第28話『竜と狼』
昇格試験は二名一組の対戦形式だった。
ポロコ近隣の地域から四組八名が参加している。くじ引きで対戦相手を決め、試合内容を審査されるようだ。
「あいつらの相手は魔法使いコンビか。」
「シド様、お二人はどんなタイプの戦い方なんですか?」
「ミアは近接戦闘特化、テトが中、遠距離タイプでテトが釣ってミアが仕留めるって感じだ。」
「なるほど、私たちに似てますね。」
「ほう。お二人も冒険者なのですね。もしや、ご高名なパーティなのですか?」
尋ねてきたのは、ジルニトラと名乗った白髪の紳士だ。
「いや、俺たちは高名では無いですよ。パーティと言っても二人で結成したばかりなので、売り出し中の方がしっくりきますね。」
「なるほど、宜しければパーティ名を伺ってもよろしいですかな?」
「俺たちは『グラディウス』と言います。一応Aランクです。」
「ほほう!まだお若いのにAランクとは御見逸れしました。確かに覚えましたぞ。」
「たまには出掛けてみるものですな。この様に素晴らしい冒険者の方と出会えるとは。」
「いやいや、褒めても何も出ませんよ?」
「ハッハッハ!ご謙遜を。長く生きてますので、その見事な業物と気配を見れば分かりますとも。」
「シド様、ジルニトラ様。始まるようですよ。」
「お!いい顔してるな。二人とも。」
ミアとテトは程よく緊張を保って準備万端なようだ。相手の組はやや緊張が勝ってるのか、ピリピリした雰囲気だ。
「ラビ、魔法使い相手で一番大事な事はなんだと思う?」
「距離を離れないようにする。でしょうか?」
「まあ、基本はな。一番大事なのは詠唱する暇を与えない事、魔法使いから魔法を取ればいいんだよ。」
「確かに全文詠唱が基本ですし、かなり高位の魔法使いでもない限り省略詠唱や無詠唱は威力が下がるだけですね。さすがですシド様♪」
「聞くより見るといい。ほら、はじまるぞ。」
ミアとテトの試合が始まった。
テトは開始直後に後方へ跳び、ミアに防御魔法と加速魔法をかけていく。ミアは片手剣とバックラーと呼ばれる小振りの盾を低く構えて開始位置にいる。
相手の魔法使いもテト同様に下がっている。
先手はテトが低位の氷魔法で矢を放った。
一人が慌てて威力を下げ省略詠唱で防御の障壁を張る…が、既にミアが瞬時に距離を詰めている。加速魔法で移動速度を上げた突進技に障壁諸共一人がぶっ飛ばされる。
テトがすかさず土魔法を使い拘束した。
ミアは勢いをそのまま回転力に変え続いて二人目に盾を使ってシールドバッシュを繰り出す。
開始30秒の圧勝だ。
「「「「おおおぉぉぉ!!すげぇぇー!!」」」」
開始直後の圧勝に会場が湧く。
「すごいですね!魔法使いに魔法を使わせない連続攻撃!さすがシド様のお弟子さん達ですね。素晴らしいコンビネーションでした。」
「アイツらちゃんと鍛錬してたみたいだな。」
「ハッハッハ!魔法使いと言うものをよく理解した戦い方ですな。素晴らしい!」
二人からミアとテトの戦いを褒められて少し誇らしい気持ちになった。
その後も危なげ無く進みミアとテトはそのまま全勝。無事に16歳以下の最高位Dランクになれるようだ。
「いやあ、実に良い戦いを見せて頂きました。宜しければ、私に昇格祝いの席を任せて頂けませんか?もちろん支払いは全て私が持たせていただきますよ。」
「え?いや、そんな悪いですよ。」
「お気になさらずに、私もいいものを見せて頂いたお礼をしたいだけですので。」
「しかし…」
「シド様。ご好意は素直に受け取るものですよ。お二人も喜んでくれると思います。」
「そういうもんか?」
「そういうものです。」
「じゃあ、お言葉に甘えてお願いします。あ、でも俺にも払わせて下さい。俺の弟子ですから。」
「ハッハッハ!分かりました。では、市場の近くにいい店がありますので、そちらにしましょう。」
「分かりました。二人を連れて行きます。」
「では、私が先に店に連絡しておきましょう。夕刻に市場の前で待ち合わせましょうか。」
「お願いします。ではまた後で。」
俺たちは白髪の老紳士と別れ、二人が出て来るのを待った。
……
「それでは若く有望な冒険者の前途に、乾杯!」
「「「「乾杯!」」」」
「ジルニトラさん。こんな立派な祝いの場を用意していただきありがとうございます。」
「いえいえ、シド殿。久しぶりに私も滾りましたので、ほんのお礼ですから。」
「さあさあ、皆さんどんどん食べて飲んでください。まだまだありますので。」
昇格祝いは深夜まで続いた…
「シド殿、少しよろしいですかな?」
「ん?はい。どうしました?」
二人は店の裏庭に出る。
「シド殿、先に謝らせてください。今から枷を外しますが悪意はないのです。貴方の素を見ておきたかったという老人の我儘をお許しください。」
「え?どういう意味ですか?」
そして、ジルニトラが右手の指輪を一つ外した…瞬間
「!!?」
強烈な魔力の波動が現れ、俺は思わず抜刀して構えた。
「…どういう事だ?あんた何者だ?」
俺は両手に二刀を構えニグレドを起動し魔力を開放する。相手の力はかなりのものだ。手加減する気はない。
「なるほど…これが『漆黒の剣聖』の覇気ですか。まるで王狼ですな。まさかここまでとは…」
「俺に近づくのが目的か?何の用だ?あんたのような人に恨まれる覚えはないが…いや」
「ジルニトラさん。あんた、人族じゃあないな。」
「ハッハッハ!力だけでなく、良き眼を持ってますな。さすがに中の皆さんの盛り上がりに水は差したくないので、結界を張らせて頂けませんか?」
「…わかった。ただし、敵意を得たら容赦なく斬る。」
「ありがとうございます。では、『魔力感知遮断』」
「お待たせしました。」
そう言ってジルニトラが指輪を全て外した…
「っく!なんて力だ!」
さっきも驚いたが、比べ物にならない今まで感じた事のないレベルの魔力の波動だ。姿にも変化がおき、本来の姿なのだろう。頭には捻れた禍々しい二本の角が伸び、太く長い尻尾が地を叩く。
「改めて、自己紹介させてください。」
「私は竜人種のジルニトラと言います。恩義ある主の命により、貴方に会いに来ました。」
「竜人種?」
「はい。竜種の血をひく古代種と呼ばれるものです。私には威嚇する気は御座いません。ただ隠し事は何も無いという意思表示と受け取って頂けませんかな?」
「敵意がないのは理解したが、俺に何の用だ?主とはだれだ?」
「我が主の名はマンダリオン・フォン・キトルス辺境伯閣下。ここポロコを含むキトルス辺境伯領の領主にございます。」
「領主様が一介の冒険者に何の用があるんだ?」
「はい。旦那様は貴方の度重なる領内での貢献の礼をしたいと申しておりまして、シド殿が王都に向かうと聞きおよび、是非道中にあるキトルス家に招きたいとの事でございます。」
「なるほど。ジルニトラさん、それで本音はなんだ?」
「ハッハッハ!参りました!」
「私の本当の姿を見て、そこまで聡明な方は本当に久しぶりです。しかし、試す形なったのは完全に私の一存です。どうかお怒りは私の首で許して頂けませんか?」
ジルニトラは一礼し指輪をはめる。どうやら魔力と力を抑え込む為の物のようだ。
「よく言うよ。あんたなら俺の首を捕れるだろ?」
「ハッハッハ!恐らく無理でしょうな。それなりに魔力に自信はありますが、命懸けでも貴方に無傷で勝てるとは思いませんよ。貴方もまだ本気ではないでしょう?」
「買い被り過ぎだよ。…わかった話を聞こう。」
警戒を解き、武装を解除した。
命懸けの使者を斬るほど外道ではない。
「ありがとうございます。しかし、主の真意を私の口から聞かせる訳にはいきませんので、これから話すのは私の独り言です。」
「ああ。わかった。聞かないようにしよう。」
「感謝します。…事の始まりは聖域から現れた謎の冒険者の存在を確認した事です。この冒険者はA難度の魔獣を易々と屠る程の力があり、隣国ベスティアの内部に強力な人脈を築きあげました。王国としては、この冒険者の目的が王都に向いたことを知り、その真意と王国に敵意持つ者かを見極めたい。というところです。」
「要は誰か分からんないが強いなら味方になってくれ。って話か?」
「そうですね。そこで主としては直接貴方と友好を結びたいと言う訳です。如何でしょうか?」
「話は理解したよ。まさか、そんな話になってたとはな。はじめに言っておくけど、俺は王国にもベスティアにも敵対する気は無い。もちろん他の国にもだ。まぁ敵意を向けられたら分からないけど、基本的に俺は平和主義者だと思うよ。」
「俺が王都に行く理由は人探しの為だ。その為に王国に来た。その為に王国最大の都市なら情報があるかもって考えただけだよ。」
「なるほど。人探しの旅でしたか。これは我々の早計だったようですな。ハッハッハ!」
「わかってもらえたかな?」
「ええ。ただ私だけが知っているという訳にはいかない話でもあります。ご理解頂けますか?」
「ああ。領主様の招待に応じるよ。俺としても誤解は解いておきたいからな。」
「やはり、聡明でらっしゃる。ご理解に感謝致します。」
「二三日後にはここを経つから、領主様の屋敷に寄るよ。それで領主様の屋敷はどこにあるんだ?」
「こちらをお使いください。中に地図と特別な通行証があります。ここからですと馬車で三日程で着くでしょう。」
「わかった。ジルニトラさん、何か申し訳ない。変に警戒してしまった……」
「いえいえ、当然の警戒ですよ。私の方こそ、試すような事をしましたから。」
「じゃあ、改めてよろしく。ジルニトラさん。」
「ハッハッハ!こちらこそよろしくお願いします。私の事はジルとお呼びください。」
「わかった、俺もシドでいいよ。ジルさん。」
「はい。ではシド殿戻りましょうか。」
「ああ。」
俺たちが居ない事にも気付いた様子もないまま、宴は大盛り上がりだった。




