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『並行世界の概念崩壊(パラダイム・シフト)』  作者: 寝兎
第二章 魂の旅路
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第39話『王国の決断』

晩餐会から数日後。

城塞都市カーテナの冒険者ギルドで見覚えのある冒険者たちに囲まれるシドたちの姿があった。


「シド様。何卒、王都まで我々も同行させて頂けないでしょうか。王国の至宝であるシド様たちに危険が無いとも限りません。どうか我々に道中の露払いはお任せ下さい。」


騎士風の装いの冒険者が必死の説得をしてくる。晩餐会の日から事ある毎にこの調子だ。


「今日は、狩りに出るだけだ。」


「でしたら、私たちもお手伝い致しますわ。囮でも雑用でも、お任せ下さいまし。」


連れの女魔法使いも食い下がる。


「あんた達も執拗いな…。必要無いと言ってるだろ。だいたい、護衛の任はどうしたんだ?」


「はい。護衛対象のラマニー伯がしばらくこちらに逗留される事になられた為、我々は一旦任を解かれております。ですので、王都までのお二人の警護をさせて頂けないかと。」


「シド様、申し訳ないです。こいつら言い出したら聞かなくて…」


戦士風の男が頭をかきながら謝罪してくる。


「ラビ。何とかしてくれ…」


「はい。シド様。」

「あなた達。先程、なんでもすると言いましたよね?」


「はい!如何様にでもお申し付けください!」


「そう。なら、私たちが狩りに出る間の街の警護をまかせます。隅々までね。」


「都市警護ですか?いや、しかしそれではシド様たちをお護りする事が…」


騎士風の男、アルディンが言い淀む。


「あら?なんでもすると言ったんじゃないんですか?それともシド様が魔獣如きに遅れをとるとでも言いたいんですか?」


「い、いえ!そのようなことは…。都市警護の任、確かに承りました。ネズミ一匹逃しはしません。どうかお任せ下さい。」


聖剣の誓いのメンバーが恭しく礼をする。


「よろしくお願いします。では、シド様参りましょうか。」


やれやれ…。ギルド職員や周りの人達から好奇の視線が痛い。さっさと出かけてしまおう…


俺たちはそそくさとギルドを後にした。


……


晩餐会の翌日、辺境伯から昼食に呼ばれラビと共に赴いた俺たちは辺境伯から『グラディウス』に対する王国からの提案と現段階の決定事項を聞かされた。


《提案1》

冒険者パーティ『グラディウス』をレムリア国王アレクシス五世の名において、冒険者パーティの等級を『英雄級(A+)』とする。同時に王国侯爵(序列第五位)相当の権利、権限を与える。ただし、王配下及び王国民とせず。あくまで王の友である為、戦時の王国軍指揮系統からの出兵要請並びに王国民における徴兵義務は免除する。


《提案2》

提案1における爵位名は『英雄候』を新設し、王国内における活動に対し『貴族特権』を与え、王国への申請があれば制限を持たないものとする。また、他国にて活動の際は『外交特権』を与え、王国の外交拠点の使用を許可する。


《王国側決定事項》

レムリア王国は国王アレクシス五世の名において、冒険者パーティ『グラディウス』に対し、友好を誓い、王国貴族並びに民からの一切の敵対行為を許容しない。敵対行為に及んだ者は国賊として反逆罪とする。また今後『グラディウス』との交渉における王国側の代理人にはマンダリオン・フォン・キトルス辺境伯を任命する。


「これ、本気ですか?いくら何でも厚遇過ぎますよ。別に俺たちは王国に何もしてないし、ここまでされるのはちょっと…」


「シド殿。王国はあなた方『グラディウス』を正当に評価したまでだ。提案にあるように国の為に働けとは言わないし、あくまで王国との友好の証として正当な権利を与え、冒険者だからと不当に扱われぬよう配慮する為のものと思ってもらって構わない。」


ラビは王国の提案は当然という顔をしてるが、俺はいまいち納得出来ずにいた。


「シド殿、どうやら納得いかぬようだな。それではまずは現在の王国の状況を知ってもらう必要があるな。」


「王国の現状ですか…」


辺境伯は現在王国が置かれている状況を俺にも分かるように説明してくれた。


……


レムリア王国がある中央大陸は三国と隣接する大陸である。北は世界最大数の信徒をもち、ルーメン教の総本山を有する宗教国家『神聖アストルム国家連合国』、南はラビの故郷でもある魔科学と工業の先端都市メルカトスを有する亜人国家『ベスティア共和国』、そして王国の悩みの種であり、元は小国でありながら、軍事力を背景にして周辺諸国に侵攻、属国化し、レムリア王国と西の巨大な湾を挟む形で睨み合いが続く軍事国家『パラべラム帝国』だ。


この数年で帝国の侵攻は王国国境付近まで伸びており、大小様々な衝突が起きていた。今から二年前に王国、神聖国、共和国の三国は帝国に対し連名で不可侵条約を持ちかけたが帝国側はこれを拒否。一方的に軍事境界線を引き、王国と共和国の国境付近に軍事基地を展開し一触即発の状態となっている。


帝国軍は正規の職業軍人で構成される五師団5万と属国からの徴兵された歩兵団25万の計30万を誇り、各師団長の戦力は王国の騎士に相当する猛者たちだ。対して王国は王国正規軍5万に各貴族配下の一般徴用兵が17万に王国騎士団3万の25万と戦力的な数では不利である。


そして、シドたちに対する厚遇の理由がこの兵力差の基準にある。この世界における戦力はランクに依存したものであり、帝国師団長と王国の騎士が互いの最高戦力と評価されるAランク相当。その他の兵はB~Cランク相当が大半である。ただしこの場合のランクは冒険者のそれと違い、軍としての評価であり個となれば下方修正せざるを得ないのが実情である為、単独で高威力の魔法を使え、個人の戦闘能力がAランク冒険者を圧倒するシドという存在はまさに、一騎当千…いや一騎当万に値する為である。そして、そのシドが帝国側についた場合、王国だけではなく三国が未曾有の驚異に直面する事は明白である。しかし、共和国は帝国とも交易があり中立を崩せず国として公に接触できない中、奇しくもメルカトスの重要人物が接触し友好関係を築いた事によって、ラビという繋がりを得た。神聖国も永世中立国として他国に積極的に介入はできない。三国のうち二国が動けないのなら、その(シド)と王国が帝国より先に友好関係を結べれば未来の驚異を未然に防ぐチャンスであり、過剰な特権や爵位を与えてでも手に入れるべき人物であるという事が今回の王の決断であった。


……


「なるほど…。話は理解できました。確かに素晴らしい提案だと思うし、俺の事を高く評価してくれてるんだと感じました。俺が抑止力になるかは分からないですけど、その話を受ける事が王国だけでなく、三国にとって良い事なんだろうと思います。しかし……」


「例の目的の件かね?」


「はい。それは俺のやらなきゃならない事ですから…。手掛かりを探し続けます。」


「それならば、尚更にこの提案はシド殿の助けにならないだろうか。王国は広い世界中とならばもっとだろう、人探しをするには人海戦術が最も効果的だ。我々にも下心はある。だが、シド殿の友人として…いや、詭弁だな。お互いの利のため我々を利用してはどうだろうか?」


「利用…ですか。」


「そうだ。シド殿は何もしてないのに過分なものは受け取れないと考えておるのだろう?」


「そうですね。たまたま王国に来ただけで、俺は王国の為に何かする訳ではないですから。」


「もっともだな。シド殿は王国を自由に動く権利と力そして我々の人員と情報を得る。我々は帝国に対する抑止力としてシド殿を利用する。これならばどうかな?」


「キトルス候は手強いですね。しかし、抑止力とは何をするんです?」


「抑止力とは使わないから意味があるのだよ。シド殿という特級戦力が三国側にいる。これだけで帝国軍との無用な衝突は防ぐ事が可能だ。無論、それでも攻めて来るなら我々は戦うがね。シド殿に参戦は強制しないと約束しよう。この点は王も了承している、安心してくれ。」


「なるほど…」

「ラビ。お前はどう思う?」


「私はお受けしても宜しいと思います。王国側が言っている内容は概ねベスティア共和国の考えと変わりませんし、王国側が提案している内容にシド様に不利益なものはありませんので。確かに私はベスティア共和国に造られました。しかし現在、私の所有権はシド様に帰属します。なので、これは私個人の考えです。」


「そうか。ありがとうラビ。」


カレンを見つける為に手段は気にしない。トネリコの森でファムに見送られた時にそう決めたのに、俺はいつの間にか一人で探そうとしてた。今の俺には仲間がいる。そして、力ある者が協力してくれる。なら、キトルス候や王国には悪いが利用させてもらおう。


「わかりました。その提案を受けますよ。」


「そうか!ジル、王に伝令を出してくれ。」


「畏まりました。旦那様。シド殿、感謝しますぞ。」


「いやいや、ギブアンドテイクですよ。」


「ギブアン…?ふむ、その言葉の意味はわかりませんが、きっと良い意味なのでしょう。では、私は伝令の手配をして参ります。」


ジルニトラが退出し執務室には三人だけになった。


「シド殿、決断感謝する。互いの易のある結果になり一安心だ。」


「いえ。キトルス候の粘り強さとラビの後押しのおかげですよ。」


「ハッハッハ!褒め言葉と受け取ろう。ところで、シド殿。」


「なんですか?」


「探し人だが、何か手掛かりはあるのかね?」


「そうですね。正直言うと居場所は検討もつかないんですけど、名前と年齢くらいしか分からないんです。」


「名は何と言うのだね?」


「『カレン』です。年齢はたぶん十七歳から十八歳くらいかと…。」


カシャン…


キトルス候が手にしたグラスを落とし絨毯に染みを作った…


「キトルス候?」


「い、今…何と?」

「その探し人の外見は?もしや……この娘か?」


キトルス候がデスクに飾っていた一枚の肖像画を渡してくる。


「!??こ、これ……なぜキトルス候が?」


それは夢の中で会ったカレンそのものだった…


「シド殿…これは娘だ。私の娘だよ……。」

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