第5話『ファムの魔法講座 前編』
この世界に来て2週間が経っていた。
ファムの洞窟は意外と快適な作りだ。
入口から10メートルほど進むと広間がある。その奥にある扉を開けると中には食事をするテーブルや椅子、ベッドがあり、調理器具などは少ないが竈付きのキッチンや風呂、トイレ(なんと水洗!)もちゃんとある。
俺はそんな快適な洞窟の近くにある湖の畔でファム相手に組手をしていた。
「すごいすごい!何でわかるの?目隠ししたままなのに全部止められちゃったよ!」
「んー、気配と言うか向かって来る力を感じて反応するって感じかな。」
「ボク弱いのかなー。自信なくすよー。」
目隠しを外して答える。
「いやいや、ファムは近接戦闘タイプじゃないだろ?離れたとこから魔法使われたら太刀打ち出来ないと思うぞ?」
ファムの手には短刀の形に削った木剣が握られている。
俺は慣れた刀形のものを使っていた。
「じゃあ、次は魔法の特訓しよ!」
「ああ、頼むよ。ファム先生。」
「ふふん!任せたまえ!」
得意分野になり得意気にファムが胸を張る。
「じゃあ、いつも通り『自己証明』をひらいてみよう!」
こちらに来て2週間ほど経ち色々と分かってきた事がある。
例えば、自己証明と言う魔法がある。
これはそのまま自分のステータス、要は天命(HP)や魔力(MP)と言った身体情報から使える能力、持っている称号や加護が視覚的に見えるようにする魔法だ。
「んー、いつ見ても凄いねー。」
「そうなのか?まだ分からない事の方が多いんだよな。」
『自己証明』
名前/士道 村正
種族/人族
固体識別/[不明]
クラス/[未登録]
天命/不死属性
魔力/30000/30000
『称号』及び『加護』
『黄泉帰りし者』
この称号を持つ者は死を超越した存在となる。
『賢者の魂を持つ者』
この称号を持つ者は賢者の叡智と魔力を継承する。
『剣神の加護』
剣技を極めし者に与えられる加護。特定の固有能力を使用可能になる。
固有能力『絶剣領域』
『世界樹の加護』
天命から解き放たれた不死の存在となる永続効果を付与。
永続効果『不死属性』
基本適正値
体力 A 筋力 A 魔力 S 技巧 S 速度 A
能力
[未登録]
固有能力
・絶剣領域
……
「基本適正値が全部A以上は十分すごいよー」
「でも、普通の人間だぞ?俺?確かに剣術は多少自信あるけど、その程度だ。」
「あのね、シド。まずこの世界の常識から説明するけど、魔獣にランクがあったようにボクら人型の生き物にもランクがあるのは教えたよね?」
「ああ、聞いた。」
ファムの説明では…
全ての人型の生物には戦闘力や技能にランク分けがあって、騎士や冒険者はランクによって戦力が決まり、そのまま生存率の指針になるのはもちろん魔法を使う者はランク毎に威力や使用可能な魔法の種類や量が変わるらしい。
俺が驚いたのは生活魔法を使う一般人にもランクがあった事だ。生活魔法とは攻撃魔法以外の生産魔法、商業魔法、文化魔法、生活魔法の総称であり、技術者や研究者などはランクが明確に決まっているらしい。
「ちなみに戦力的なランクは一般冒険者の最高がAランクでA+以上は各国に1パーティいる程度、騎士も単体だと英雄とか勇者って呼ばれてる加護持ちでもA+が最高みたいだね。」
「称号についてはボクも詳しくないから分からない部分があるけど、基本は適正値の平均で決まるからシドはA+になるかな、1つでも奇跡って呼ばれてる加護を2つも持ってる上に不死属性となれば…ね?」
なるほど。何となく理解した。
「あと、教える為にボクは見たけど自己証明は個人情報だから無闇に人に見られないようね。いろいろ加工できるからしておくといいよー」
「加工?何が出来るんだ?」
「『自己証明』の一番下に鍵の模様があるでしょ?」
「どれどれ?お?これか。」
「シド手を貸して。」
「ん?」
「?!痛っ!なにすんだよ!」
「ちょっと針刺しただけだよー」
「いいからそのまま鍵の模様の触ってみて。」
「血で反応するのか」
「そういうことー」
「お?人に見せるものと見せないものを決めれるのか!名前も変えれるのか?」
「うん。例えば王族とか魔族だとすごい名前長いのもいるから短くしたりね。冒険者なんかは通り名にする人が多いみたいだね。」
「へぇ。そうなのか?」
説明を受けながらどうにか完成した。
『自己証明』
名前/シド
種族/人族
固体識別/[不明]
クラス/[未登録]
称号及び加護/[非表示]
基本適正値
体力 A 筋力 A 魔力 S 技巧 S 速度 A
能力
[未登録]
「どうかな?」
「ほぅ。かなり隠したんだね。まあ、当然かー。あ、名前表示変えたの?」
「ああ、こっちに来てからファムが新しく付けてくれた名前だしな。」
「えへへー♪嬉しいこと言うねー!」
「まあ、基本適正値以外は自分が知っていればいいし、開示を求められるのは名前と種族とクラスとランクの4つだからね。」
「ギルドにいくと基本適正値の部分をランク表示に変更してくれるよ。」
「そうなのか?」
「うん。クラスを決めれる所ならどこでも出来るよー」
「ギルドか…それにしてもファムは森に住んでるのに人族の世界に詳しいよな。」
「まあね。森に迷った冒険者を助けたり、村を襲う魔獣を退治したりした時にいろいろ教えて貰ったんだー。」
「へぇ!偉いな。さすが守り手だな。」
「ふふん!」
「じゃあ、自己証明についてはここまで!次は攻撃魔法と生活魔法だよ!」
物知りなファム先生は得意気に胸を張る。