になった場合、必要以上に出力を上昇させ無いように強制的に本体の制御(コントロール)を奪う機能であった。この機能と『アルスマグナ』を組み合わせることでティエナは、狂化による膨大な魔力をラビの出力に変換する新たな機能に改変したのだった。


「思いっきり・・・ですか。わかりました・・・。」


自身の全てを知るティエナが全力でなければテストにすらならないと判断した。それほどまでにジルニトラとの差があると言うことだ。新たな能力を得たとしても使いこなせなければ意味がない。主人(シド)が認める数少ない人物であるが、今の今までその実力を正しく認識できていなかった自分をラビは唯の一発の当てれずにいる。この事実に心が萎れそうになった。


「それにしてもジル様、本当に凄いです。完全武装のこの状態で掠りもしないなんて、自信無くしちゃいそうですよ。シド様が最初お会いした時からジル様に注目されているのもこれが理由なんですね・・・。でも!」


歴然とした実力差を感じ、萎れるかに見えたラビの目に決意の炎が灯る。


「私は、シド様のお役に立ちたい!そのためにもっと心も体も強くなりたいんです!!さっきので敵わないのは十分承知してますが、改めてお手合わせいただけますか?」


人型種最強と呼ばれ、あらゆる亜人種の頂点たる竜人族として長い時を生きてきたジルニトラにとって、この(テスト)はただの興味本意のはずだった。いかにメルカトスが生んだ自律型魔法人形(オートマタ)が通常の亜人を超える性能を持っていようと彼我の差は歴然であり、竜人族である自分が本気で戦うなど大人げがないと思っていたほどだ。しかし目の前に立つラビの主人(シド)の役に立ちたいと言う思いに触れ、考えを改めざるを得なかった。それはジルニトラもまた、これまで仕えてきた歴代主人(キトルス)の家令として同じ思いを持っていたからに他ならなかった。


「いいでしょう。先ほどまでと違い、その目に強い決意が見えます。王国の、そして我主人の盟友たるシド殿の従者に相応しいと証明していただきましょうか。」


そう言ってジルニトラが、家令の戦闘服とも言うべき燕尾服を脱ぎ、普段欠かさず身に付けているネックレスを外した瞬間、ジルニトラから強烈な魔力が吹き荒れ、結界内が濃密な魔力で満たされる。むせ返るような魔力の波動を浴び、ラビは全身の毛が逆立つ。畏怖すら感じるその波動は、自分の前に立つ老齢の実力者が己の想像を遥かに超える強者であり、かつて主人(シド)がみせた殺気のこもった魔力の波動と同種のものであることを物語っていた。


「かはっ!い、息が・・・」


ラビの後方にいたティエナが耐えきれずに倒れ込む。


「テ、ティエナ様?!ジル様!ティエナ様の様子が・・・」


そばで観測していたティエナの体は、体験したことのない魔力の波動に当てられ細胞レベルで恐怖を感じた事によって様々な臓器がパニックに陥っていた。


「おや?これは失礼いたしました。私としたことが、配慮が足りておりませんでした。私の『魔気』に当てられたのでしょう。ティエナ様は危ないので結界の外でお待ちください。」


ジルニトラが指を鳴らすと即座にティエナは結界の外に転移させられた。


「あのー・・・ジル様。ティエナ様は大丈夫でしょうか?」


「びっくりされてるようですが、お体に問題は無さそうですね。」


「よかった・・・。」


「私の『魔気』は魔法耐性の低い鎚小人族(ドワーフ)には少々キツかったやもしれませんな。普段は極力抑えているのですが、数十年振りに年甲斐もなく燥いでしまいました。」


「ジル様『魔気』とは一体・・・?」


「ふむ、そうですね・・・。説明するより体験されるのが1番かと。魔法人形の貴女ならば、魔法耐性も高いようですし大丈夫でしょう。」


そう言うとジルニトラは、拳を引きどっしりと構える。重心を下げ、引いた拳に魔力が収束していく。


「ティエナ様の指定が体術でよかったです。私は剣や魔法より格闘術(こちら)が得意なので。では、始めましょうか。」


「わかりました。胸を貸して頂きます!『白兎化(アルベドモード)』!!」


ラビも純白のオーラを開放して四肢の装具に魔力を集中させる。まるでクラウチングスタートのような構えをとるラビとスタンスを広くどっしりと構え、拳に魔力を込めたジルニトラの姿が同時に消え、遅れて破裂音のような爆音が鳴り響いた。もはや常人の視力では捉えることすら不可能な速度で両雄が激突した。


高速でぶつかり合う衝撃音が結界内に鳴り響く。


「いや・・・2人とも本気じゃない。だから、動作テストなんだってば・・・これ。」


外野で観察を再開したティエナは頭を抱え天を仰いだのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ