第36話『王国最強の証明 中編』
アルディンの提案でシドたちは晩餐会の余興に手合わせという名の事実上の王国最強をかけた戦いを受ける事になった。
近衛の訓練場に使われている中庭の中央に両雄七名が向かい合っていた。
シドたちの相手である聖剣の誓いのメンバーは人族の五人組パーティだ。
シドの正面に立つのはリーダーであり、王国武闘大会優勝者。正統派騎士装備に身を包む剣士『聖剣のアルディン』。
そして、ラビの前にはアルディンの恋人でもある魔法使い『炎の魔女ビビアン』が余裕の笑みを浮かべ立っている。
その横に並ぶのは先程アルディンたちと共にシドを侮った戦斧使いの戦士『鎧砕きのドレアン』、弓使いの狩人『千里眼のウィリアム』、神聖属性の使い手にして回復支援に長けたメイス使い『破戒僧メルバ』だ。
アルディンがAランク、その他全員がA-ランクであり、王国内での人気も高い彼らはたった二名の新人パーティに対し同情すら感じていた。最大の後援者であるバラデロ公爵の頼みで辺境伯の思惑を探る為に公爵が手を回した参加者の護衛として来たが、目の前にいる若い剣士に対する辺境伯の紹介内容がアルディンの癇に障った。
王国最強?剣聖だと?俺を差し置いてそれを名乗るというのか?なら教えてやろう。王国最強の剣士が誰なのかをな。
……
審判役のジルニトラから簡単なルール説明がされる。
「ルールは武闘大会と同様、一対一です。各自武器及び魔法を使い戦っていただきます。特別ルールとして途中交代を認めます。念の為、回復魔法の使い手と医師を待機させておりますが致死の有効打となるものは、なるべく控えてください。相手が気絶または戦意喪失した場合は、その時点で決着と致します。よろしいですか?」
「俺は個人でも団体戦でも構いませんよ。」
「ははは!大した自信だ。だが、我々は五人だ。余りにも戦力差があり過ぎる。観覧する皆さんも戦いが一方的では退屈だろうし、ここは我々も参加者は二名のみにしよう。どうかな?」
「お好きにどうぞ。」
平然と受け答えするのが癇に障ったのかビビアンとかいう魔法使いが絡んできた。
「ちょっと調子に乗り過ぎじゃない?私たちは王国を代表するパーティよ?あなた達、格上の先輩に対して敬意が足りないんじゃない?」
その言葉を皮切りに女性同士の攻防戦が突如開幕した。
「あら、シド様もそちらのリーダーの方と同じAランク冒険者ですよ?ビビアンさんはA-でしたよね?あなたも格上のシド様に対して敬意がないのではないですか?」
「なにあんた?見た目がちょっと良いくらいの亜人族がご主人様の前だからって一丁前に挑発してるのかしら?舐めてるわね。あんた弓使いだっけ?どうせ夜は身体も武器にして仲間に入れてもらったんでしょうけど。」
「なんですって…?」
「ビビアン様もその辺にしましょうか、皆さんもお待ちです。どちらも手合わせである事をお忘れないように。では、開始位置にお願い致します。」
ジルニトラが文句の言い足りないビビアンを諌め、双方に開始位置へ下がるよう促す。
「では、精々健闘を期待してるよ。」
アルディンとビビアンはそう言って開始位置に向かう。他のメンバーは場外に下がった。
「じゃ、俺たちも準備するか。」
「はい。シド様、私が先でもよろしいですか?」
「ああ、ラビ。お前の力を見せてやれ。」
「シド様…感謝します。」
ここまでの移動中に彼ら全員の自己証明を見たが、アルディンという男以外はA-だった。恐らく王国ではかなりの戦力なのだろう。ラビはB+だから若干格上になるが、ラビなら上手く立ち回るだろう。
正直、俺をとやかく言う分にはどうでもいいし、人からの評価に興味はない。
だが、彼らは俺の大切な仲間であるラビを軽んじ侮辱した。それは赦す訳にはいかない。
俺の中に久しく忘れていた怒りの感情に炎が灯るのを感じる。『聖剣の誓い』か…。そして俺は宣言した。
「聖剣の誓い、お前らは俺たちを怒らせた。ラビを傷付けた代償はきっちり払って貰うぞ?」
それを聞いたビビアンは青筋を立て、アルディンの眉がピクリと動く。
「ほう?言うじゃないか。よろしい、格の違いというものを教えてやろう。」
そして、ジルニトラから開幕の口上があがる。
「では皆様!これより『聖剣の誓い』と『グラディウス』による試合を始めます!まずは聖剣の誓いからビビアン殿、そしてグラディウスからはラビ殿。このコインが地面に落ちたら開始です。」
キンッ!と指に弾かれたコインが宙を舞い、回転しながら落ちていく……
……
そして……
「『魔炎』!」
最初に動いたのはビビアンだ。恐らく開始直前に詠唱をしてたのであろう二つ名となっている火属性の上位魔法が放たれる。
狙いは正確だ。ラビの周囲を粘りのある炎が取り囲む。だが、ラビは余裕の笑みを浮かべながらビビアンを眺めるのみ。それを見たビビアンは怒りに顔を歪め、追撃を一斉に放つ。
「生意気な亜人族が灰にしてやるわ!『炎よ槍となり愚者を穿て!火炎槍』!」
炎の槍がラビに迫る。ラビはフワリと跳び避けた…がビビアンの口角が上がった。
「馬鹿ね!空中じゃこれは避けれないでしょ!『焼き尽くせ!灼熱の業火!豪炎爆撃』!」
ビビアンは魔石の粉を練りこんだ火薬粘土の弾に魔力を込めラビに向け投げると、炎の槍を躱した空中で無防備なままのラビに無数の爆発する火球となって襲いかかる。
「馬鹿とは心外ですね。そもそも、その程度の児戯など避けるまでもないですよ。」
空中でラビは弓を構え、魔力の矢を番える。
「ふんっ!負け惜しみなんて今更遅いわ。矢が私に届く前にあんたは消し炭よ。」
「誰があなたを撃つと言いました?」
そしてラビは矢を放つ。迫り来る魔法に向かって…。恐ろしく高速かつ正確に放たれた魔力の矢は全ての火球を撃ち抜いた…
「なっ!?」
「矢で魔法を撃ち抜いた?!そんな馬鹿な!ありえない!」
……
「はあ…はぁ…はぁ。な、なんで?なんなのよ!私の魔法が届かないなんて…ありえない…」
ビビアンは開幕から、さすがはAランクパーティの魔法使いというべき攻撃魔法を幾度も放った。しかし、対するラビは未だ無傷。
ビビアンの放つ魔法を尽くラビが矢で射抜いたからだ。そもそも自律型魔法人形たるラビの能力は人族を凌駕する。彼女の魔力制御性能と解析演算能力による超高速精密射撃の前に、ビビアンのような魔法使いの攻撃魔法では唯の動く的に過ぎないのだ。
「不思議そうですね。本来魔法とは魔力をイメージした形に具現化する行為ですよ?まして、あなたの火球などその核すらなく代用品が炎を纏っただけ。ならば核を撃ち抜けばいいのですよ。」
「っく!亜人の分際で偉そうに!!」
自分の攻撃が通じないだけでなく、未だに相手は自分に直接攻撃してくる気配も無い。
今まで味わった事の無い屈辱だった…格下と見てた相手にいいようにあしらわれ手加減すらされている。たかが亜人と高圧的に接した自分が如何に滑稽な姿に見えていたのか……
「……リザインしますか?いくらやっても、私には届かないですよ?」
「ええ。そのようね…わかったわ。」
ビビアンは手を出しラビに握手を求める。
ラビはそれを降参の意思と理解し応じた。
「……『強麻痺針』。」
握手に応じたラビが体を硬直させ、驚きの目をビビアンに向ける。
「あははははっ!誰が降参するもんですか!どう?大型魔獣ですらスタンさせる麻痺のお味は!動けないでしょう?あんたみたいな亜人にはお似合いよ!ざまぁないわね!!」
「っく。な、なにを……」
ビビアンの高笑いが響いた。
「さあ、たかが亜人族が人族様に楯突いた罰よ!思い知るがいいわ!『地獄より来たりし煉獄の炎!獄炎!!』」
ビビアンは麻痺で動けないラビに向け自身が使える最大の魔法を構える。
加減など毛頭ない、殺意を込めた渾身の一撃だ。
「やれやれ……」
シドは瞬時にラビの前に入る。
「ジルさん、交代だ。ここからは俺一人でやる。構わないかな?」
「ルールには抵触しませんので、許可しましょう。」
「ありがとうジルさん。」
「ラビちょっと下がってろ。」
「シド様…申し訳ございません…」
「いや、俺の為に怒ってくれたんだろ?謝る事じゃないさ。」
迫り来る巨大な火球の前に立ったシドは愛刀の一振『斬魔刀』を抜く。そして……
ズバンッ!!
地獄の業火が二つの塊になり、シドたちを躱すように左右に抜け壁の障壁に当たる。
「…えっ?」
ビビアンは疎か会場にいた誰もが起きた事を理解出来ずにいた。
「やれやれ、名前に聖剣って付く割には随分汚い戦い方をするんだな?」
「な、何なのよ!何をしたのよっ?!」
「見た通りだ。切ったんだよ。お前、さっきラビから教わっただろ?魔法は魔力の核となる部分を破壊すればいいって。ちゃんと聞いてたか?」
「切った……?火属性最強の魔法よ?そんな訳……」
「火属性最強?あれが?俺の知る最強は違うやつだな。」
「嘘よ!炎の魔女と言われる私より火属性魔法に詳しいとでも言うつもり!?」
「まあ、論より証拠だな。」
「ジルさん。観覧席の障壁を厚くしてくれますか?」
「ええ。お易い御用です。」
「おい魔法使い。ちょっと加減は難しいから、しっかり避けろよ?」
「な、何を……」
「なになに…って、いちいち五月蝿いやつだな。黙って見てろよ。」
シドは静かに詠唱する。
「『顕現せよ。天を埋め尽くす断罪の火の矢。天より降り注ぐ神罰の炎の剣。全てを討ち滅ぼす火焔の槍……神焔!!』」
ドゴオォォォォォン!!!!
吹き抜けた会場に向け天から神の炎がビビアンの真横に突き立てられた。まるで超高出力のビーム兵器のような威力を持った光は地面に深く突き刺さり触れる全てを粒子まで消し去った。ビビアンはすぐ横の地面に空いた穴を見やると股間から生暖かいものを垂れ流しそのまま気絶した。
そして、運び出されたビビアンを横目に会場の柱に隠れる男に向かってシドは高らかに宣言する。
「さあ!次はあんたの番だアルディン!格の違いを教えてくれるんだろ?精々健闘を期待してるよ。」




