第51話『きっと大丈夫。』
新章の開幕です。舞台は王都を遠く離れた神聖アストルム国家連合国。本章は、シド、カレン視点とラビ、???視点が交互に展開していきます。
新章 『対価』
王弟バラデロの謀略によりレムリア王暗殺未遂犯として王都を追われたシドたちグラディウスのメンバーは、合流予定だった隠れ家で待ち伏せに遭い更なる逃走を図る。追手を振り切り廃村に身を隠していたシドとカレンの元にキトルス家の家令ジルニトラから『電信魔法』が届く。
「シド殿、お二人ともご無事ですか?」
「ジルさん!?」
自分たちを逃すために殿を引き受けたラビ。いくら武装した自律型魔法人形と言え、1人では限界がある。逃走中も不安を拭い切れなかった俺はジルニトラに捲し立てた。
「ラビは無事なのか?王都から脱出できたのか?頼む!無事だと言ってくれ!!」
自身より先に仲間の安否を気にするシドの焦りが電信魔法越しでも伝わることにジルニトラは、かつての仲間たちの姿が重なり笑みを浮かべた。
「ご安心ください。ラビ殿はご無事です。お疲れだったようで今は眠っております。ただ王都の封鎖が思いのほか速く、脱出とまでは行きませんでしたが、王都屋敷にて匿わせていただいています。いくら王弟とはいえ、国務大臣の屋敷に土足で踏み込むことはしないでしょう。屋敷内は防諜魔法も万全ですので、万が一の場合は秘密の脱出路もありますから。」
ラビの無事を聞き、張り詰めていた緊張の糸が緩む。とはいえ問題は山積みだ。
「ジルさん、あれからどうなったんだ?」
屋敷を取り囲んでいた兵は少なくとも20名以上いたはずだ。ジルニトラが加勢したとしてもあれだけの包囲を接敵せずに離脱は困難だろう。キトルス候は俺たちと王国兵の交戦という既成事実を大義名分に俺を謀殺する狙いを懸念していた。
「結果から言うと、ラビ殿は目立った怪我もなく私が到着した時点で、すでに屋敷内は侵入者だった者達の肉塊と部隊の指揮官と思しき半死半生の生存者が1人だけでした。ラビ殿も大変お怒りの様子で残った1人も狩り尽くしてしまいそうだったので鎮静魔法で落ち着いていただき、当家の王都屋敷にお連れ致しました。残った生き残りの者はバラデロ公関与の証人ですので、応急処置程度に癒し屋敷の地下牢に入れてあります。」
「そうか…。こんなことがなければ王国とは仲良くやるつもりだったんだけどな。売られた喧嘩とは言え、1人であの数を殲滅したのか…」
完全武装し怒り狂った自律型魔法人形によって特殊訓練されてる兵が一方的に虐殺される様を想像してみるが、普段のラビのイメージとはかなりの乖離がある。自我の発現から一緒にいる俺にも見せた事のない側面があるのだろう。あのジルニトラでさえ形容し難い最期を迎えることになった兵士を少し哀れだなと思いながら王都下層区画での一件(第46話参照)と合わせてやはりラビを怒らせないようにしようと改めて誓った。
「その点は安心して問題ないかと、バラデロ公も秘密裏に兵を動かしたとは言え事態が知れれば国王陛下に対する叛逆となりますし、元々防諜魔法と防音魔法が施された屋敷ですので、交戦の事実は外部に漏れておらず、また王城にも知らされておりません。」
「とりあえずは、よかった。でも王様と王妃はどうなったんだ?昏睡状態だったんだろ?」
ことの発端は、暗殺未遂が原因だ。倒れたと言う知らせ以降、キトルス候ですら合わせてもらえないようだったし、安否も不明だ。
「貴族派閥の内通者から得た情報によれば、強力な睡眠魔法がかけられて寝所におりますが、両陛下共に無事なようです。とは言え近衛ではなくバラデロ公の私兵が寝所周辺の護衛についている為、幽閉と言うのが適当かと。」
まあ、ラビに何かあったら即座に王都へ殺しにいってるところだが、ひとまず王と王妃が無事ならば、真犯人…というかバラデロから奪還し奴を捕らえてしまえばいいだろう。と思案しているとそれまで黙っていたカレンが疑問を口にする。
「ねえジル。ラビさんが無事なのは、わかったけど王都からどうやって脱出させるつもり?」
確かにそうだ。厳重な屋敷にいるとは言え、俺たちとキトルス候の関係は周知となっているし、いずれ場所は特定されるだろう。最悪バラデロが暴挙に出る可能性もゼロではない。王都が封鎖された今、脱出はより困難だ。
「そのことでお二人に旦那様より冒険者チーム『グラディウス』への依頼がございます。」
「この状況下でわざわざ冒険者としてってのはどういうことだ?」
正直、あまり時間があるとは思えないし、実際問題ラビや王様たちより優先度が高い事態なんて思いつかなかった。
「これは現在我々の中で王都外に居り、唯一自由に動けるお二人にしか実行はできないのですよ。依頼内容は、王国の使者として王国北部の国境を超え、隣国アストルム神聖国家連合国のある人物に会っていただきます。その人物についてですが…」
……..
俺たちはラビを救出するため、キトルス候の依頼を受けアストルム神聖国家連合の国境近くの小さな教会にいた。
「それにしても寒いな。なんでこう毎日雪が降るんだ….」
大陸北部の大渓谷の先に点在する小国家が宗教を軸に巨大な連合を成すアストルムは一年のほとんどが雪に覆われた極寒の地だった。
「そのうち慣れますよ。私も入学したての頃は外套を脱げませんでしたけど、ひと月もすれば慣れましたから。」
ひと月も滞在しない俺はどうすればいいんだよ!と突っ込みたい気持ちを抑えつつ暖炉に焚べる薪集める。俺たちは依頼を受けてから3日で北部国境を抜け、大渓谷を越えたところで吹雪に遭いに程近い教会で休ませてもらっていた。目指す聖都は、ここからさらに乗合馬車で2日ほどのところらしい。
「カレンの通ってる学校も聖都にあるのか?」
「ええ。エクレシア学園は聖都アストルムにあるルーメン大聖堂に隣接してるんです。」
ルーメン教。この世界に最初現れたとされる光の神『ルクセラ・ルーメン』を主神と崇め、大陸の総人口の実に4割という信徒数を誇る一大宗教であり、200年ほど前に国教にしている小国が同盟を結び集まった結果、大陸北部最大の宗教勢力となり現在のアストルム神聖国家連合国となったそうだ。元の世界で言うところのバチカン市国あたりがイメージし易いだろうか。教義としては、『神の威光の前に如何なる者も平等である』って教えの通り、種族や身分に貴賎はなく、来るものは拒まず受け入れるというものである。国家としては、五年に一度の周期で選ばれた教皇と選任された4名の枢機卿が政を担い、細かなインフラ整備や教会をはじめとした宗教施設などは枢機卿に連なる司教と司祭で運営している。宗教国家であるが、高い魔法技術力を誇り、魔科学の総本山であるメルカトスを有するベスティア共和国とともに、この世界において高い技術力と先見性で発展を続けている技術大国の側面ももっている。そのため教育にも力を入れており、中でも国内外に名を轟かせるエクレシア学園は、多くの偉人を排出する名門校である。
「そういやすっかり忘れてたけど、カレンの友達は式典の後どうしたんだ?アルメラとクロエだったか。」
「王都が封鎖される前には王都を離れて学園に戻ったはずです。」
「はず?どういうことだ?」
式典から襲撃まで10日ほどの間、2人は俺たちに気を遣ってか上層区画に宿を取っていた。俺が訪問客の対応に忙殺されてる間、数度屋敷で見かけたが襲撃の3日前辺りからは見かけなくなっていた。てっきり観光を楽しんでいるのかと思っていたが、襲撃のドタバタがあった夜以降すっかり失念していた。
「あの夜、旧市街で追手に見つかって王都を出る時、電信魔法でジルに2人がまきこまれる前に脱出させるように頼んだんです。2人は電信魔法が使えないので連絡は取れてないんですけど…」
あのドタバタの中、彼女は冷静に友人を気遣っていたんだなと感心する。俺は殿のラビの心配と自分達の脱出しか頭になかった。もし、彼女がいなければあの子たちを俺の失念が原因で騒動に巻き込んでいたかもしれないと思うとゾッとした。
「きっと大丈夫さ。ジルさんもこの間は何も言ってなかったし、あの人が失敗する姿なんて想像できないだろ?」
「ええ…..確かに想像できませんね。父も昔よく言ってました。ジルが完璧なのではない、完璧だからジルなのだ。って」
「はははっ本人を知っているだけに説得力ある名言だな。」
とは言えカレンも2人の声を聞き、安否を確かめるまで不安な時を過ごすだろうが次の定期連絡の時にジルに確認すればいい。
「薪はこんなもんで十分だろ?もう流石に寒さの限界だ…」
「そうですね。戻りましょうか。」
教会に戻ると司祭やシスターに連れられて子供たちがやってくる。俺は早速暖炉に薪を放り込み、盛大に燃やした。子供たちの歓声が響く中、司祭が聖都への乗合馬車は明朝出発だと教えてくれた。2日も揺られれば目的地の聖都アストルムだ。
王弟の謀略で大切な者達と離れ離れになった俺たちは、1日も早い再会を願うのだった…….




