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『並行世界の概念崩壊(パラダイム・シフト)』  作者: 寝兎
第二章 魂の旅路
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第45話『三人の約束』

『航空街道』


レムリア王国、ベスティア共和国、アストルム神聖国の三国が共同開発した『魔動力変換機関(マギドライブ)』を搭載した国家間旅客飛行船で結ばれ、空の街道とも呼ばれる航空街道。年々増加する魔獣被害に悩まされる従来の陸路に対し安全な空路は、高額ながら魔獣との遭遇が死に直結するこの世界では革新的な移動手段として人気が高まっている。主に各国の王侯貴族や要人、そして一部の富裕層などを中心に利用されている高速直行便と各国主要都市を周回する都市間定期便の二種が運用されている。


そして、神聖国から王国への直行便の中に搭乗する三人の美少女が、客室から外を眺めていた。


「こうして見ると、やっぱり広いわねぇ。」


「中央大陸は世界最大の大陸だから当然じゃない?」


「はぁ…。カレン、あんたは浪漫がないわね。ここは素直に世界の広さに感動しなさいよ。」


「浪漫って…」

「ん?クロエ何読んでるの?」


「…王都のガイドブック。初めて行くから、念入りに予習。」


「そ、そっか…」


「王都の贅沢観光かぁ。エステとかあるかしら…ちょっとクロエ。聞いてるー?」


進級試験のそれぞれの部門で無事に三人とも首席を獲ったカレンたちは、長期休暇を過ごす為、旅行の計画を立てていた。本来は南洋諸島のリゾートに行く予定の彼女たちだったが、急遽カレンが父親である大貴族キトルス辺境伯から王都に呼び戻された為、進級祝いと贅沢な王都観光を用意するというキトルス辺境伯の条件を飲み、王都に向かう事になったのだ。


……


「それにしても、カレン。お父上は何であなたを呼び出したのかしらね?」


「うーん…。わかんないんだよね。秋の休暇に帰った時には、『次は、来年だな。』って言ってたけど…まさか、こんなに早くとは思わないよ。」


「…もしかして。お見合い。」


「「えぇ?!」」


「…まあ、確かに有り得ない話じゃないわね。カレンは、王国の大貴族の一人娘な訳だし。」


「な、何よ急に…」


「…カレン。運命は、いつも突然。」


「いやいやいや!ない!ないでしょ?!」


しかし、カレンの困惑を無視して少女たちの妄想は膨らむ。


「それか…大貴族の美しい一人娘を見初めた、どこぞの上級貴族が無理やり縁談を持ちかけたとか?」


「…いや。王国での辺境伯の地位は侯爵以上の権力者、そうなると正妻がいる、王か大公クラスしかいない。辺境伯の娘に側室をさせるとは考えにくい。」


「確かに…。なら、政略結婚の線が濃厚ね。」


「…うん。政治的に考えると、そうなる。」


「ち、ちょっと!?アルメラもクロエも何で私が『結婚する』で話まとめてるのよ!!」


「じゃあ、カレンは何だと思う訳?」


「あ、いや。理由がある訳じゃないけど……」


「お父上は、何か言ってなかったの?」


「んー…」


事の発端であるカレンの話は電信魔法で、進級試験突破の報告を伝えた日に遡る。


……


「お父様、無事に進級試験首席で突破致しました。」


「そうか…おめでとうカレン。よくやったな。お前は、私の誇りだ。」


「お父様?どうかなさったのですか?どこか具合でも?」


「あ、いや。私は、元気だよ。」


「それなら良いのですが…。あ、お父様。来週からの長期休暇は学園の友人と南洋諸島に行こう思います。」


「カレン…その長期休暇の事なんだが。王都に来てくれないか?今回、新たな貴族の叙任式が決まってね。お前にも我がキトルス家の娘として式典に出てほしいのだ。それに、お前の今後についても話しておきたい事があってな。」


「新たな貴族位ですか。しかも余程、高位の貴族位を与えるという事なんですね。ですが、お父様。私の今後の話は今ではダメなのですか?」


「カレン、聞いておくれ。これは国王陛下のご希望でもあるのだ。」


「え?!陛下の?ですか?!」


「うむ。陛下は、お前に私と陛下の新たな友人を紹介する席を設けたいのだ。」


「お父様。いったい、どういう事ですか?新たな友人とは…」


陛下の要望なら無視はできない。でも、いつものお父様なら、こんな回りくどい事はしない。何かを警戒してる?電信魔法じゃ話せない事って…。


「警戒せずとも、お前にとっても悪い話では無いから安心しなさい。折角の旅行計画を変えてもらうのだ、埋め合わせに王都での滞在費と飛行船を手配しよう、学園の友人も招くといい。詳しくは王都で話そう。」


「…わかりました。友人たちにも聞いてみます。」


どうやら、断れる類いものではなさそうね…


「済まないな。では、カレン頼んだぞ。王都での再会を楽しみにしているよ。」


……


そして、現在。


「ゴメンね。予定変更させちゃって…」


「別にいいわよ。気にしないで。飛行船に乗れる機会なんて早々ないからね。思い切り楽しみましょ。」


「…アルメラの言う通り。大事なのは、どこに行くかより誰と行くか。」


「アルメラ…クロエ…。二人とも…ありがとう。」


カレンは、二人の親友の優しさが素直に嬉しかった。彼女たちなりにカレンの身を案じてるのだろう。


「…あ。見えてきた、王都。美味しいものいっぱい食べよう。」


「ふふっ…素敵な騎士様との運命の出会いとかあるかしらね?」


三人を乗せた飛行船は、ゆっくりと高度を下げ着陸した。搭乗門を抜けた先にあるホールには見慣れた燕尾服の老紳士の姿が見える。


「御迎えに上がりました。キャサリンお嬢様。ご学友のアルメラ・カーラベイン様、クロエ・ヴェール様でございますね?私は、キトルス家の執事長ジルニトラと申します。滞在期間中は私共が皆様のお世話をさせていただきます。」


「はじめまして。私の事はアルメラで構いませんよ。」


「…私も。クロエでいい。」


「ジル、出迎えご苦労様。お父様は、王都屋敷かしら?」


「はい。旦那様は現在、明日の式典の準備で王城に詰めておいでです。」


「そう。二人とも、一旦荷物を屋敷に運びましょ。ジル、お願い。」


「畏まりました。」


……


キトルス家の王都屋敷に寄り荷物を置いた後、帰還の挨拶の為カレンが王城に行く間、アルメラとクロエは王都を観光する事にした。


「下に降りるとやっぱり大きな街ねぇ。」


「…王都は中央大陸最古の都市。四層構造の美しい建築様式と都市内を流れる運河が有名。」


「へぇ。その本に書いてあるの?」


「…うん。『王都の歩き方』は便利。ちなみにここは中層区画。」


「ふーん。それにしても、あの執事のジルニトラさん素敵よねぇ。精悍な外見もいいけど、あの渋い声で囁かれたらやられるわよ。」


「…確かに。でも、ちょっと怖い。」


「ああ。魔力?あの指に着けてたの『魔封具』だったし。魔力を抑えてもアレだものね。」


「…うん。見た目は人族だけど、多分私側の種族だと思う。」


「隠された秘密のある男ってのもいいわね…」


「…アルメラ。たまに心配になる。」


「何よそれ!?…あ、あれじゃない?」


二人の向かう先にあるのは、石造りの建物だった。


……


アルメラとクロエは『冒険者ギルド本部』に来ていた。理由は簡単、カレンに内緒で冒険者登録をする為だ。学園も残り一年、三人とも卒業すれば自分の国に戻ってしまう。クロエはメルカトスの『魔科学研究所』へ、アルメラは帝国の『魔法省』へ内定がほぼ約束されている。つまり、あと一年しか一緒には居られない。そこで二人は、進級試験での会話を現実にしようと考えたのだ。


二人は自分たち三人で冒険者パーティを組み学園最後の思い出を作ろうとカレンに内緒で計画を進めていたのである。


「よし、入るわよ…」


「…うん。いこう。」


カラランッと扉の鐘を鳴らし中に入る二人。入った途端、全身を舐め回す視線を浴び身を固くしたが、ジルニトラが渡してくれた『国賓記章(ロイアルゲスト)』の効果で誰も絡んでは来なかった。


その後、二人は登録を済ませテーブル席で冒険者観察をしていた。


「色々なタイプの冒険者が居るのね。」


「…戦闘系と探索系。生産系や工業系もいるから、一言で冒険者と言っても多彩。」


「帝国は冒険者ギルドもないし、冒険者もいないから神聖国で私は初めて見たわね。クロエの国はどうなの?」


「…肉食獣種が多い。でも冒険者になるほとんどが探索系。歳の離れた私の兄も冒険者。」


「クロエ兄妹いたの?!」


「…うん。兄は私が生まれてすぐに冒険者になって、国を離れたから私にも兄妹の実感はないけど…」


森妖精(エルフ)族の冒険者とは、珍しいわね?クロエが特別なだけで、あんまり人族と関わるイメージがないから…。」


「…確かに。森妖精(エルフ)は奴隷商人に狙われた時代があったから、人族をあまりよく思ってないのは事実。」


そうこうしてると、辺りが騒がしくなってきた。カウンターの辺りで揉め事が起きたせいで、どうやら若い男女二人組が別のグループに絡まれているようだ。


「何かしら?ねえ?何があったの?」


アルメラが近くに居た冒険者に尋ねる。


「ああ、新人の洗礼だろ。」


「洗礼?」


「なんだ。お嬢ちゃんたちも新人か?まあいい。洗礼ってのは、簡単な話がヒヨっ子に冒険者の世界の厳しさを教える通過儀礼みたいなもんだ。普通は適当に絡んで面倒見の良い奴が仲裁して終わりだが…あれは、ハズレだな。」


「ハズレ…ですか?」


「ああ、今新人に絡んでるのは『ザバラ商会』って言ってな王都じゃ一番絡んじゃならねえ奴らだ。基本は商隊警護だが、金さえ払えば奴隷売買、殺し、売春斡旋と何でもありだからな。その上、人数も多いからタチが悪い。」


「なるほどねぇ……あら?」


人集りが散っていく、洗礼はどうやら片付いたようだ。ザバラ商会の集団の中に絡まれていた二人の内、兎耳の亜人の女の子だけ残っている。


「んだよ、腰抜けか。女置いてギルド職員に告げ口か。だらしねぇなあ…最近の新人は。」


「あの子は、どうなるの?」


「さぁな。運が良けりゃ、リーダー格の奴の相手させられてからポイか、運が悪けりゃアイツら全員に輪姦(まわ)されてポイだろうよ。」


「なっ?!なにそれ!都市の警備は何をしてるのよ!」


「おいおいおい…。俺に言うなよ…。ザバラ商会は貴族の客も多いから、上手い事やるんだろ。まあ、お嬢ちゃんたちも気を付けな。王都は唯デカいだけの街じゃねぇからな。」


王都は中央大陸最古にして、最大の都市である。繁栄が眩しいほど影は濃くなる。全てが救われる世界なんてものは無いのだ。だがそれでも、自分たちと歳も変わらぬだろう少女に襲いかかろうとする男たちにアルメラたちは激しい嫌悪と怒りを覚えるのだった。


「クロエ…あの子を助けるわよ。」


「…うん。そういうと思った。」


勢いよく椅子から立ち上がったアルメラが走り出し、目の前に居たフードを被った冒険者とぶつかった。


「おっと…!」


「ごめんなさい!通してちょうだい!」


「…あ。待って。」


そして、少女たちは、冒険者たちをかき分け走り出す。その背中を追う視線に気づかないまま、ギルド本部を出てザバラ商会の後をつけた…


「あれは…クロエ?」


フードから覗く薄緑の髪と特徴的な耳の亜人冒険者が小さく呟いた…


……


その頃、カレンは王城にいた。


「お父様は、まだかしら?」


「申し訳ございません、お嬢様。間もなく会議を終えられこちらに戻られると思います。」


「ええ。ごめんなさい。急かすつもりじゃないのよ。友人と待ち合わせをしてるから、ついね。」


「い、いえ!申し訳ございません!」


何気ない呟きに侍女が一々反応する姿を見てカレンは、自分が王国に戻ったことを実感していた。


ここは、王城にある辺境伯用の執務室だ。王国の重職、国務大臣を兼任するキトルス辺境伯は常に忙しい。国の内政を預かる国務大臣は国の仕事が最優先である。それは、例え娘であろうと変わらぬ順位だとカレンは幼い頃から理解していた。


「はぁ…。アルメラとクロエが楽しんでくれるといいけど…。」

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