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第55話『母と娘』

その日、完成したばかりの「新作」の調整を終え、メルカトスにある国立魔科学研究所でティエナ・エリは、先頃送り出した我が(ラビ)光子脳(コアユニット)と繋がる端末でデータログを見返していた。


「……..ふむ。あの子の光子脳(コアユニット)過負荷(オーバーロード)のアラートを吐いた原因は何かな…。考えられるとしたら自壊防止リミッターが『覚醒』したことで生まれた「感情」を処理しきれずに外れた、もしくは外れそうだとすると…」


自律型魔法人形(オートマタ)を構成するパーツは、恐ろしく多いがその中でも特に胸の収まる動力炉の核となる「人造魔石(アニムス)」とメルカトス地下深くにある巨大演算装置(サーバー)に接続された思考、行動を制御する「光子脳(コアユニット)」は、個体それぞれに調整が施されている一点物の重要なパーツである。


中でもラビは、兎人種(ワーラビット)アウロラ型の個体が覚醒し自我を獲得した特殊な事例であり、覚醒により本来搭載されていないはずの喜怒哀楽を示す「感情」を持ち、自らの意思で考え、行動し成長する人造生命体(アンドロイド)とも言うべき個体のため代えなど存在しない。


「ん〜。もしベースの生体素材に残ってた「狂化因子」が、あの子の強い感情で呼び起こされたと仮定するなら、リミッターが機能不全なのもこのデータログも納得の数値だけど…検証しようにも不確定要素が多すぎるんだよなぁ。せめてあの子から直接聞ければ………..あ!それだ!!!」


他の個体と同様にデータログが見れると言うことは、外部から任意の個体にアクセス可能ということだ。シドに所有権を渡しているが、全ユニットの管理者権限でならここからでもアクセスできるということを意味する。


「コアにアクセスしたとして…。一方通行じゃ意味ないし…。電信魔法(メッセージ)的な機能付けとけば良かったなぁ…」


基本的に端末から得られる情報は、あくまで行動履歴と光子脳(コアユニット)から送られてくるフィードバックであり、本体に蓄積された会話や映像のログは外部からは見ることはできない。いくら魔力を動力源に動く魔法人形と言っても、万能ではないのだ。


「むー。何かないかなぁ…」


何とかアイデアを捻り出そうと部屋の中をぐるぐると歩き待っていたティエナの視線が「調整中」と書かれた箱で止まる。箱の中には、以前実用試験を兼ねてシドとラビに渡した物と同じ試作装備「アルスマグナ」が収められていた。


「むむむむむ!!? これだぁぁぁぁぁぁ!!」


斯くして「アルスマグナ」に搭載された通信ユニットを介してアクセスに成功し、状況を知ったティエナは、迷うことなく自身が新たに開発し完成し調整を終えたばかりの「新作」転移装置(ポータル)に飛び乗るとデータログからラビの座標を素早く転送し、起動ボタンを叩く。





・・・そして現在。




「さぁ、治しに来たわよ!」


「え!?ティエナ様?」


数秒前まで「アルスマグナ モデル 白化(アルベド)」を通して会話してた自らの創造者である鎚小人(ドワーフ)の魔科学者が現れたことに驚きを隠せないラビ。


「いやぁ。うまく飛べてよかったー。座標はわかってたけど、ズレて壁とか床に埋まらないかドキドキしちゃった。で、あなたがジルさんね。ふーん。なかなかのイケオジじゃない。改めて自己紹介するわ。私がティエナ・エリ。メルカトスの国立魔科学研究所の所長で、この子の生みの親ね。よろしく!」


ティエナの怒涛の自己紹介(あいさつ)に、ジルニトラも思わず圧倒されていた。


「さすがは、『現代魔科学の至宝』と誉れ高いティエナ様でございますな。当家を預かる者として感謝致しま…「ふんふん。言語機能は問題なさそうね。なるほど。光子脳(コアユニット)もとりあえず無事みたいね。中のチェックするから脱ぎなさい。ほら、早く!ん?そこ!男は外に出てなさい!」


ジルニトラの最大限の謝辞に食い気味なティエナの指示が飛ぶ。


「!? これは、失礼いたしました。御用の際はお声がけください。」


勢いに押されそっと扉を閉め部屋から退室したジルニトラは額の汗をチーフで拭う。


「まさか竜人族の私が鎚小人(ドワーフ)に気圧される日が来るとは…長生きしてみるものですねぇ。」


人型種最強とも謳われた竜人族(ジルニトラ)の感慨をよそにティエナは手際よくラビに持ち込んだ機器を繋いでいく。


「さて、解析中はスリープ状態になるから、楽にして寝てなさい。」


「あ、あの…ティエナ様。私、直るんでしょうか?壊れてたらシド様に会えなくなりますうううう」


不安を隠しきれず泣き出してしまったラビ。


「バカね。だから私が来たんでしょうが。いいから寝てなさい!」


「は、はい…」


頼もしい言葉に安堵したようにスリープ状態に入るラビを見るティエナ。

その目は、まるで我が子を寝かしつける母のようだった。

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