第49話『名誉』
式典当日の朝を迎え、王城の中は慌ただしく人が行き交っている。そんな中シド、ラビ、カレンの三人は控え室で支度を進めていた。
「なんか、緊張するな…王国の偉い人いっぱい居るんだろ?というか、この格好は大丈夫なのか?」
ジルニトラが用意してくれたのは貴重な黒蚕からつくる漆黒の絹に細かな細工が施されダークトーンの宝石が随所に散りばめられたダブレットとブリーチ、そして黒獅子の鬣と毛皮で作られたマントだった。
「よくお似合いですよ。主役なのですから堂々としていればいいんです。シド様も今日からその偉い方の一人になるんですから。」
「ラビさん、大丈夫ですよ。シドは父と私もサポートしますから、安心してください。」
「むむ…カレンさん、シド様のそばには私がいますからご心配いただかなくて結構ですよ?」
「いえいえ、我がキトルス家が責任を持ってサポートさせていただきます。」
昨日の夜から、二人はこの調子だ。式典の後に王自ら宴を開いてくれると分かり、ラビとカレンの間で俺のパートナー役の争奪戦が起きた…。結局どちらも譲らず今に至る…
「まぁまぁ…仲良くしてくれよ?宴は三人で出ればいいだろ?」
「カレンさんより、私の方が身長も釣り合いますし冒険者としてもパートナーですから私が同席します。」
「わ、私は貴族の宴にも慣れてますから、不慣れなシドをエスコートできますよ。」
「あら、本来エスコートは女性ではなく男性がやるのでは?それに所作や受け答えに関しては既に『機能更新』してあるのでご心配には及びませんよ?」
「ぐぬぬ…」
舌戦は、ややラビが優勢のようだ。
「その辺にしておけ、宴は三人で参加するぞ。異論は認めない。以上。」
「うぅ…シド様がそう仰るなら……」
「し、仕方ないですね……」
「まったく…ラビは俺に固執するところがあるのは何となくわかってるけど、カレンまでどうしたんだよ…キトルス家の為なのは分かるけどさ。」
「そ、それは……」
「ふふっ…シド様、それは野暮というものですよ。」
「野暮?何がだ?カレン、俺なんか変な事聞いたか?」
「カレンさん、お分かりいただけましたか?これがシド様なんです。」
「くっ…わかりました……」
コンコン…
「ん?誰かな…?」
扉がノックされ、ジルニトラが入ってきた。
「お迎えに参りました。御三方共どうやら準備は万端なようですね。式典が間もなく始まります。あと、シド殿に旦那様より言伝を預かっております。」
「キトルス侯から?」
「はい。『謁見の際、魔力を抑えずに力を見せ付けて欲しい。陛下と近衛には伝えてあるので遠慮なくやってくれ。』との事です。」
「見せ付ける…か。大丈夫かな?晩餐会の時のような事にならないといいけど…」
「ははは、旦那様も何かお考えがあるのでしょう。では、参りましょうか。」
そうして俺たちは、玉座の間に向かった…
……
国王アレクシス五世。
玉座に座る豪奢な衣を纏う姿の王は老いてなお、戦場で鍛え上げられた屈強な鋼の肉体を持ち、よく手入れされた白髪と白髭を蓄え鋭い目付きのその顔は精悍な歴戦の猛将のようだ。
賢神と称される建国の祖メーティス・レムリアの血をひく王家の中では智略より武に秀でた才を持ち、皇太子であった若き頃より民の為に戦う事を選び、実力で軍と騎士団をまとめ上げ歴代で最も戦場を駆けた歴戦の猛者として王国の強さの象徴であった王は、多くの戦場を見てきた経験から王位継承後は争いのない平和な国を願い、急速に肥大化する帝国の脅威に備えいち早く隣国のアストルム神聖国やベスティア共和国と三国間不可侵条約を締結させるなど、民の為に様々な改革を行い民に慕われる善き王になった。その結果は現在の王国の繁栄を見れば明らかだろう。
……
式典はシドの紹介というより様々な英雄的な武勲を褒め称えるところから始まった。
集まった貴族達は読み上げられる内容に違和感を感じていた、まるで子供に読み聞かせる英雄譚のような内容だからだ。
「たった一人でAランクの魔獣を倒せるとは、いささか誇張が過ぎていますな…」
「どうも、この冒険者はキトルス侯の子飼いらしいですぞ?」
「やれやれ…王派閥の情報操作も露骨になりましたな。」
「だが、先日のキトルス侯が開いた晩餐会で『聖剣の誓い』を打ち破ったのが事実なら、あるいは…」
「バラデロ公は、まだいらしてないのか?さすがに王主催の式典を無視は不味いだろう…」
「皆様、静粛に。」
進行役から声がかかり、ざわつく玉座の間に静寂が訪れると同時に入口の扉が開く。
玉座の間に通されたシドは覇気も魔力を抑えることなく玉座に進む。途端に王の両翼に控える騎士団に緊張が走るのが伝わってくる。
カチカチカチカチ…歯が鳴るのを止められない彼らの目にシドは自分達では決して歯が立たない人の姿をした怪物に見えているのだろう。
「な、なんだアレは…」
「くっ…なんて覇気だ。これほどとは……」
「気をしっかり持て、油断すると意識を刈り取られるぞ…」
「これは、覇気だけではない…魔力もとんでもないぞ。」
それまで侮っていた者達の目は、一瞬で畏怖に染まった。貴族達も明らかに異質な存在に言葉を失っていた。
それを無視して進むシドは、おもむろに立ち止まって恭しく礼をする。
「国王陛下。」
前日、ジルに教わった通りの王国式の騎士礼だ。
「よくぞ参られた王国の新たな友よ、歓迎する。」
王は、にこやかにシドを迎える。直接会うのは初めてだが、まるで旧友と再会したかのような雰囲気だった。
「冒険者シド・グラディウスよ。度重なる王国での武勲に対し、レムリア王国の王の名において、侯爵位『英雄侯』そして、Aランク+の冒険者として『剣聖』のクラスを授ける。」
「これからも王国の友として、そして剣の道を目指す者達の誉れとなり、更なる活躍を期待する。」
この瞬間、王国の新たな伝説『シド・グラディウス英雄侯』そして『漆黒の剣聖 シド』が誕生したのだった。




