第35話『王国最強の証明 前編』
シドたちが迎賓館に戻り支度をする間辺境伯とジルニトラは執務室にいた。
「ジル、今夜の晩餐会の追加ゲストの様子はどうだ?食い付いた者はいたか?」
王国には二つの勢力がある。一つは辺境伯が筆頭の王派閥、そしてもう一つは王の義弟であるバラデロ公爵が主導する貴族派閥だ。
貴族派閥は、バラデロ公爵を筆頭に金と権力に貪欲な者が多く、常に王から絶対の信頼厚き辺境伯を追い落とす機会を伺っている。そんな中、秘密裏に辺境伯が出処の分からぬ冒険者パーティを招き入れ、身内の貴族たちと共に金に糸目を付けず歓待するという。明らかに人の目を気にした怪しい動きに貴族派閥の好機と読んだバラデロ公爵は招待された繋がりのある貴族数名に手を回し情報を集めるべく動き出したのであった。
それが辺境伯の策とも知らず…
「はい。旦那様の読み通り、侍女の中に貴族派閥の縁者が数名おりました。どうやらそこからシド殿たちの事が『予定通りの内容で』伝わったようです。如何なさいますか?」
「しばし泳がせよう。シド殿に爵位の提供を断られたのは誤算だが、王国内で『グラディウス』の立場を不動のものにするには、少々派手なデモンストレーションが必要だ。して、あちらの手札は動きそうか?」
「あちらの手札は強者ではありますが、自己顕示欲が強く、他者の下に見られる事を嫌いますので、軽い挑発で動かせるかと。しかし旦那様、シド殿にもこの件を伏せる理由を教えていただけますか?」
「シド殿の力は脅威的だ。現在、帝国の脅威や内政の不和に悩まされる我々には、この新たな脅威に対抗する余裕はない。ならば、新たな脅威を帝国への抑止力に変え、その間に王国をまとめ、帝国に繋がる貴族派閥の力を弱める。その為には我々と友好関係を築いたと言う宣言とシド殿が持つ力の一端を見せつけるのが一番だが、彼は無駄な争いを好まんだろう。だが、降りかかる火の粉があればどうなると思う?」
「なるほど、暴発するように仕向けるのですね?」
「仕向けはしないさ。勝手に暴発してくれるなら良し。選ぶのはあちらだ。そうだろう?」
「ふふふ、畏まりました。そのように手配致します。」
「ああ、頼む。」
……
夜になり、キトルス辺境伯が主催する晩餐会がはじまった。会場には城塞都市に居を構える各派閥の貴族や各支配層の重鎮などが集まっていた。
「今宵は皆よく来てくれた!晩餐会を始める前に我が家の新たな友人を皆に紹介しよう!」
一斉に視線がシドたちに集まり突き刺さる…
辺境伯に呼ばれ壇上に上がるシドとラビはジルニトラから頼まれ彼らが戦闘時に身に付ける装備で来ていた。会場からその物々しい雰囲気に響めきがおきる…
シドは二本の愛刀を腰にさげ黒狼のコート姿。ラビは辺境伯から借りた稀少なホワイトグリフォンの皮で仕立てられたセクシーなドレス姿だ。
「それでは紹介しよう!新鋭のAランク冒険者パーティ『グラディウス』のリーダーにして最強の剣士!即ち王国最強に最も近い男!『剣聖!シド!』そして、叡智と美貌の化身で万里を射貫く弓の名手!『白兎の弓姫!ラビ!』である。」
「彼らは我が家の最良の友であり、領内に出現した危険な魔獣から領民を救ってくれた英雄とも言うべき存在である。」
「それでは、我らの新しい友に!乾杯!」
「「「「乾杯!!!!」」」」
……
参加者は皆こぞってシドたちに乾杯を求め、褒めちぎり、好印象を持たせようと躍起になっていた。
それもそのはず。ある日突然、力ある大貴族である辺境伯が得体の知れない冒険者を親しい友だの、英雄のような存在だのと言っては否が応でもお近づきに、という訳だ。
シドは傍に控えるジルニトラに耳打ちする。
「大丈夫なんですか?さっきの宣言、かなり強引な気がするんですけど…」
「ええ。旦那様なりのお考えでしょう。」
「まぁ、考えあってのことなんでしょうけど…あの二つ名はちょっと……」
「シド様。何かあれば私が全力でお護りするのでお任せ下さい。」
「ジルニトラ様もそれでよろしいですか?」
「ハッハッハ!さすがラビ殿には敵いませんな!ええ。もちろん対処はお任せ致します。」
「ラビ、どういう事だ?」
「シド様、恐らくですが。国内の勢力に向け、私たちの力をデモンストレーションしたいのでしょう。狙いは対立派閥もしくは散発する帝国との衝突に対する牽制ではないでしょうか。参加者の中に数名手練の冒険者らしき人物を見かけました。私たちのことを知らない彼らが、彼ら流の品定めをすることを見越して、先程の挑発的な宣言なのでしょう。」
「ラビ殿、お見事です。恐れ入りました。」
ラビの予測は辺境伯たちの考えそのものだった。そして、予測は現実となる…。
参加者の護衛として来ていたのは、国内最強と謳われ二組しかいなかったAランク冒険者パーティの一角で、貴族派閥が支援していると言われている『聖剣の誓い』の面々である。
……
「やあやあ、挨拶が遅れて済まない。剣聖殿。私たちは王国で活動するAランク冒険者パーティ『聖剣の誓い』。私はリーダーのアルディンだ。」
アルディンと名乗ったのは精霊銀製の鎧を纏った騎士風の男だった。
仲間たちも高価そうな装備を身に付けているが、さすがAランクパーティというべき歴戦の覇気を漲らせている。
「これはご丁寧に。さっきキトルス候から紹介があったとおもいますが、俺はシド。こちらは仲間のラビです。」
「二人だけなのかな?辺境伯閣下の話からすると、それでも十分な戦力という訳か。しかし、王国で活動するパーティという話だが、亜人のしかも兎人族とは。随分珍しいな。」
明らかなラビに対する侮蔑を含む言い草にシドは先程のラビの予測を思い出す。
「なるほど、こういうことか…」
「ん?何か気に障ったかな?亜人を差別する訳ではないんだ。ただ、何故人族に見える君が文化の異なる亜人族と組む事になったのか興味が故だ。他意はない。」
アルディンは悪びれる事無く言い切る。そして、メンバーの魔法使いらしき女が話に加わってきた。
「ところで『剣聖くん』は、かなり腕が達らしいけど、実際も剣士スタイルなの?うちのリーダーは王国の武闘大会で王者にもなった本物の王国最強剣士だけど、剣聖って最強最高の剣士のことよね?今まで噂も聞いた事ないけど、王国の出身なのかしら?」
さらに別の仲間の男が加わった。
「いやいや、実力通りの二つ名なんてなかなか居ないもんだ。俺たちと一緒にしちゃ『剣聖殿』が可哀想だろ。」
俺たちの会話に周りにいた貴族たちも興味津々だ。晩餐会と言うより品評会だな。
キトルス候は成り行きを静観しているが、先程キトルス候には今夜の晩餐会で起きる事への対処方法は俺たちのやり方で構わないと確認了承済だ。
黙って聞いているのを萎縮と勘違いしたアルディンは予測された最悪の手札を切る。
「そうだ。当代最強と言われる者達が揃ったのだ。晩餐会の余興に我々と手合わせしてみないか?」
「無論、君の相手は私だ。どうかな?」
かかった。ラビの予測通りに進む会話に内心笑う。そして答える。
「なるほど、では先輩の胸を借りましょう。ラビも構わないな?」
「はい♪シド様♪」
「なら、私がうさぎちゃんのお相手をするわ。あなたも構わないかしら?」
「ええ。構いませんよ、魔法も嗜んでおりますので。」
「あら、強気ねえ?ご主人様にいい所を見せたいのかしら?」
……
「辺境伯閣下。如何でしょうか?宜しければ場所をお借りしても?」
「ハッハッハ!それは楽しみだ。場所を用意させよう。強者の戦い方というものは、なかなか見れぬからな。皆も興味があろう。ジル、場所を用意してくれ。」
「畏まりました、旦那様。では、皆様。こちらにどうぞ。」
ジルニトラに伴われ俺たちと参加者たちは城内にある開けた中庭に案内された。
城の北東に位置するそこは中庭というには殺風景な所だった。
「こちらは近衛や騎士が訓練に使用する場所ですので、床や壁に強力な魔法障壁も完備しております。思う存分お使いください。観覧の皆様は上階に席がございますので、ご案内致します。」
なるほど、それなりに力を使っても支障はないということか…
「審判はジルニトラに任せる。では、楽しみにしているぞ。」
上階の観覧席から辺境伯はそれだけ言うと観覧する貴族たちと共に席につく。
そして、台本通りのデモンストレーションがはじまった…




