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『並行世界の概念崩壊(パラダイム・シフト)』  作者: 寝兎
第二章 魂の旅路
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第46話『王都騒乱 前編』

執務室の重い扉が開かれる。


「待たせたな。お帰りカレン。」


「お父様。ただいま戻りました。」


「おや?お友達は、一緒ではないのか?」


「友人たちは、城下を観光してもらってます。お父様、このような世間話をする為に私を呼んだのではないのでしょう?一体どのようなお話なのか聞かせていただけますか?」


「ははは。お前には適わないな。皆下がってよい。二人にしてくれ。」


「「畏まりました。旦那様。」」


侍女たちを下げ、二人だけになった執務室を沈黙が支配する。


そして、カレンは父から予想もしていないかった質問を投げかけられた。


「カレン…。別の世界から転移してきた冒険者『シドウムラマサ』、この世界ではシドというんだが、この名を知っているかね?」


「っっ!!?…………い、今なんて…?」


「やはり、知っているのか……。」

「では…『特異点(シンギュラリティ)』も何を意味するか、わかるな?」


カレンは高速で思考する。


なぜ父が士道の事を知っている?この世界ではシドというのはどういう意味だろう?次元転移した事も知っていた。しかも、『特異点(シンギュラリティ)』のことまで…。


「お父様、彼に…士道さんに会ったんですか?でも、どうやって……?『特異点(シンギュラリティ)』についてはどこまでお聞きになったんですか?」


カレンは、逸る気持ちで詰め寄りたくなるのを抑えて父に訊ねる。


「わかっているのは、お前が彼の命を助け、転移魔法でこの世界に連れてきた事。そして、彼は様々な経緯から今や王国が恐れるほどの力を得ている事。この二点だ。」


「王国が士道さんを恐れる?どういう事ですか?」


「明日の式典、その主役は彼なのだ。彼はお前を探す旅の過程で世界樹の守護者やメルカトスのティエナ女史と名工ラドラ老から支援を受け、急激に成長し今や彼自身のもつ力は、あのジルが本気で戦っても厳しい程だ。そして現在は仲間と共に、この王都に滞在している。そして明日の式典は、彼と王国との友好の証に新たな貴族位『英雄侯』を授け、三国を跨ぐA+ランクの国家級戦力として認める為のものなのだよ。」


父が語る士道の『今』は、カレンの知る士道の姿とは、かけ離れたものだった。


「そんな…なぜ彼が?」


カレンの疑問は当然だ。確かに『賢者の石』の力で命を繋ぎ転移させたが、まさか世界を揺るがす程の脅威に成長するとは、カレン自身も思っていなかった。世界の均衡と調整を司る力が世界に脅威を生み出すことになるなんて…


「私もお父様に色々と聞きたい事もありますが、その前に、私に発現した…『特異点(シンギュラリティ)』についてお話ししなきゃなりませんね。」


「そうだな、聞かせてくれ。いつから…いや、そもそも『特異点(シンギュラリティ)』というのは、なんなのだ?」


カレンは『特異点(シンギュラリティ)』について、そしてシドについて自身が理解するすべてを話しはじめた。


……



「なるほど……。しかし、世界の崩壊を止める為に歪みを修正する多次元存在か…。つまり、別の世界のカレンを助ける為に傷付いたシド殿を救う為に次元を越える転移魔法を使ったと言う訳か…。全く、凡人の私には想像も理解も超える話だよ。」


「隠すつもりはなかったんです。ごめんなさい。ただ、心配をかけたくなくて…。私も二年前に突然現れたこの様々な力を制御する為の訓練や自衛の力を得る為の鍛錬に必死でしたから…」


「でもまさか、士道さんが、私のことを探して旅をしてくれていたなんて…。」


「いや、謝るのは私の方だ。何も気付いてやれず、一人で抱え込ませてしまっていたようだな。お前が背負っているもの、お前が見てる世界は幾つもあるのだろう?だったらせめて、この世界くらいは私にも少し手伝わせてくれないか?」


「お父様…。」


二年間抱えていた想いが堰を切ったように溢れてカレンの頬を濡らす…


「お前の想い人とは、彼の事なんだろ?」


「…なっ!?」


「ふふっ…顛末を聞き、二人を見れば私にもわかる…。そう言えば、シド殿も驚いていたな。探していたのが、私の娘だと知った時の彼の顔をお前にも見せてやりたかったよ。」


「お父様、士道さ…シドさんは今どちらに?」


「ああ。今日は、仲間と共に冒険者ギルド本部に行っているはずだが…」


その瞬間、カレンたちの元にジルニトラから緊急の電信魔法が繋がる。


「ジルか。何かあったのか?」


「ジル?どうしたの?」


「申し訳ございません、お話中に失礼致します。お嬢様のご友人を監視警護していた者から、お二人が下層区画付近で突如行方が分からなくなったと報告が入りました。現在、近衛と警備兵が城下全域を捜索しておりますが、未だ発見には至っておりません。」


「「!!?」」


「なんですって?!」


「行方が途絶えたのは、中層区画から下層区画へ繋がる路地付近。冒険者ギルド本部からほど近い運河沿いだそうです。」


「すぐいくわ!ジル、引き続き報告をお願い!お父様、続きはまた夜に!『空間転移(テレポート)』!」


カレンは隠すことなく能力を使い、隣で驚く父へ挨拶もそこそこに空間転移(テレポート)で、現場に急行した。


「これが、触媒を使わぬ転移魔法…これも『特異点(シンギュラリティ)』の能力か…。」


「旦那様、驚くのはあとに致しましょう。」


「…そうだな、ジル。カレンたちを頼む。事件事故に問わずあの子の友人に何かあっては決してならん。キトルス家のすべてを使い、必ず探しだせ!」


「畏まりました。直ちに。」


……


この大捜索の少し前。


アルメラとクロエは、ザバラ商会のメンバーを追跡していた。


しかし、その姿は見えない。クロエが隠蔽魔法を使い、気配を消しているからだ。


「アイツらどこに向かってるのかしら?」


「…わからない。でも、どんどん人の居ないところに向かっているのは確か。」


「いくら人が少ないとはいえ、さすがに天下の往来で襲うとは思えないし、どこかに連れ込むつもりかしら。」


「…あ。路地裏に入った。」


「いくわよ!クロエ!」


「…うん。」


次の瞬間……


ドガンッ!バキッ!ゴンッ!グシャッ!


「な、なにす…ぶぼぁ!?」

「てめえ…ごふぅぅ!?」

「こ、こ、このや…いでででで!!?」


「「「ひ、ひ、ひぎぃゃやあああ!!」」」


男たちの声と何かが打ち付けられる殴打音が路地裏に響いた…


そして通りの対岸から路地裏に駆け寄ろうとした二人の前に信じられない光景が写る。


そこに立って居たのは、返り血に染まる少女と叩きのめされ転がる男たちの姿だった。


「「え……??」」


そして透明化しているはずの自分たちに少女は微笑み、唇に指を立てる。まるで『内緒だよ?』と言うかのように。


「「…!?か、身体が…」」


アルメラとクロエの隠蔽魔法が解け、一瞬で首から下の自由を奪われ指一つ動かなくなる。まるで身体が石になったようだ。


「な、なんで隠蔽が解け…て!?どうなってるのクロエ?!」


「…アルメラ。たぶんこれ『心縛(フィアロック)』。強力な精神魔法。」


そして兎耳の少女はアルメラとクロエなど気にも止めず、美しい顔を歪め裂けんばかりに口角を上げ転がる男たちを蹴り上げた…


「下等なゴミ虫風情が!私の愛しい主に!暴言を吐き!あまつさえ主のものである私を!凌辱しようなど!はぁはぁはぁ……あなた達のようなゴミ虫には相応の罰がお似合いですよ。」


兎耳の少女は信じられない力で、男たちを掴み上げて馬車道に次々と放り投げた。


「汚いゴミは埋めなきゃいけないですよね?『変質化(トランスファー)(スワンプ)』」


兎耳の少女は馬車道を沼に変え、ズブズブと男たちの体を沈め固める。路上の轍に頭だけ出した男たちが並んだ。


「虫は虫らしく、そこで潰れなさい。さて…あなたはまだよ?聞いてるの?聞けないなら要らない耳ね。『痛打(ペインブロウ)』」


ブチュッ!っと汚い音をたてリーダー風の男の耳が踏み潰された。男の絶叫を無視するように少女は痛みを増加させる魔法を使い殴打し続ける…


「く、クロエ……。アレは何?私たちは…何を見ているの?」


「…アルメラ。あの子は危険過ぎ。あの力はダメ。」


それからしばらく、路地裏に男の哀願と悲鳴、そして肉を打ち据え骨を叩く音が響いた……


そして、リーダー風の男がボロ切れのようになった頃、ガラガラと馬車の近づく音が聞こえてくる。


馬車は男たちの頭をトマトのように潰す寸前で停止、中から黒髪の青年が降りてきた。


「ラビ!その辺にしておけ!帰るぞ!」


「シド様♪探しに来てくれたんですか?」


今の今まで男たちに暴虐の限りを尽くしていたとは思えない満面の笑みで駆け寄る兎耳の少女。


黒髪の青年が路地裏の端で硬直させられていたアルメラとクロエの方を一瞥する。


「やれやれ…。観客がいたのか。解いてやれラビ。」


「はい♪」


魔法の金縛りから解かれて自由になった二人は寄り添いシドたちと向かいあう。


アルメラたちは、その青年の顔を知っていた。冒険者ギルド本部でこの兎耳の少女ラビと一緒にいた新人だ。


「あなた達は何者なの?唯の新人じゃないんでしょ?」


アルメラは最大の警戒心でシドに問いかける。


「ふむ、人にものを聞く時は先に名乗るものだぞ?俺はシドだ。こっちは仲間のラビ。ここで何してたんだ?君たちのような女の子が遊ぶような場所ではないだろう?」


「わ、私はアルメラ。私たちは、その子が危ない奴らに攫われそうだったから…助けようとして……」


「なるほど、ラビを助けようとしてくれたのか。心配させて済まなかったな。アルメラに、えーと…」


「シド、その子の名はクロエだよ。」


「…何故。待って、その声……まさか。」


そして、もう一人馬車から降りたフードを被った男がシドと呼ばれた青年に声をかける。


「シド、どうやら片付いたようだね。」


「ああ。助かったよクラウス。この子たちはあんたの知り合いか?」


クラウスと呼ばれた男は、そう言いながら被っていたフードをとり、隠されていた顔を晒すと中から薄緑の美しい髪と長い耳をもつ森妖精(エルフ)の青年が現れた。


「…うそ。クラウス……兄様?」


「やあ、久しぶりだね。クロエ。」


状況を掴もうとアルメラがクロエに耳打ちする。


「この人がクロエの…あなたの言ってた冒険者になったお兄さん…?」


「…うん。クラウス兄様。間違いない。」


「もぅ…何がどうなってるのよ……」


「…アルメラ。大丈夫、私も状況がわからない。」


目まぐるしい状況の変化に困惑するアルメラとクロエであった…


……


冒険者ギルド本部での事の発端から現在に至るまでの経緯をラビの視点を交えながらシドはアルメラとクロエに丁寧に説明し、多少落ち着いたアルメラたちも正直に答えていた。


「君たち、勇気あるんだな。ラビにはバレたが、隠蔽魔法を使いこなすとは大したものだ。なあ?ラビ。」


「ええ。敵意を感じなかったので、巻き込まないように拘束させてもらいましたが、普通の冒険者レベルでは探知は不可能ですね。魔力の流れからすると、クロエさんね?あの魔法使ったの。」


「…うん。」


「君たちは冒険者なのか?」


「いえ…まあ、登録はしたけど本来は学生なのよ私たち。」


「学生冒険者か。へえ、面白い事を考えるもんだな。それで、そのレベルの隠蔽魔法か…クラウスの妹さんは優秀なんだな。」


「いやいや、最後に会ったのはかなり前だからね。まさか冒険者になるとは思ってなかったよ。正直、あの時、ギルド本部で二人を見かけなかったら気付かなかったさ。」


「まあ、みんな無事で何よりだ。こんなところにいても仕方ないし、ラビを助けようとしてくれたお礼に何か上手いもの奢るよ。どうかな?」


「でも、私たち待ち合わせしてるから…」


「なら、その友達も呼ぶといい。みんなで食う方が上手いしな。」


「クロエどうする?久しぶりにお兄さんに会えたんだし…いく?」


「…うん。できれば行きたい。」


「じゃあ、場所決まったらあの子も呼びましょうか。」


「よし、決まりだな。クラウスも構わないだろ?馬車の礼もしたいからな。」


「ははは。なら、上層区画に行こう。私が店を見繕うよ。君たちは、まだ王都に慣れてないだろ?」


「そうだな。そうしてくれると助かるよ。」


そうして、シドたち一行は馬車に向かった…


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