第38話『それぞれの思惑』
辺境伯の居城で行われたシドたちの力を証明する形となった晩餐会は参加者の度肝を抜きつつ無事に終了した。
晩餐会でのシドたちのデモンストレーションは、一部に多少の混乱を招いたが辺境伯の目論見は概ね成功したと言えるだろう。
参加した貴族たちは、帰り際まで余興でのシドたち戦い振りを賞賛し続けていた。結果を見れば、自国における最強戦力の一角を圧倒的な力の差を見せつけ完勝したのだから当然だろう。
しかし、ほとんどの客が帰路につく頃、城内に残る者の影があった。
残っていたのは貴族派閥の手が回った参加貴族数名とその護衛、つまり辺境伯が纏める王派閥の対立勢力。バラデロ公爵に繋がる者たちである。
……
シドたちは城内にある応接室にいる。
そこには、辺境伯とジルニトラ。そして、バラデロ公爵の密命を受けた貴族数名とその護衛である、聖剣の誓いのメンバーが揃っていた。なんとも異様な光景だった。シドとラビそして辺境伯が並び座る前にジルニトラ以外の者が跪いているからだ。
一様に頭を垂れ、一部の者は震えている様子の中、代表するように長身の痩せた貴族が話し始める。
「シドど…いや、シド様!我々に敵意はありません!確かにバラデロ公爵の密命を受け参加したとはいえ、決して我々としては、あなた方と敵対したい訳ではない事をご理解頂けないだろうか?」
恐れが貴族を饒舌にさせる。そして、一時は錯乱状態に陥ったがラビによって腕の回復も済み、冷静さを取り戻したアルディンが続く。
「恐れながら、私からもよろしいですか。私たち…いや、真なる強者を知らぬ無知蒙昧な私が間違っていました。先刻のお二人に対する我々の数々の暴言と非礼をお許しください。腕まで治して頂き、本当になんと感謝と謝罪をすればよいのか…。」
「「「申し訳ございませんでした!!!」」」
アルディンが謝罪するのに習い、仲間たちも次々に頭を下げる。意識を取り戻したビビアンは一人ガタガタと震えていた。
「皆さん、頭を上げてくれないか。とりあえず謝罪は受け取った。」
シドが、自分たちの未来に絶望したような顔をした者たちに声をかけると、辺境伯が切り出した。
「ふむ、ラマニー伯よ。残りこの場にいるのは謝罪だけが目的ではあるまい?」
その問いにラマニーと呼ばれた痩せた貴族が答える。
「はい。勝手承知で申しますところ、我々は本日限りバラデロ公爵と袂を分かち、キトルス候の派閥に行かさせていただきたいと考えております。」
「ほう、ラマニー伯は公爵を裏切るのかね?何故、そう考えたのだ?」
「裏切りとは、手厳しいですなキトルス候。正直に申しますと、理由はシド様という絶対的な強者の存在です。仮に敵対しシド様の怒りを向けられた時の被害を考えぬほど愚かではありません。我々も民を抱える身、領主たる者が領民を守れずして何の意味がありましょうか。我々は彼らを脅威に晒したくはない。」
「ここにいる『聖剣の誓い』は王国の騎士団が手を焼く魔獣を屠る猛者たちです。しかし、想像を絶する力を持ち、その猛者を赤子のように捻る様を見て、敵対しようと考えるなど、愚の骨頂。個で軍を滅ぼせる程の力の前には我々はあまりに無力です。」
なんか、とてつもなく警戒されたな…。それはさておき、貴族派閥は金の亡者みたい派閥をイメージしてたけど、民思いのいい貴族もいるんだな…と感心。
「なるほど。脅威か。」
「あの、キトルス候。ちょっと俺の意見を言ってもいいですか?」
「ああ。構わないとも。言わばシド殿たちが主役の話でもあるからな。」
「じゃあまず、最初にお互いの認識の違いから起きてる誤解を解きたいんだが、これは先立ってキトルス候にも伝えたが、俺たちは王国にも他国にも基本的に敵対する意思はない。確かに、あなた方からすると脅威と呼ばれる力が俺たちにはあるのかも知れないが、俺たちはその力であなた方に危害を加えるつもりは無い。敵対するなら仕方ないけどな。」
「それだけの力がありながら…ですか?」
恐る恐る、他の貴族が訊ねる。
「それ、よく言われるんだけど。力を持ってたら侵略とか支配をしなきゃダメなのか?」
「い、いえ!そのようなことは…」
「まあ、とにかく。あなた方に気にされるような事は考えていない。そこを理解してくれればいい。」
「わかりました。我々も信じましょう。お互いに良き関係でいるには信用が大切ですから。」
「あとは、そうだな…アルディン、腕は悪かった。だけど、あんたたちの挑発からはじまったんだからな?まあ、俺も大人気ないとは思うけど…。魔法使いの…ビビアンだったか?あんたもそろそろ頭を上げてくれ。」
「は、はひぃ!」
「感謝します。」
ビビアンは首がおかしくなるほどの勢いで頭を振り上げ、また下げる。そしてアルディンが話を続ける。
「あなた様のような絶対的な強者の存在を考えず、王国最強などと名乗っていた自分たちが恥ずかしい限りです。ですが、お陰で憑き物が落ちた気がいたします。」
なぜか、アルディンたちがキラキラした少年のような視線で俺を見上げてるが、何があったんだ…?
「まあ、済んだ事だ。ただし、次はない。その時は手首じゃなく、迷わずにその首を斬り飛ばすからな?」
アルディンや横で聞いていた貴族たちだけでなく、聖剣の誓いのメンバーも神妙な顔で聞いている。別に彼らを脅かすつもりもないが、勝手に畏怖する分には静かになってちょうどいい。
「ラビもそれで構わないか?」
「はい。シド様。」
「ありがとうございます。」
「じゃあ、俺からは以上です。キトルス候。ここから先は、王国の問題でしょう。俺たちの出る幕ではないですし、おまかせします。」
「わかった。では、ジル。二人を館に送ってさしあげてくれ。」
「畏まりました。旦那様。」
今後の事はキトルス候がうまくまとめるだろう。俺たちはジルさんに送られ迎賓館に戻った。




