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第57話『目覚めと好奇心』

ジルニトラを圧倒するほどの勢いのまま、ティエナは、解析機から吐き出される情報に全神経を注ぎ込み、繋ぎ合わせていく。そして空が白んできた頃、ティエナは遂にラビの深部に辿り着いた。


「ふむ、光子脳(コアユニット)のフィードバックと映像ログを見る限り狂化と思われる魔力の過負荷(オーバーロード)が確認できたのは3回。1回目が王都の路地裏、2回目はシドくんの屋敷、3回目は・・・この部屋か。どのパターンもやっぱり原因は素体に含まれた狂化因子が強い感情を引鉄(トリガー)にして、獣人族で言うところの『狂化状態』が発現してるってとこだけど問題は回を重ねるごとに悪化してるってとこね。んー。そうなると・・・」


すでに発現している以上、狂化そのものを取り除くことは不可能だ。このままでは、いずれ狂化によってせっかく生まれた自我が飲み込まれ、無秩序に暴れ回るだけの怪物になってしまうだろう。理想を言うならば、正常な意識を保ったまま強化系スキルのように任意で使いこなすことができればいい。しかしそのためには、様々な問題がある。


「恐らく、これ以上繰り返すと完全に飲まれるのは間違えない。んー感情の制御は必須として・・・獣人族の狂化は基本的に怒りの感情・・・・・鍵となるのはシドくんか。自分への敵意よりご主人様への敵意に過剰に反応してるのね。なら・・・」


絶え間なく吐き出される情報を整理しつつティエナは思考を加速させる。


そもそも、光子脳(コアユニット)だけで『感情』の演算処理が難しいなら、リアルタイムでメルカトスの巨大演算装置(サーバー)を使うのは?いや、そんなことをしたら他の自律型魔法人形(オートマタ)に影響が出るかもしれない。この子だけ切り離すのは無理だし。おおよそ原因と発現条件はわかったけど、んー・・・外部領域を使えない以上・・・・・・・


「外部領域・・・」


「ん?外部・・・?狂化状態は言うなれば魔力の暴走。それなら、アルスマグナに取り込めるんじゃ・・・・・!?うん!いける!!これだ!!!」


ラビたち自律型魔法人形(オートマタ)は、ベースとなる生体素材から人造魔石(アニムス)を生成して魔化技術素材(マギアテックマテリアル)で造られた体に人造魔石(アニムス)を組み込んだ魔力炉を搭載し、それを個体別にセッティングされた光子脳で制御することにより様々な用役をおこなっている。


そしてシドとラビが使用しているアルスマグナシリーズも原理は同じく、人造魔石と魔化技術素材(マギアテックマテリアル)を用いて造られており、違いは光子脳の有無と自己意識を持つか否かだ。そもそも強力すぎる性能を分散させた現在のプロトタイプでも、それぞれがこの世界において明らかなオーバーテクノロジーである。それによって既成の魔道具には無い様々な機能を有している。その中でもティエナが着目した特筆すべき機能の一つが『魔力還元』だ。いかに強力な装備とはいえ、アルスマグナの固有能力を使用するには、膨大な魔力を必要とするため装着者の保有魔力が枯渇する危険がある。そこで『魔力還元』により、外部つまり周囲に存在する魔力の源である魔素などを吸収し、取り込むことができるようになっているのだ。


「溢れるなら還元して仕舞えばいいんだ。要は狂化による魔力暴走を感知できるようにして、丸っとラビの装備(アルベド)に還元すれば狂化並の性能を自我を保ったまま使えるってことじゃない!そうと決まればあとはアルスマグナの人造魔石に狂化時の魔力パターンを認識させてっと・・・」




________________________________________________




そして朝日の暖かい日の光が差した頃。

最後の入力を終え、ティエナはスリープモードのラビを再起動し部屋を出た。


「ん〜〜〜。」


部屋の前で伸びをしていたティエナに侍女を伴ったジルニトラが声をかける。


「お疲れでしょう。温かい紅茶でもいかがですか?」


「おや?さすが気が効くのね?できれば紅茶よりコーヒーがいいわ。あるかしら?」


「ええ。もちろんですとも。すまないが、すぐにコーヒーを淹れてきてもらえるかな?」


伴っていた侍女は指示受け一礼し、戻っていった。


「結果は聞かないの?」


「お顔を見れば、わかりますから。主人に代わり感謝申し上げます。」


ジルニトラは、そう答え深々と頭を下げた。


「いいのよ。ぐずった子供をあやすのも親の仕事でしょ?」


「お飲み物をお持ちしました。」


少し照れ臭そうにティエナが答えると同時に先程の侍女が香ばしい香りと共に戻ってきた。


「ありがとう。そろそろ、起きる頃ね。中に戻りましょうか。」


次女に礼を言い2人が部屋に入ると、ちょうどラビが起き上がったところだった。


「あ、おはようございます。」


「おはようございます。ラビさん。」


「おはようラビ。調子はどう?まあ、私が隅々まで確認したから大丈夫だと思うけど・・・」


ラビは頭と体をペタペタと触っていき、腕の装備(アルベド)の変化に気づく。


「あれ?魔力の流れが・・・」


「気付いた?とりあえず、もう狂化の心配はいらないわよ。それを着けてる限り、あなたから溢れ出た魔力は、装備(それ)が吸収して抑えられるように調整して、ついでに少し改良しておいたから。今までより出力も上がってるはずよ。」


「なるほどー・・・?」


「つまり溢れて行き場を無くした魔力を再利用する装備ですか・・・さすがティエナ様でございますな。」


「まあ元々、燃費の悪い装備だからね。シドくんは規格外だから必要ない処理だけどね。この子の場合、獣人族をベースしてる特性上『狂化(バーサク)』状態の時に溢れる魔力をコントロールは難しいし、せっかくの自我が塗り潰されちゃあ元も子もないでしょ?だから無くすんじゃなくて上手いこと活用することにしたの。」


「え?じゃあ、私もうこれまでみたいに記憶がなくなったりしないんですか?」


「理論上は、そう言うことになるね。まあ、実際に狂化すれば実地検証になるけど・・・あ!そうだジルニトラさん。そんな格好してるけど、あなた実際は戦闘力かなり高いでしょ?ちょうどいいから相手してあげてよ。」


「え!?」


「ほう?私がラビさんのお相手を?」


ジルニトラは、目の前の鎚小人族(ドワーフ)からの要求を受け、素直に驚いた。この鎚小人族(ドワーフ)は、自分の正体に薄々気付いているやもしれない。ならば、断る道理もない。部屋に入った瞬間からラビの魔力の流れに変化が起きたことは気付いていた。多数の侵入者を易々と屠ったあの戦闘力、それが制御の術を得てさらに高みに至ったという。単純に見てみたい。そう思った。普段は感情を表に決して出さない人型種最強と呼ばれた竜人族である老紳士は、好奇心から快諾を決める。


「いいでしょう。ですが、狂化は治ったのでは?どういった方法で検証するのですかな?」


「狂化自体がなくなったんじゃないからね。要は本人の意思で狂化状態の余剰魔力を力に変換して自分の意思で引き出せるようにしたのよ。だから、強い感情を引き金に発動することには変わらないの。心配しなくても今までみたいに暴れ出したりはしない・・・はず。ていうか、それを検証するんだってば。」


「わかりました。では、中庭に移動しましょう。ここを壊すわけには参りませんので。」


「ほら!行くわよ!」


「あ!ティエナ様!み、耳はダメですうう!!引っ張らないでえぇ・・・」


三人は仲良く?中庭へ向かった。

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