第41話『動き出した歯車』
この世界のカレンの行方を偶然にも知る事となったシドたちはキトルス辺境伯の助けを得て王都へ向かう事になった。
目的は国王アレクシス五世への謁見とシドへの爵位の叙任式のためだ。
王都へ向かうまでの間、ラビはメルカトスの情報蓄積装置に保管されている超越者や過去の転移魔法に関する文献や情報を集める一方、シドはジルニトラから王国の礼儀作法や貴族世界の倫理やこの世界の一般常識などを教わっていた。
「…と、このように王国内では爵位や階級が決まっております。理解いただけましたかな?」
「大体は分かったけど、今回俺は新しい爵位が与えられるんですよね?それはどういうものなんですか?」
「そうですね。今回シド殿に与えられる爵位は英雄候というものですが、凡そ侯爵相当となっております。ただ、自領や民を持ちませんので、どちらかと言うと名誉爵位に近いですね。権利、権限はありますので立場的には旦那様に次ぐ爵位かと。」
「そんなすごい爵位をもらってもどうすればいいんだ…。というか、キトルス候ってすごい偉い人だったんですね。」
「ハハハッ!そうですね。あの方は王国では、公爵に次ぐ権力と王国内最大の領地を納めていますので、爵位は伯ですが実質侯爵よりは上位に位置付けられています。」
「なるほど。そう言えば、俺たち王様に会うような服とか持ってないんですけど、どんな格好すればいいですかね?あとで買いに行く時の参考に教えて欲しいんですけど。」
「そちらは既に御用意してますので、心配いりませんよ。」
「え?!」
「型はシンプルな物から華美な物までございますので、お二人の好む物をお選びください。」
「謁見する玉座の間は武具の携帯はできませんので、『道具袋』にしまったままがいいでしょう。」
「何から何まで、すいません…。ホントに俺、キトルス候やジルさんには世話になりっぱなしで頭上がらないですよ。」
「お気になさらず。旦那様も仰ったように、こちらも下心がない訳ではないですし、持ちつ持たれつですよ。」
全く…この人達は、どこまでいい人なんだよ……。
「それにしても、驚きましたよ。まさか、シド殿の探し人がカレンお嬢様だったとは。私も長く生きてますが、斯様な奇縁もあるのですな。しかも、カレンお嬢様にシド殿を転移させるような特殊な力が発現するとは…。」
「ですね。それについては俺も驚きました。まさか、キトルス候の娘だとは…。彼女の言っていた存在も含めて能力については俺も分からない事が多いので、ラビに調べてもらってる所です。」
「超越者ですか…。私が生まれた頃には過去の存在として語られるのみの存在でしたが、まさか、現在も生き続けていたとは…。」
「ジルさん。超越者についてはどれくらい知っているんですか?」
「そうですね。世界中に共通する認識としては、現在大国と呼ばれる国のほとんどの建国の祖には超越者の存在が語られています。神聖国などは神として信仰の対象になっているのが有名な話ですね。ここレムリア王国も建国の祖は賢神と言われた超越者と伝わっております。」
「昔は神様みたいなのが何人もいたのか…。」
「神というのは、成した偉業により形容するものが多いようです。我々、竜人族の父たる祖も竜種の超越者と呼ばれる存在でしたが、神として信仰などはされておりません。」
「なるほど。」
「ただ、分かっているのは超越者が持つ力が神の如き力であった、という事です。代表される能力が環境を激変させるものや加護を与えるものが多く、様々な研究がされてる分野ではあるのですが未だに解明には至っていません。」
加護か…。
そう言えば、俺も剣神と世界樹の加護を受けているけど、世界樹のはファムが言ってた世界樹の実が理由としても、剣神は何で与えられたんだ…?まあ、その辺の事もカレンに会ったら聞かないとな……
「さて、少し脱線してしまいましたな。次は作法について学んでいただきましょう。」
「あ、はい。頑張ります…」
……
一方その頃。
カレンは神聖国で学生と冒険者の二重生活を続けていた。
二年前、特異点に目覚めてからカレンの人生は大きく変化した。並行世界の存在を知り、自身の運命を理解した。
そもそも、特異点というのは世界が生まれた時から存在する意識体の呼称である。その依代として生まれ目覚めたものは、能力が覚醒し受け入れる事で全ての並行世界と繋がる同一の魂を持ち、経験や知識を共有する多次元同一存在となる。そして『天命がある限り』特異点として世界の歪んだ概念を壊し、正しい形に改変する能力である『概念崩壊』を持って並行世界を導く者である。
そう…。如何に世界を変える程の力を持つ特異点であっても天命が尽きれば死ぬ。特異点は絶大な能力と魔力を持つが決して不滅ではない。
カレンは目覚めた時に知ったその事実を踏まえ、周りから護られるだけの存在から脱却するべく、冒険者を目指す事で自身が強くなる事を決めたのだった…。
……
授業が終わり、生徒も疎らな学園内にあるカフェテリアの一角に三人の少女たちがいた。
「カレン。たまには化粧くらいしたらー?」
「っ!?してるわよ!失礼ね!」
「…アルメラ。カレンは化粧しなくても、かわいい。大丈夫。」
「クロエまで?!もう…」
「それにしても、カレン毎回よくたまるわねえ課題。何でこんなになるまで置いておくのよ。」
「…カレン。こういうのは毎日やれば、終わる。」
「二人みたいに私は座学得意じゃないの!」
「はあ…何言ってんの。あんたが毎晩のように冒険者しに行くからでしょうが…」
「ぐぬぬっ…そ、それは……。」
「…アルメラ。窓から外見て、いつも心配してる。」
「ちょっ!?クロエ!やめてよ!!」
「へえ。アルメラが…」
そんな大量の課題に囲まれてるカレンの前には、大人びたメイクに手入れの行き届いたセミロング赤い髪を揺らす仕草と豊満な体付きが挑発的な『アルメラ・カーラベイン』と、幼女のような姿だが、森妖精族特有の翡翠色の瞳と長く尖った耳に特徴的な美しい薄緑の髪を編み込み腰まで伸ばした『クロエ・ヴェール』がいつも通り揃っていた。
三人は現在エクレシア学園の二年生である。
カレンは、間もなくやってくる進級試験に向け出される大量の課題と格闘中だった。
彼女たちは、座学で学年首席のクロエと見た目に寄らず魔法の実技で学年首席のアルメラ。そして剣の実技において学園最強と呼ばれるカレン。学園の三大美少女として他の学生の憧れであり注目の的だった。
「やってもやっても、減らないんだけど…」
「自業自得ね。諦めなさい。」
「…アルメラ。そんな事言いながら、ちゃんと待ってる。」
「だ、だって、見てないとカレンやらないじゃない!?」
「…ふふふ。照れてる、かわいい。」
「て、照れてなんてないわよ!」
「もう!二人とも!静かに見てるか、手伝うかどっちかにしてよ!」
特異点と言えど、課題からは逃げられないようだ……
だがこの時、カレンはまだ偶然にもシドが自身を見つけた事など知る由もなかった。
そして、並行世界で絡み合うシドとカレンの運命は、ゆっくりと動き始めていく……




