第30話『城塞都市カーテナ』
昇格祝いの夜から数日後…
シド達はポロコの傍にある街道に来ていた。
「師匠!ラビさん!お気をつけて!」
「師匠ぉ!次は俺らも、もっと強くなっとくんで旅について行きたいっす!」
「ああ。お前らもしっかりな。王都の用が済んだら戻るから、鍛錬サボるなよ?」
「お二人とも、わざわざお見送りありがとうございます。お土産買ってきますね♪」
ブンブンと手を振るミアとテトに見送られた俺たちは辺境伯の用意したというなかなか豪華な馬車に乗っている。
王国の辺境伯に仕える執事のジルさんから王国が俺を警戒してると言う話を聞き、誤解を解くため俺たちは王都に行く前に辺境伯の元を訪れる事になったからだ。
「しかし、分からんな。何で俺が王都を襲う話になるんだ…」
「シド様は、ご自分の事を過小評価し過ぎですよ?少なくとも、国に警戒心を持たせる程の力はお持ちですから。」
「いやいや、Aランクとはいえただの冒険者だぞ?しかも新人の。」
「いいですか?例えばシド様がただの村人だったとします。Dランクの魔獣に殺される程弱い存在だと思ってください。」
「そんなシド様の村から離れた所に自分が1000人居ても倒せない魔獣をいとも簡単に倒す人物がいます。その人物は生まれも育ちも正体不明の存在でわかっているのは、物語に出てくるような伝説の剣を二本も持っています。」
「さらに、強力な魔法も使えて高性能な装備に身を包み聖域の守護者や隣国の最高の技術者が協力を惜しまない存在。そんな存在が自分の村に突然来ると言ったらどう思われますか?」
「何しにくるんだ?と思う……あ!」
「ですよね?」
「なるほど…確かによく分からないってのは怖いかもな。でも、敵対するとは限らないだろ?」
「だから、お誘いを受けたんですよ。敵対するのか分からないから、先に関係を作りたいといった意図があるのでしょう。」
ラビの言うことはもっともだ。訓練も兼ねて危険な魔獣を狙って狩っていたが、その力を自分達に向けられたらと考えたのか。確かにオルカさんの言っていた事も思い返せば、ディエゴさんやティエナに作ってもらった装備は通常の冒険者ではありえないレベルという話だった。
「なあ、ラビ。ちなみに俺たちはどれくらいの脅威と思われてるんだ?」
「情報が足りないので、正確にはわかりませんが。私達を招いた王国貴族の方は王国の中でも五指に入るかなりの地位と権力をお持ちですから、そんな方が脅威を承知で直接会いたいと言うのはかなり異例な事でしょう。」
「キトルス辺境伯か……この辺の地域は全部辺境伯領って話だったよな?まあ、庭先に突然大きな野良犬が出たら驚くか…」
「ちなみにシド様。私達はAランクに認定されてますが、通常Aランクパーティは一国に一パーティ程度しか登録されてませんので、他国への抑止力としたい意図もあるかと思います。」
「でも、冒険者は国に仕える訳じゃないだろ?何で抑止力になるんだ?」
「シド様は仲のいい友人が他国から狙われたらどうしますか?」
「守るかな。ほっとけないだろ。」
「……あ、なるほどな。そういう事か。」
「ご理解いただけましたか?」
「ああ。非常によく理解できた。さすがだなラビ。」
わしゃわしゃと頭を撫でた。
「み、耳はぁぁぁ…あぅ!激しぃぃ…らめれすぅぅぅ…」
ラビについて最近わかったのは、兎人族は耳が弱点というより性感帯に近いという事。夫以外には触らせないほどだそうだ。
ぐったりしたラビを見ながら、うっかり撫でれないなと再確認。
「はぁはぁはぁ……もぅ!いきなり耳を触るなんて他の兎人族にしたら大変な事になりますからね!」
「あ、すまん。忘れてた。ははは…」
「ふぅ…私たち自律型魔法人形はどこに居てもメルカトスの情報蓄積装置にアクセスできるので、今後も知識の面ではシド様のお役にたてると思いますよ。」
「うん。助かるよ。俺は世界の事をほとんど知らないからな。」
「聞いた事無かったですけど、シド様はトネリコの森出身なんですか?」
「いや。もっとずっと遠いところだよ。それこそ地図やラビの情報蓄積装置にも載ってないくらい遠くだ。」
「どんなところなんですか?御家族はそちらに?」
「そうだなぁ…少なくとも平和な所だな。家の近くに大きな川があってさ、メルカトス程じゃないけど、それなりに栄えてるな。うちは四人家族なんだ。母親が甘味屋…んー、甘いお菓子を出す店をやってて、爺さんが鍛冶屋。俺は爺さんと鍛冶屋で働いてて、弟は大きな街に行ってドラマ…って言ってもわからんか…演劇?をやってる。まあ、いいところだよ。」
甘いお菓子という単語に耳がピクピクと反応する。こっちじゃ甘いものはなかなか手に入らない高級品みたいだし、料理は色々あるけどお菓子ってそう言えばあんまりみたことないもんな…
「素敵なところなんですね。いつか、連れて行ってくれますか?」
「ああ。いつか…な。」
心がチクリと痛む。戻る方法は分からない、帰れるかも分からない。ラビに即答で約束をしてやれないもどかしさが胸に刺さる。
王都へいき、カレンの手がかりを見つける事、それだけが今の俺に出来ることだった。
……
途中、野営を挟みながら三日目の朝。俺たちは目的地『城塞都市カーテナ』の町に着いた。
辺境伯領の最大の都市『カーテナ』はかなりの大きさがある立派な城塞都市だった。
メルカトスが東京ならこちらはロンドンて具合に歴史を感じさせる高い城壁の中に広がる街並みは中世の城下町のようだ。辺境伯の住まいは都市の北端にあり屋敷というより城に近い。都市の中央に巨大な時計塔があり、それを囲むように整備された商業区が広がっている。外周部には大小様々な家が建ち並び、辺境伯の住む城の麓には騎士団駐屯地がある。
「すごいな。王都はもっと大きいのか?」
「そのようですね。レムリア王国は中央大陸最大の国家で歴史もありますから、各都市も比較的大きいようですよ。」
「何かすごいところに目を付けられたんだな…」
店先に並ぶ品をキョロキョロと物色しつつ、辺境伯の城に向かう。ちょっとしたお上りさんだ。
「シド様。私達は観光しに来たのではないですよ。先方をお待たせする訳にはいきませんので、散策は要件を終わらせてからにしてくださいね?」
「あ、ああ。すまん。ついな…」
……
近くで見ると改めて大きさに圧倒される白く巨大な城はフルプレートに身を包んだ騎士団によって守られていた。まさに、俺の知るファンタジーものにイメージがぴったりハマる。大きな門を潜ると呼び止められた。
「お前たち!ここはキトルス辺境伯閣下の居城である。見たところ冒険者か?お前らの出入りするような場所ではないぞ。何用だ。」
全身を高級そうな鎧で固めた衛兵が声をかけてきた。
「ええと。ジルさ…ジルニトラさんからこれを見せるように言われたんですけど。」
シドはジルニトラから預かった羊皮紙をわたす。
「なに?ジルニトラ様から?どれ…」
衛兵の顔がみるみる赤くなり、白くなり、最終的に青白く変わる。
「も、も、申し訳御座いません!『グラディウス』の方々とは知らず!ど、どうかお許しを!!」
「ああ。いやいや、大丈夫ですよ。」
「いえ!辺境伯閣下より、最重要の国賓としてお迎えする様申しつかっております!」
「私は城の近衛騎士の指揮官ワルツと申します!この度は漆黒の剣聖と誉れ高きグラディウスのシド様とラビ様にお会いでき、光栄です!」
「近衛ここへ!お二人を直ちに城内にご案内しろ!くれぐれも失礼の無いようにな!!」
「「はっ!」」
「あはは…ご丁寧にどうも。」
ここまであの厨二病な呼び名が知られてるのか…むぅ、恥ずかしい。
俺たちは厳重に警護され城の中へ案内されていった……




