第43話『災難』
魔技研で行われている『進級試験』の全行程が終わった受験者たちはそれぞれの試験場を離れ、ホールに集められていた。
「では、各部門の最優秀者の発表を行う!次席以降は、発表後に配る成績評価を確認するように!まずは、『魔法学』総合評価A、クロエ・ヴェール。前へ!」
「…はい。」
『磁力魔法』の理論と実用面でほぼ満点の評価で首席となったクロエは、ゆくゆくは魔科学研究所の筆頭ティエナ・エリを継ぐ者と言われる学園きっての秀才である。クロエにしてみれば、当然の結果だった。
「続いて、『魔法実技』総合評価A、アルメラ・カーラベイン。前へ!」
「はーい。」
こちらも下馬評通り。アルメラは試験の三種目で生活魔法以外の種目である属性攻撃魔法と自身の得意なものを選んで使う選択魔法の二つで次席に大差をつけ首席となった。
「最後に、『魔法戦闘術』総合評価A+、キャサリン・フォン・キトルス。前へ!」
「はい!」
会場にどよめきが起こる。身体中に擦り傷を作り、泥だらけの姿のせいもある。だが、理由はそれだけではない。基本的に進級試験の最高評価はAだ。しかし、カレンはA+、これは科目評価が満点であることを意味するからだ。
「まじかよ……」
「満点て、本当に取れるんだな…」
「また、あの三人か……」
「三人共に連覇か…」
「静粛に!満点評価に驚くのは分かるが、キャサリン・フォン・キトルスは今回の『魔法戦闘術』で唯一の全課題を踏破者だ。そして、被ダメージは無し。つまり、無傷で踏破した事が、この結果となる。」
「「「…え?」」」
更にどよめきが起こる。無傷で完全踏破したはずが、本人は、擦り傷と泥だらけなのだから当然だ。
「あ、これは出口の階段で転んで…水溜まりに。あはは…」
カレンは試験用迷宮から全速力で飛び出した為、階段でつまづき転げ落ち、そのまま隣の魔法実技の試験場の水魔法で出来ていた水溜まりに顔から落ちたのだった…
「「「(こんな奴に負けたのか俺たち…)」」」
「それでは、各部門の首席者に首席証明の賞状と首席記章を授与する。他の者達も来年度は彼女たちに負けぬ結果と努力を期待する。各自励むように!」
そして、進級試験は無事終了したのだった。
……
年度末の大仕事を終えた三人の少女は、試験会場の魔技研から学園に戻り、いつものカフェテラスに来ていた。
「疲れたあぁ…」
「あらあら、だらしないわねぇ…」
「…でも。無事に三人で首席取れた。」
「当然じゃないの!まぁでも、カレンが満点とはねえ?さすが冒険者してるだけあるって事かしら。」
「…カレン。すごい、頑張った。偉い。」
アルメラは手振りで降参のポーズをとり、クロエはカレンの頭を撫でようと必死に腕を伸ばしている。
「あはは…。偶然よ。たまたま運がよかっただけだよ。正直、最後は危なかったし…」
「そうなんだ?でも、無傷だったんでしょ??出るまでは。何があったの?」
「…カレン。大丈夫?教えて。」
「実は………」
そして、カレンは回想を巡らせる。
試験用迷宮の最後に対峙した黒蜥蜴を無事に倒したまではよかったのだが、出口手前で事件は起こった。
……
顎を穿かれ絶命した黒蜥蜴から討伐の印を取り、カレンは出口に向かっていた。基本的に試験用迷宮に配置されている魔獣は中にいる受験者のランクに依存する為、存外な強敵はいない。だが、試験という名目上、ソロでは多少苦戦する程度のレベルに調整される。そのため黒蜥蜴などは通常Bランクだが試験用に難易度調整されているのだ。
出口手前でカレンは違和感を感じていた。課題は全て終わったはずなのに、魔獣の気配がまだ強い。通常、試験用迷宮は課題を終えると同時に罠や魔獣は消滅して出口までは安全な状態になる。
「まだ、何か…いる。」
規定の課題は終わっている。罠も解除したし、魔獣も必要数は倒した。もちろん宝箱の証も回収済みだ。
「どんどん気配が濃くなっている?どうなってるの…」
通路の奥に光が見えてきた。出口が近いのだろう。距離にして、約三百メートル程だろうか。カレンは逸る気持ちを抑えて進む。だが、突如光が消えた。
「えっ!?」
そして、ソレは音もなく現れた。
鎌状の腕を持つ蟷螂に似た外見だが、体を構成するのは骨。戦場跡などで発生する生命を憎む存在。不死人種に分類される魔獣『骸骨蟷螂』だ。猿の頭骨を思わせる頭が獲物を睥睨する。
「ギュラララララァァァ!!」
「な、なんで…こんなのがいるのよ…。」
予想外の珍客に困惑するカレンを他所に『骸骨蟷螂』は、威嚇の咆哮を響かせる。
「どうしよ…やるしかない?いやいやいや…無理!とりあえず、逃げる!!」
特異点とはいえ、生身で見ればCランクになりたてのカレンにとって、Bランクの骸骨蟷螂は、一人でやり合って無事に済む相手では無い。そもそも、予定にない魔獣に難易度調整が効いているかも不明だ。しかも外の試験官が異常に気づかない限り救援は望めない。そして、大前提として進級試験は課題一覧に記載される以外に課題が追加する事は絶対にない。つまり、あの骸骨蟷螂は、イレギュラーな存在だ。敢えて危険を冒す必要は無いだろうと判断したカレンは来た道を駆け抜け試験用迷宮に設置されている安全圏を目指した。
……
「はぁ、はぁ、はぁ…もう!なんなのよ!」
カレンは、憤慨していた。全力で安全圏に走ったが、途中何度か追いつかれそうになり危なかった。安全圏は、不可侵の結界は張られている為、如何にBランクの魔獣と言えど侵入は出来ない。しかし、唯一の安全圏の出入口を塞ぐように骸骨蟷螂がいる為、袋の鼠だ。
「参ったなぁ…。何か考えないと……」
不死人種に分類される骸骨蟷螂は闇属性。弱点は光属性だけど、私は使えない…。持ち込んだ魔道具にも、光属性の物はランプ程度だし…。あと効きそうなのは、火属性と物理。でも、骸骨の体は斬撃や刺突と相性が悪いし、攻撃を当てる前に鎌がある。うーん…。
「不死人種で骸骨…光か火が効果的だろうけど、手段がない…となると……いや弱気はダメ!考えろ!私!!」
《魔法戦闘術の進級試験終了まで、残り三十分。》
「まともに、戦ってる時間もない。せめて『閉じこめて』いれたら……っ!そうよ!!」
「閉じこめておけばいいのよ…!確か、安全圏は敵が侵入すると高位の迷宮守護兵が出現して対象を撃滅するはず。でも、アイツを中に入れるにはどうすれば…」
カレンは必死に作戦を考えていた。
「安全圏は私が結界から出れば障壁は解除される。誘い込むには何か囮が必要ね…」
そして、作戦を実行すべく安全圏の部屋の死角に移動し、準備を始める。
「よし、まずは『囮人形』。あとはバレないように、閉じこめる仕掛けを動かす必要があるわね『不可視化』。」
カレンは注意を引くように、囮を入口から見やすい部屋の奥に設置し、自身は気配を消し透明化する。
「うまくいきますように!」
透明化したカレンは、壁を伝いゆっくりと入口に近づく。骸骨蟷螂は、視覚感知タイプの為か足元に移動するカレンにはまだ気付いていない。
「よし、『囮人形発動』。」
結界の消失と共に囮の人形が動き出し、注意を引く。
「ギュラララァァァ!」
突如邪魔な壁が消えた為、勢いよく部屋の奥に飛び込んだ骸骨蟷螂を確認し、カレンは入口の結界を発動させた。
《安全圏に敵性存在の脅威を感知。排除します。》
結界が復旧した途端、安全圏の部屋の灯りが真っ赤に染まり機械音声のような声が響いた、そして部屋にあった彫像が動き出した。安全圏を守る守護兵だ。
骸骨蟷螂は、突然現れた守護兵に驚き鎌を振るうが…
『無効!無効!無効!無効!無効!無効!』
鉄すら斬り裂くであろう鎌の斬撃は、『破壊不能属性』の守護兵に全て無効化される。
《排除します。生存者は直ちに退避してください。間もなく、自爆攻撃準備……》
そう宣言した守護兵は骸骨蟷螂に組み付いた。そして、頭と胸の核が眩い光を放ち始めた。
「うそ…ち、ちょっと待ってよ!?」
凄まじい魔力が圧縮されていく、近くにいてはカレンも無事では済まないだろう。
「まずいまずいまずい……!」
カレンは全速力で出口を目指す。急がないと巻き込まれる危険がある為だ。
そして出口を抜けた瞬間、背後からの爆風を受けカレンは階段を転げ落ちたのだった。
……
「……という訳なんだよね。」
「あはは…それは、災難だったわね…。まぁ、まずは寮のお風呂で汗を流しましょ。」
「…カレン。いい子いい子。」
「ほんと疲れた……」
そうして、三人は帰寮の途についたのであった。




