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『並行世界の概念崩壊(パラダイム・シフト)』  作者: 寝兎
第二章 魂の旅路
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第29話『とある執事の物語』

昇格祝いの夜から数日後。シドたちが辺境伯の屋敷へ向けての出発準備をしていた頃、屋敷では慌ただしく歓待の宴の準備が進んでいた。


屋敷の主人キトルス辺境伯も例外ではなく、執務室に篭もり溜まった決裁書類に目を通してはサインをし続けて数時間経つ。


「旦那様、紅茶をお持ちしました。余り根を詰めませんように。」


「ああ。ありがとう。しかしジルが不在だと、こうも大変だとはな。」


侍女が空いたカップを下げ新しいものに変えようとした時、ふいに机の上にあった大量の書類の山脈が揺らいで…


「あ!」


崩壊した。


「も、申し訳御座いません!旦那様!!」


「いやいや、構わん。片付けてない私の責任だ。ジルにまた叱られるな。ハッハッハ。」


青ざめる侍女をよそに辺境伯は懐かしい本を机の隅に見つけ、手にとった。


「まあ、次から気をつければいい。気にするな、久しぶりに机がすっきりしたお陰で大事な物が見つかったよ。」


侍女が書類を片付けている間、辺境伯はその古びた本を開く。キトルス家に代々伝わる伝説が書かれたページを懐かしく捲った。


……



中央大陸の東側には旧文明の遺跡群があり、それを囲むように砂漠地帯と見渡す限りの不毛な大地が広がる。


そこはかつて高度な技術と文明を誇った超大国の成れの果て、そして竜人(ドラゴノイド)族の生まれ故郷である。


竜人(ドラゴノイド)族の歴史は悲しみの歴史と言ってもいいだろう。


竜と人の血をひく竜人が誕生したのは今より遥か昔、竜と人が共存した時代であった。ある時、竜の王子と人の姫が結ばれ最初の竜人が誕生した。


だが、人の一生は竜に比べ余りに短く、母となった姫は子の未来を見ること無く死んでしまう。


父たる竜の王子はその悲しみを無くそうと母たる人族を竜並に長命な竜人に代替わりさせる事を決め、竜と人に愛の素晴らしさを説いた。


結果、数多くの竜人が誕生し母は子の未来を見られるようになり、竜と人の国は世代を重ね繁栄を極めた。


しかし、人族の王は自分達の種族が竜人に取って代わられていく事を恐れ、竜の王となった王子を騙し罠にかけ、殺して竜の力と魔力を奪ってしまう。

その事に激怒した竜たちは国を一夜にして滅ぼし、忌まわし人族の血をひく竜人を追放した。


死んだ竜の王の亡骸は山に姿を変え、そこに竜たちは不可侵の結界を張り新たな竜の聖域を作った。そして竜から追放され人からも迫害された竜人達は竜の怒りを恐れ安息の場所を求め散り散りになった。


滅びた国はやがて時を経て新たな戦場となり、時が廃墟を砂漠に変え荒廃した土地を残すのみの生き物を寄せ付けぬ不毛の大地になった。


そして幾千の夜を越えた頃。長い旅の末、悲しい滅びの地にたどり着いた最初の竜人の末裔である男の呼び掛けで散り散りになっていた一部の竜人が集まり忘れらた国の遺跡を中心に里を築きはじめた。

最初の竜人の末裔であった男は長となり、二度と悲しい歴史を作らぬように厳しい戒律を持って自分達の存在を世界から隠した。


しかし、呪いのように人の欲により再び戦場となった悲しい滅びの地で戦火に巻き込まれた竜人達の一部が蜂起、人族との戦争に発展する。

力と魔力があっても、人族の数の暴力の前に為す術もない竜人達は人族の敵対者であった魔族と手を組み魔王を立て共に戦った。

再び起きた悲しみと血の日々に心を痛めた最初の竜人の末裔である長は戦いを止めるよう説くが逆に里をおわれてしまう。


長だった男は再び安息の地を求め旅する中で人族の軍勢に見つかり瀕死の怪我を負った。命がらがら逃げた長だった男は、一人の勇敢な人族の戦士に助けられ救われる。

回復した長だった男は助けてくれた戦士の恩義に忠誠を誓い残された時を戦士の剣として過ごそうと決めた。


しかし、戦士は長だった男に友となる事を求め、死に伏せる最後の一瞬まで剣としてではなく友として長だった男に安息を与えた。


戦士の死後、長だった男は戦士の意志を継ぎ一族を護る盾として生きることになる。失われたはずの人族と竜人の友好の証明(あかし)となり、後に作られた国の大貴族となった一族の守護者として。


竜と人を分け隔てなく慈しみ愛した竜の王の名は守護者となった末裔である男に継がれ、その伝説は大貴族となった戦士の一族に代々語り継がれている。


その名は『ジルニトラ』


……


幼いカレンが寝る前によく読んでやったな…


辺境伯が成長した娘の姿を思い出していると、侍女から声がかかった。


「旦那様、片付けが終わりました。他にお手伝い出来る事は御座いませんか?」


「ああ。大丈夫だ。下がっていい。」


「それでは、失礼致します。」


辺境伯は一人執務室の椅子に深く腰掛けキレイに積まれた書類を前に守護者を想う。


「残すとまたジルに怒られてしまうからな…英雄殿が来る前にさっさと片付けるか。」


そして、辺境伯は決裁書類に手を伸ばした。

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