第48話『式典前夜』
王都で起きた誘拐未遂事件は、シドとカレンの再会という結末で幕を閉じた。ラビを連れ出し、事の発端となった男たちは手当てされた後、全員牢に投獄され王都内での不当な人身売買に関わっていた罪で彼らが所属するザバラ商会や後ろ盾の貴族派閥にも徹底的な追及の手が入ると貴族派閥があっさり手を引いた為、孤立無援のザバラ商会は事実上組織解体となった。
斯くしてカレンと再会を果たしたシドは、その夜、キトルス家の王都屋敷にいた。
部屋の中にはシドとカレンの二人だけだ。
夢の中であった時は気づかなかったが、この世界のカレンは、儚げな輝きを放つ白金の長い髪にエクレシア学園の制服が良く似合う、美しい少女だった…
「あの…改めてご挨拶させてください。私はキトルス辺境伯家の娘、キャサリン・フォン・キトルスです。ですが、変わらずカレンとお呼びください…」
「ははは、堅いな俺まで緊張するよ。話すのは、一年近く振りかな?でも、こうして会うのは初なんだな…。どうだ?少しは落ち着いたか?」
「…はい。お騒がせしました……あの時は混乱してしまって…。」
カレンは再会を果たした直後に泣き出し、横で見ていたアルメラやクロエから何故か睨まれ、ラビは目だけ笑ってない笑顔のままの微妙な空気の中、駆けつけたジルさんと物々しい衛兵の登場により、白昼の噴水広場は一時騒然となった。
どうやら、ラビが馬鹿な冒険者たちにお仕置きした事が『怪しい男たちに亜人の女の子が攫われた事件』だと思われ、アルメラたちがそれを追跡した際、クロエが隠蔽魔法を使った為に監視が二人を見失ってしまい、結果『攫われた亜人の少女を救おうとした、勇敢な女子学生が行方不明になった事件』に発展し、早とちりしたカレンをはじめとする関係者が王都全域を捜索する事になった。
事態を察知したキトルス侯とジルさんたちは包囲網を敷き、先行してたカレンが噴水広場にて刺客の容姿に似た俺とアルメラたちを発見し強襲を仕掛けた結果、思わぬ形での再会となったのだ。
「「あのさ(あの!)……あ。」」
「あ…ごめん、どうぞ。」
「い、いえ!士道さんからどうぞ!」
「「…………。」」
「じゃあ……俺から。」
「はい…お、お願いします!」
「俺の事はどこまで聞いた?」
「父からはあの時、私が『特異点』の能力で次元転移を使って士道さんをこの世界に飛ばしてから私を探して王都にいらっしゃるまでの事は、おおよそ聞きました。今はシドさんと名乗ってらっしゃるんですよね…?」
「ああ。カレンもシドって呼んでくれて構わないよ。この名はこっちに来た時に助けてくれたファムっていう子が俺の名前が長いからって、付けてくれたんだ。」
「世界樹の守護者ですね…。まさか、そんなところに飛ぶとは思ってなくて…。ごめんなさい……」
「謝る必要はないよ。おかげで色んな人に出会えたし、感謝してるんだ。あの時は負けたけど、俺あれから結構強くなったんだ。次は、負けないよ。」
「シド…さん。」
「それに、謝るのは俺の方だ。」
「…え?なぜですか?」
「内緒だったんだろ?『特異点』の事。まさか、キトルス侯の娘だったとは知らなくてさ…ごめん!」
「いえ、いずれは話さなきゃなりませんでしたから。ですが…」
「ん?どうした?」
「シドさんは、元の世界に帰る方法を知る為に私を探していたと聞きました。私も、その事についてお話しなければならない事があります。」
一年前の出来事がまるで走馬灯のように思い出された。この世界に来てからずっと求めた答えが今、目の前にある…
そして語られる『賢者の石』の真実。
あの日、俺に何が起きたのか…。
……
「じゃあ、俺の中にある『賢者の石』が再び覚醒しないと帰れないってことか?!」
「はい。『次元転移』の影響で眠ってしまった『賢者の石』に目覚めてもらうことが必要不可欠なんです。」
「眠ってしまったって…。もしかして『賢者の石』に太刀花 可憐の自我みたいな意識があるって事なのか?」
「おかしな表現になりますが、同一存在として存在する『特異点』の中でも彼女だけは特別なんです。シドさんの魂と融合した今でも『賢者の石』として彼女はシドさんの中で生きているという事です。」
「俺の中に…。どうすれば目覚めるんだ?」
「問題はその点にあります。『特異点』の記憶にも『賢者の石』に関する情報がないんです。」
「『特異点』の記憶?」
「ええ。私も力に覚醒した時に知りましたが、『特異点』は個体としての能力ではなく、依代に選ばれた者に継承されてきた力なんですよ。世界が生まれてからずっと世界を記憶し、正しい方向に修正し続ける存在。それが『特異点』の本質です。」
「その記憶にもない存在が『賢者の石』か。」
「はい。わかっているのは、覚醒した者は意識を持った高次元の存在になること。そして、神に等しい力を与える能力があること。それにより、融合したシドさんはこの世界では考えられないような絶大な力を得たと思われます。」
「神に等しい力か。なるほどな、確かにそれなら国が個人の俺に脅威を感じる訳か…」
「シドさんは、自身の力をどこまで理解してますか?」
「自分の力?『自己証明』のことか?」
俺は、『自己証明』では普段隠している不死属性や加護のことも含めて全てわかっている範囲でカレンに話した。
「父の話から予想はしてたんですけど…それ以上ですね。賢者化の魔力だけじゃなく不死属性まで……」
「まあ、こっちに来てから死んだ事ないから不死属性は実感ないけどな。『剣神の加護』は元の世界で覚えてた技とかをそのまま使えるみたいだ。」
「あとは、何か気付いたことはありますか?」
「んー…あ!そう言えば…。」
「たまに強い怒りを感じると、何ていうか…魔力が抑えられない感じがあるかな。」
「なるほど…。それは恐らく賢者の石がシドさんの感情に反応しているのではないでしょうか。元々、あの世界の私…太刀花 可憐も感受性が高くて、リンクしている私にも強い感情が伝わっていましたから…」
「強い感情?怒りとかか?大人しい女の子だと思ってたけど意外だな。」
「いえ、怒りじゃないですよ。私にとってあの感情は…」
そこまで言うといきなりカレンは何故か耳まで真っ赤になり俯いてしまった…
「どうした?!だ、大丈夫か?具合悪いのか?」
「いえ!な、なんでもないですから!」
「あ、ああ。」
「まあ、とにかく…だ。再び覚醒しなければ元の世界に帰れない以上しばらくこの世界に留まる事になるけど、当面の目的は達成されたからな。次は『賢者の石』の目覚めさせ方を探さないとな。」
「…意外です。シドさんは絶対に帰りたいはずなのに、こんなにあっさりと現状を冷静に受け止めれるなんて…私が考えていたより全然シドさんは順応性が高いです。」
「まあ、慌てても解決はしないからな。俺も自分の身に起きてる事を知りたいし、この世界には世話になったからな。それに…なんか意味があると思うんだよ。あの日、墓参りの帰りに寄った店で偶然あっちのカレンに出会った事や『賢者の石』を拾って、命を助けられて、この世界に来た事にさ。」
「シドさん…」
「『賢者の石』を悪い奴に渡しちゃダメなんだろ?取り出せるのかは分からないけど俺の中にある以上、俺は誰にも負けないようにしないとな。正直、まだ分からない事だらけだし俺に何が出来るかなんて分からないけど、何もしないまま後悔はしたくないんだ。」
「やっぱりシドさんは大人ですね。巻き込んだのは私の方なのに……」
「俺が好きで巻き込まれたんだし、気にするなよ。冒険者生活もなかなか悪くないからな。」
「…わかりました。私も全力でフォローします。私に出来る事なら何でも言ってください。私もシドさんの力になりたいです。」
「ああ。頼りにしてるよ。…あと、シドでいいからな。」
「わかりました。シド…」
再び耳まで真っ赤にしたカレンと俺は、みんなの元へ戻り、夕食を囲みながら明日の式典の最終打ち合わせをしながら夜は更けていった……




