第26話『玉座の密談』
レムリア王国 王城 玉座の間。
「陛下。キトルス辺境伯がお見えです。」
「うむ、通せ。」
「キトルス候と二人にしてくれ。」
「は!畏まりました。」
下がる従者と入れ替わるように辺境伯が玉座の間にやってきた。
「陛下。私にお話があるとか?」
「キトルス候。息災のようで何よりだ。」
「候に頼んでおいた件だが…」
「陛下。こちらをご覧下さい。」
辺境伯は王に一冊の報告書を手渡す。
そこには、一人の人物を調査した内容が事細かに書かれていた。王は静かに報告書に目を通す。
「出自は不明。トネリコの森にて『守護者』と生活し魔法の手ほどきを受けた後キトルス領内で冒険者登録を確認。ほぅ…ガランが直接確認しAランクとして処理したのか。」
「登録直後に脅威度Aの小鬼王を一方的に屠り、ベスティア領滞在時エルダーワイバーンを討伐。一撃で仕留める程の力を持つ。ベスティア側は国家として敵対せず協調行動、いや懐柔に動いたか。」
「はい。ベスティア上層部へ強い発言力を持つティエナ・エリ殿自らが進言したようです。」
「筆頭研究者としての見解を上層部も重く見たのではないかと。」
「ふむ。ラドラ老の協力は個人的なものか…それにしても歴代勇者にすらなかなか打たないラドラ老が武具を既に二振りとは…最早、過剰戦力だな。候はこの男をどう見る?」
「額面通りの男ならば、非常に強く優秀で好感の持てる青年ではないかと。ただし、味方ならばですが…」
「敵対した場合、我が国の被害は未曾有の厄災に匹敵するかと。撃退できても消耗は甚大、帝国の侵攻を許す結果になりましょう。」
「候にそこまで言わしめる程か。」
「王都を目指す理由は何だと思う?」
「今だ不明です。ただ私の推測ですが、侵攻が目的では無いのではないかと。そもそも我が領内での評判は非常に高く、周りから『漆黒の英雄』と呼ばれているようです。ポロコ周辺の村々やメルカトスでも同様に信頼のできる優秀な人物だと報告が一貫しているのです。」
「騎士団を総動員しても手こずる魔獣を単身で簡単に屠る程の力を持つ者が奢らぬか…」
「まるで、聖人だな。」
「理由は不明のままですが、王都へは仲間と向かってくるようでパーティ名は『グラディウス』、仲間の人数は一名、種族は兎人族で我が国の冒険者ギルドでも最高レベルのパーティだそうです。」
「王都にはいつ頃着く?」
「数日後にはポロコを経つようです。早ければ七日程で王都に着くでしょう。」
「陛下。どうされるおつもりですか?」
「どうしようもあるまい。ワシは王として最善を尽くそう。」
「聡明な陛下らしい御決断です。」
「よせ。候には既に策があるのであろう?」
「僭越ながら、まずは私が王都に入る前に接触し、過度な歓待は控えた上で友好関係を結びましょう。その後、王に謁見という形で王城に招き、出方をみるべきかと。」
「そうだな、ここに来た際は候も同席してくれ。この件に関しては王命により、候に全権を任せる。」
「拝命致しました。我が名にかけて必ずや王国の益になる会談に致しましょう。」
「たのんだぞ。」
「直ちに取り掛かります。では、これにて。」
(キトルス候なら、間違いは無いだろう。だが王国の運命をかけた会談になるだろうな…)
玉座の間を退出するキトルス辺境伯を見送り王は独り天を仰ぐ、少しばかり胃の痛みを感じた…
……
数日後…
「旦那様、例の冒険者がこちらに向かって出立したようです。」
「ジル。お前から見て彼はどうだった?」
「率直に申し上げますが、誠実で裏表が無く、好感の持てる青年です。ただ、戦力としては私でも手に余る逸材です。英雄と呼ばれるに相応しい人徳と力を持つ人物かと。」
「なるほど。歓待は失礼の無いようにな。屋敷に着き次第、私が出迎えよう。」
「畏まりました。手配致します。」
辺境伯の側近ジルニトラは思い返す。
王命により、全権を任された辺境伯は即座にジルニトラをポロコに向かわせた。
目的は王都を目指すという冒険者パーティ『グラディウス』に辺境伯から度重なる冒険者としての功績に褒賞を渡したいと理由を付けて王都への道中に、辺境伯の屋敷がある領内最大の都市『キトルス』へ招こうというものだ。
高額な魔法道具である『転移結晶』を惜しげもなく使わせる辺りに、いつになく警戒感を感じたジルニトラはまだ見ぬ相手へ細心の注意を払う事を決め、小さく呟く。
「王国に突如現われた謎のAランク冒険者パーティ『グラディウス』のリーダー…漆黒の英雄 シドか。」
「『転移門』」
ジルニトラは転移門を抜けポロコに向かった…




