第52話『いざ聖都へ』
王都を脱出した俺たちは、キトルス候の依頼を受け一路神聖国家連合国を目指していた。
国境近くの教会から乗合馬車で揺られたどり着いたのは、大渓谷を縫うように続く巡礼路の入口に位置する宿場だった。
「旦那方、この宿場が終点になりやす。聖都へは航空街道以外はここからは徒歩で行くしかないんですよ。」
乗合馬車の御者は、そう言い残して来た道を戻っていった。
「ひとまず、買い出しだな。水は魔法で何とかなるとしても防寒具と携帯食は必要だからな。…って聞いてるか?カレン。」
「あ!ごめんなさい。ここに来たのは、入学の時以来だったので。」
慌てて弁明するカレンに俺は、やれやれとリアクションで答え宿場を見渡す。
行き交う人は多く、皆一様に信徒の正装である薄い青色のコイフとトュニカを見に纏い、簡素な杖に小ぶりな鞄を背負っている。
「聖地巡礼って感じか。俺たちみたいな格好は、逆に目立ってしまうな。」
「そうですね。商人や他国の貴族は空路で入国が安全ですし、聖都の冒険者は基本狩場の大渓谷を越えては来ませんし、ここは巡礼者用の宿場のイメージが強いですから。」
「なら、俺も空路がよかったな…」
「残念ですが、レムリア王国の発着場は王都にしかありません。ん?あれは….」
「どうした?」
カレンが見やる方向に目を向けると一羽の鳥らしきものが飛んでくるのが見えた。鳥は俺たちの頭上で旋回した後、迷わずカレンの肩に降り立った。
「これは…お父様からの伝令鳥ですね。」
「伝令鳥?」
「任意の届けたい相手の魔力を辿って高速で飛翔する鳥を使った連絡手段です。契約が必要ですが、送り主と受け取り主の魔力以外には見向きもしませんし、本人以外には開封が不可能なので、遠く離れた兵に指令を出す場合や電信魔法の傍受を警戒したときに用いられます。」
そう言うとカレンは慣れた手付きで括り付けられた書簡入れを開けて、中に入っていた二通の封書を取り出す。伝令鳥は用が済んだと言わんばかりにそそくさと飛び去っていった。
「一通は、私たち宛でもう一通は親書のようです。」
「どれどれ…」
『前略、シド・グラディウス殿 ジルから聞き及んでいると思うが、現在王都は王弟バラデロにより陛下と王妃を半ば人質に取られた状態が続いており、いまだ政変の危機にある。そこで其方らに依頼した件、電信魔法では傍受の危険性があったためこのような形で詳細を伝えることになってすまない。件の詳細だが同封した親書を聖都にいる聖女様へ届けて欲しいのだ。我が国と神聖国家連合国は、古くから友好国ではあるが、彼の国は永世中立国ゆえ友好国といえど軍事介入は是としない。しかし、神子としての聖女様の権威は国の長たる教皇と並ぶものだ。聖女様の御言葉は、神の意思でありルーメン教の総意となる、如何に他国の王族、貴族であろうと無視はできぬ。そこで同じく神の寵愛を受けるシド殿を祝福する名目で王国に招き、陛下の御前で祝福の儀を執り行う旨が記してある。当代の聖女様はルクセラ・ルーメンの加護により、呪いや洗脳などあらゆるモノを見抜き、無効化できる「看破の瞳」というスキルを持っている。バラデロの企みが何であれ国賓の参加する儀式となれば陛下を幽閉し続けることはできまい。先んじて神聖国家連合国の私の友人にも協力を取り付けておる。聖都に着いたら、まずは大聖堂にいる枢機卿のアグラウス・ローゼンを見つけてくれ。彼が聖女様に取り次いでくれるはずだ。では、幸運を祈る。 追伸、わかっているとは思うが旅路で娘と同衾した場合は責任は取ってもらうぞ? マンダリオン・フォン・キトルス』
流石に、最後の一文は余計だろ。と感じつつも、国王奪還には俺達の依頼達成が不可欠なのは理解した。要は聖女の宗教的権威とスキルを使い国王をバラデロから取り返す作戦ってことだ。昏睡させたままでは祝福の儀式とやらに参加は難しいだろうし、王位を簒奪するにしても、全てが終わる前に国王を表に出すとなればバラデロも不都合が無いよう洗脳魔法くらいはかけるだろうし、そこを見越してのスキル持ち聖女が必要になるわけか。まあ、俺としてはラビさえ無事に戻ればいいんだが、カレンの家族がピンチとなれば一肌脱ぐしかないからな。
「………..ど、同衾だなんて….そんな…でもシドにお願いされたら…..私」
一緒に読んでいたカレンは肝心の内容よりも最後の一文に耳の先まで真っ赤になりながらゴニョゴニョと言い淀んで俯いていた。
いくら何でも、流石に未成年の学生をどうこうするわけにはいかんだろう…と思いながらも、俺は気を取り直して宿場に併設された市場に向き直る。
「よし!さっさと買い出しを終わらせて、向かうとするか。」
「ひゃっ!ひゃい!」
おかしな返事をしているマセた貴族令嬢を伴い俺たちは市場へ向かった。王都に残しているラビも心配だが、ともかく今はバラデロの手から王様達を奪還するためにも1日も早く聖都にいる聖女様に会わなくてはならない…




