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第56話『外周区』

「とりあえず冒険者ギルドに寄って、キトルス候の協力者に会うための謁見許可とやらをもらいに行くか。」


「そうですね。いくらシドも王国貴族になったとはいえ、他国には他国のルールがありますから。」


協力者である枢機卿は、言わば国の政治を司る大臣的ポジションだ。たとえ王国の大貴族の親書携えた使者といえど正式な手順を踏まずにおいそれと合える人物ではない。そこで俺たちは、聖国の冒険者ギルドから枢機卿への謁見を申請してもらうことにした。


「さっさと聖女様に会いに行きたいけど仕方ないか。」


「聖女っていうくらいだから、やっぱり(警備態勢も)凄いんだろうなぁ。」


「な、なんて事言うんですか!?当代の聖女様は、若くとても美しいそうですからね。そりゃあ?早く会いたくなるシドの気持ちもわかりますけど・・・。」


「ん?」


なんだかカレンに妙な勘違いをされた気がしないでもないが、構わず歩を進めると目的地が見えてきた。


「あれじゃないか?冒険者ギルド。建物も国よって全然違うもんだな。」


周囲の建物に溶け込むように白を基調とした石造りの建物に「冒険者ギルド」と刻まれているが、とても粗野な冒険者が出入りするようには見えない厳かな雰囲気の扉に手をかける。


「・・・なんだこりゃ?」


中の作りは、いつもの冒険者ギルドだが圧倒的に人が少ない。というか俺たち以外にはカウンターに1人いるだけだった。


「この国に留まる冒険者は少ないですからね、居ても聖都の外の拠点にいることがほとんどなのでギルドに来るのは換金くらいなんです。」


「外の拠点?依頼の受注とかどうしてるんだ?」


「それは掲示板を見ればわかりますよ。」


言われるままに掲示板を見に向かうと、カレンのいう意味が理解できた。


普段なら討伐依頼や護衛任務、採取系依頼が所狭しと乱立しているはずの掲示板には、『大渓谷ガイド募集』『清掃員募集』『配達作業員募集』の3件しか貼り出されていなかった。


「たったこれだけか?!どれも、冒険者を必要としてるものはない上に報酬が「お気持ち程度」って仕事なのかすら怪しいぞ。」


俺の驚嘆に気がついたのか、ギルド職員らしい女性が声をかけてきた。


「ここも元々盛んな方ではありませんでしたけど、去年制定された新しい法の影響で討伐系依頼は無くなってしまったんです。大きな声では言えませんけど、聖都というよりこの国自体が冒険者ギルドを排斥しようとしてるなんて噂もあるくらいですから・・・」


そう言うとギルド職員は、そそくさとカウンターに引っ込んでしまった。カレンを見やるとむずかしい顔をしている。やはりこの国で学生冒険者カレンも感じるものがあるのだろうと思っていたら意外な反応が返ってきた。


「一応抜け道はあるんです。」


「抜け道?どう言うことだ?」


「指名依頼ですよ。掲示が少ないだけで困ってる依頼者はいるので、そういう方から直接受注するんです。」


指名依頼は元々、高難度な依頼や秘密保持の必要がある依頼などで依頼者自身が任意の冒険者を指名して行うため仲介料さえギルドに納めれば発注できる仕組みだが、往々にしてグレーゾーンな内容が多いため王国やベスティアではあまり受ける者はいなかった。


「まるで闇営業だな。その新しい法ってどんな内容なんだ?」


「たしか、『信徒以外の者は、領内資源(植物及び鉱石等の採取物、狩猟した獲物の素材、魔物魔獣討伐による希少素材)の神聖国内での換金に対し資源税を教会に納めよ。』って言うもので、これが結構な額を要求されるんです。なので、外から来るBランク以下の冒険者は指名依頼で国外から持ち込んだように偽装したり、シドの言うように隠れて売買や換金をしてるみたいです。」


「仲介料の他に税金も取られたら稼ぎが減る一方だな。それでわざわざ聖都の外に拠点をもつわけか。」


「まぁ、今の私たちは冒険者稼業をしにきた訳ではないので・・・。」


「それもそうだな。とりあえず、ギルド長を呼んでもらうか。」


各国事情はあるのだろうと思考を切り替えてカウンターに向かうと先程の女性職員がちょうど居た。


「やあ、さっきはどうも。俺たちはレムリア王国から来た『グラディウス』のシドとカレン。はい、登録証。急ぎ、ギルド長を呼んで貰えるかな?」


「あ、はい。確認しますね。・・・え、「A +」って!!!?しょ、しょ、少々お掛けになって、お、お待ちください!すぐにギルド長を読んできます!」


この流れも慣れてきたな・・・


「よろしく頼m・・・」


俺が言い終えるより早くギルド長室があるのだろう二階に、ものすごい速さで走っていった職員が同じように凄い速さで戻ってきた。


「お、お待たせしました。ご、ご、ご案内致しましゅ!二階へどうぞ!上がって左手奥の部屋になります!」


「あ、ああ。ありがとう。」


二階に上がり通された部屋は応接室らしく、すぐに聖都のギルド長がやってきた。


「ようこそ聖都へ。いやぁ、王国側から何も聞かされてなかったので驚きましたよ。私が冒険者ギルド聖都支部長のドミニクです。・・・おや?君は」


「お久しぶりです。ギルド長。」


「おお!やはりカレンさんでしたか。冒険者登録してるとはいえ学生の君がなぜご一緒に?」


「それが・・・「急に押しかけてしまい申し訳ありませんでした。改めて、冒険者パーティ『グラディウス』のシドと言います。ご存じだとは思いますが、仲間(パーティメンバー)のカレンです。」


カレンには王都での再会から、なし崩し的に同行させてしまっているため、正確にはメンバーではないが説明がややこしくなりそうなので食い気味自己紹介を済ませた。


「そうでしたか!これはこれは、ご丁寧に。まぁ加入の経緯などは次回ゆっくり聞かせてくださいね?それで急ぎの御用があるとか?」


俺は、ひとまず王城の一件を伏せてキトルス候の協力者である枢機卿の名を出し謁見の申請を頼む事にした。


「〜という訳で、聖都に来たら頼るように言われたんですよ。まさか会うのに許可がいるほど高位の方とは思わず、困った末にここに辿り着いたんです。お願いできますか?」


「なるほど。なるほど。あなた方ほどの方達なら謁見申請も通るでしょう。すぐに手配しておきますが、枢機卿は皆多忙な方達ですので最短でも明後日になるかと。」


「わかりました。ありがとうございます。それでは明後日また伺います。では。」


「お、行かれますか?では、用意出来次第カウンターに預けておきますね。」


明後日か。仕方ない、都市内の散策でもするか・・・何か名物とかあるのかな?と思案を始めた俺は、部屋の扉に手をかけた。


「あ!待ってくださいシド。すいませんギルド長。また伺いますね。」


「ええ。楽しみにしてますね。」


そしてギルドから出ようとした俺たちが、出口で二人組の男達とすれ違い損ねてぶつかった瞬間に・・・


「おいおい、お前たち手癖がよくないな。返してもらおうか?」


「え?シド・・・?あ!!」


二人組が慣れた手付きでカレンの腰袋から財布を抜き取ったのを俺は見逃さなかった。


「チッ!どけ!!」


これまた慣れた感じで脱兎の如く逃げ出した二人組。


「逃すかよ!追うぞ!カレン!」


「は、はい!」


この追跡が聖都に来た時に感じた違和感の正体に繋がるとは、この時はまだ思いもしなかった・・・


いくら地の利が奴らにあろうと高ランク冒険者を振り切るのは不可能だ。しかし、市街区の外周に入るとそれまでの街並みと雰囲気が変わった事に気付いた。


「まだ追ってきやがる。くそ!裏に回れ!」


「そろそろ諦めろ。」


そう言いながら古びた教会のような建物の角を曲がった俺は本日2度目の驚嘆の声を漏らした。数瞬前に角を曲がったはずの奴らが消えていたのだ。


「何!?どこいった??」


「や、やっと追い付きましたぁ・・・あれ?犯人はどこですか?」


「消えた。どうなってんだ?」


見失った場所は、どうやら廃棄された孤児院らしくボロボロの遊具や泥に塗れた人形のようなものが打ち捨てられていた。


「外周区にこんなところがあったなんて・・・」


「外周区?市街区じゃないのか?ここ。」


「外周区って言うのは、隠語で元々は流れ着いた移民や逃亡した奴隷などが住み着いていた所謂貧民街だったみたいですが、「神の威光の前にあらゆるものは平等である」と言う教義をもって現在の教皇猊下と枢機卿の体制になった時に教会が援助して市民権と仕事与え貧困の解決に尽力したそうです。それをきっかけに区画にも大規模な改修を行ったと学園では習いました。」


「なるほどな。道理でここに来るまで違和感があったわけだ。この国は何もかも綺麗すぎるんだよな。街も人も。信仰も格差のない社会も確かに平和かもしれないが、もっと人間の本質って色々あるのが自然だと俺は思うんだよな。辛く苦しくても支え合ったり、這い上がって困難に向き合う強さって満たされると忘れがちになるけど、大事な要素だろ?ここにはそれを全く感じなかったんだ。来たばかりだけど、これだけの規模の都市なのに活気のある市場とか、ここまで全然なかったし、みんな同じ格好で下向いて歩いてる奴ばっかりだったんだよな。」


「言われてみると確かに歪かもしれませんね。学園にいるときはあまり市街区に来ることがなかったので気がつきませんでした・・・」


「ん?・・・・・・あの井戸のロープだけそんなに傷んでない?」


少し残念そうに答えるカレンの視点が俺の後ろにあった古井戸で固定された。


「どうした?この井戸がなにk・・・!!!風が来るってことは下に通路か空間があるな。でかしたぞ!カレン。」


確信した俺たちは古井戸のロープをつたい降りていった。

底まで降りた俺たちの眼前には、予想通りかなり広い水路が奥まで続いていた。


「お!足跡があるな。きっと奴らだ。一本道っぽいけど、どこに繋がってるんだこれ?よし!進むか。」


「え、ええ。こんな地下道があるなんて・・・」


犯人を追う俺たちは薄暗く湿った水路を進んだ。

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