第33話『少女の決意』
中庭での会談が行われていた頃……
王国より遥か北に位置する極寒の地。高い山々に囲まれた永久凍土帯にある国にカレンにいた。
アストルム神聖国家連合国
北方に位置する永世中立連合国。最初の超越者の1人『光神ルクセラ・ルーメン』を信仰するルーメン教の総本山『聖都アストルム』を中心に国教をルーメン教とする北方国家が連合を築いている。魔法技術開発に優れ、各国に布教と技術提携の拠点として教会を設置している宗教国家だ。
「うぅ…今日も寒いわね。」
「あらあら、キトルス家のご令嬢は寒さが苦手?」
雪景色によく映えるやや短めの赤い髪の少女がよく成長した胸を反らせカレンに声をかける。
「あなたと違って脂肪が少ないから冷えるのよ!」
「…カレン。これ使って。」
背中まで伸びる薄い緑の髪と特徴的な長く尖った耳の小柄な少女が懐炉をカレンに差し出す。
「ありがとう。でも、大丈夫よ。さあ、早く行きましょ!遅刻しちゃうわ。」
「お先ぃー。」
「あ!ちょっと!待ちなさいよー!」
「…カレン。急ぐ。このままでは、置いてかれる。」
三人の少女が駆けて行く先には大きな建物が見える。神聖国が誇る世界に名高い超名門校『エクレシア学園』である。
宗教国家である神聖国の首都『聖都アストルム』はルーメン教の総本山としてだけではなく、学術面でも優秀な者を多く輩出してきた学術都市でもある。
カレンの祖国であるレムリア王国だけでなく各国とも親交がある為、学校の数は世界有数その様々なジャンルがある学校の中でも『エクレシア学園』は例え王家や貴族であっても特別な扱いはされない完全実力主義の厳しい所だ。
……
カレンは神聖国にあるエクレシア学園に入学して学生生活を送っていた。現在二年生。レムリア王国にも学校は沢山あるが窮屈な親元を離れ、彼女なりに自由を満喫していた。
「…ン……レン………カレンってば!」
後ろから背中を突っつかれて意識が覚醒し始める…
「んー……なに…。」
微睡みから呼び戻されたカレンは机の横に人影を感じ、気怠そうに顔を上げた…
「あ、あははは…レーネ先生……」
「キトルスさん?お目覚めかしら?私の授業は寝心地が良さそう……ね!」
プルプルと怒りに震える魔法史の教師が持つ短杖が振り下ろされた。鈍い音が教室に響く。
「痛っ!!」
「すっかり目が覚めたようね?」
「授業が終わったら罰として今日使った教材を書庫に戻しておくように!わかったかしら?」
「はい…」
ゴーン…ゴーン…ゴーン…
終業の鐘がなる。
「はい、では今日はここまで。進級試験はもうすぐよ。各自自習をしっかりとしておくように。では、また来週。」
……
「バカねえ。私が起こして上げたのにー。」
「アルメラ!見てないで手伝ってよー。」
アルメラと呼ばれた赤い髪の少女は髪を指先で弄びながら答える。
「いやよー。寝てたカレンが悪いんじゃない。」
「ぐぬぬ…」
「…カレン。私が手伝う。」
「ありがとうクロエ。助かるわ。」
クロエと呼ばれた薄緑髪の少女はカレンの倍の量を軽々と運んでいく。
「仕方ないわねえ。」
アルメラとクロエに手伝ってもらい三人で書庫を向かった。
「カレン、夜更かしはお肌に悪いわよぉ?最近よくこっそり抜け出してるみたいだけど、どうせまた夜な夜な依頼でもしてたんでしょ?」
「…カレン。危ない事良くない…困ってることは相談して欲しい。私たちは友達。」
「べ、別にお金が欲しいから冒険者はじめた訳じゃないからね!?夜は剣の鍛錬してるだけよ。」
「またまたぁ!勉強サボって留年とかやめてよぉ?」
「ちょっ!本当だってば!ちゃんと勉強はしてるわよ!」
「…カレン。困っているなら言って欲しい、嘘はダメ。」
「もぅ…クロエまでー……」
「あははっ!ごめんごめん。」
「…ふふっ」
「むぅー…」
……
「失礼します。教材を返しに来ました。」
「はいぃ。そこらにおいておいていいよぉ。」
書庫の司書はいつも声のみ聞こえる。体は積み上げられた本に隠れて見えたことがない。
学園七不思議と言われる司書を見たものは運命を見る事が出来ると言われているのだった。
「失礼しました。」
毎回一人分しかスペースのない受け渡し用の机以外、本に埋め尽くされた部屋を出る。
「どうだった?」
「書庫の妖精は見えた?」
「ダメね。今回も見えなかった。」
「しかも、なんか前より本が増えた気がするわ…」
「…残念。でも、居るのは確かなはず。」
「…卒業までに見つけたい。」
微妙な敗北感を感じつつ三人は書庫を後にした。
……
カレンたちは寮に帰り、食事や風呂などを済ませると自由時間がある。カレンは前回の休みに王国で冒険者登録し現在はアストルム支部に席を置いていた。
二人を寮に残しカレンは冒険者ギルドに顔を出していた。
「こんにちは。今日の依頼どんなものがありますか?」
顔馴染みの受付嬢に声をかけた。
「あら、カレンちゃん。今日は少ないわねー。あ!これなんてどうかしら?」
『難度C/雪熊の討伐』
『難度C/氷狼の討伐』
「んー…じゃ、今日は熊にします。」
「はーい。カレンちゃんは学生さんなのに頑張ってるわねー。気を付けてね!」
「はい。ありがとうございます。」
依頼を受け、冒険者ギルドを後にした。
……
カレンが冒険者になったのには理由がある。それは今から二年前、十五歳の時に突然やってきた。その日誕生日を迎えた夜、カレンは不思議な夢を見た。それは、見た事もない世界。聞いたこともない文明の世界。様々な世界の夢だった…。しかし、そのすべての世界にカレンは居た。今とは違う家族がいた世界も家族が居ない世界もあった…
そして、最後に自分に会ったのだ。少し成長した自分はカレンに運命を教えてくれた。『特異点』としての運命を。そして使命を。
そしてカレンは同時存在の自分を受け入れ、時間をかけ多次元存在として成長していった。そんな中、ひとつの世界に心奪われる事になる。
その世界は、比較的平和で魔法はないが魔獣などの脅威もなく、自分の居る世界より高度に発展した世界。戦いや危険とは無縁な自分がいる幸せな世界だった。そして、そこに居た自分は一人の青年に恋をしていた。どの世界でも無縁だった感情にカレンは暖かさを感じていた。だが、去年の夏に幸せな世界に事件が起きた。幸せな世界の自分に特別な能力が発現したのだ。そして、それを欲する脅威が現れた。全ての自分達で必死に考えカレンは自分が恋した青年に自分を託した。
しかし、運命は残酷にも青年に襲いかかる。
カレンは『特異点』としての能力を使い青年を救おうとした。
例え、嫌われても構わない。彼を救えるなら自分たちは世界の全てを敵にしても後悔はない。
そして、彼をカレンの世界に転移させ初めて意識の世界で会う事になる。
彼は彼の世界にいた自分を心配していた。嫌われる覚悟で理由を話した。
彼は困惑しながらも最後には納得してくれた。そして、『また会えるか?』と言ってくれた。
意識世界から戻る時にカレンは答えた。『今度は私が貴方を探します!必ず会いに行きます!』と。
彼に届いたか分からない答えにカレンは確信する。自分もまた、彼に恋したのだと……
だが、転移させてから彼を探す手段がない事にカレンは気付く。あの時は転移先の正確な位置はおろか、安全を確認する時間がなかったからだ。
そして、再会する為に世界を渡れる冒険者を選び、彼を護る力を得る為に剣を取った。
……
「士道さんに会う為に、私は強くならなくちゃならない…。悪いけど、あなたにはその踏み台になってもらうわ!」
「グルゥアアアア!!」
雪熊が巨体を震わせ威嚇する。
カレンは降り積もる雪を撒き散らしながら突進してきた雪熊を躱し手にする細剣に魔力を込める。
「雷の速度を我が剣に!『紫電閃』」
カッ!っと、雷の如き一閃が雪熊に降り注ぐ。
「ギュアァァ!!?」
ズズンッと、カレンの放った一撃に雪熊の巨体が沈んだ…
……
「ふぅ。今日はこんなものね。次の昇格試験もあるけど、そろそろ進級試験の準備もしなきゃ…」
「王国にも新しいAランクパーティが誕生したらしいし、私も頑張らなきゃ!」
決意を新たなにカレンは寮への帰路を急ぐ。
だがこの時、カレンは自身の想い人がまさか父と会談してるなど知る由もなかった…




