第15話『大都市メルカトスへ』
ベスティア共和国
中央大陸の南方に位置する様々な亜人の部族で構成された共和制国家。かつてはドワーフ族の集落だったが、様々な亜人族が移り住み交易拠点都市として発展。ドワーフ族の長を議長とし各部族の長が議員を勤める議会政府を中心に多数の亜人部族が暮らしている。世界最高水準の鍛冶鉄工技術と魔科学技術を持ち、世界最大の工業都市『メルカトス』を有する亜人国家である。
……
「貴方がガランの言っていたAランク冒険者『漆黒の英雄』シドさんですか。」
「いや、その『漆黒~』は省いてもらって…俺は唯のシドです。よろしくお願いします。」
「ははは。謙遜されなくてもいいですよ。見れば只者ではないことぐらい分かりますので。」
「私は、クライフと言います。この王国商隊の警護隊長をしております。」
この丁寧な物腰の隊長は元々ガランさんと共に王直属の騎士団に所属して居た同期の仲で引退した現在もクライフさんは王国商隊の警護隊長。ガランさんは冒険者ギルドの支部長として、様々な形で王国を守っている。と話してくれた。
あのガランさんの友人がこんな紳士とは驚きだ。真逆だろ、どう考えても…
……
道中は大きな問題もなく出発から3日が経った。
「シドさん。そろそろ最後の補給所につきますよ。」
「最後ってことは、明日にはメルカトスに着くんですね。」
「ええ、国境検問所もメルカトスの一部なので、明日の昼には着くでしょう。」
「メルカトスは工業都市なんですよね?」
「はい。すごいですよ、あそこは。『ビル』と呼ばれる大きな建物が立ち並ぶ大都市ですからね。」
「『ビル』?!あの、それって四角い大きな石の塔みたいな建物ですか?」
「ええ、よくご存知ですね。」
ビルだと?どういう事だ?俺の居た世界の建築物がなぜ、この世界にあるんだ…
「どうかしましたか?」
「あ、いや。なんでもないですよ。」
疑問が頭の中を巡る。
「あ、見えてきましたね。着いたら野営の準備をします。シドさんは周辺巡回をお願いします。」
「はい。」
街道に点在する補給所は横にキャンプ場を想わせる広場が設置されており、行商人や商隊をはじめ、冒険者も利用する野営地として便利な場所だ。
「巡回してきますね。」
「はい。お願いします。我々は野営準備しておきますので、戻ったら食事にしましょう。」
「了解。では、いってきます。」
……
「メルカトス…ビルの建ち並ぶ都市……」
「俺の世界から来た人間。しかも俺と同じ時代の現代人である可能性。か…」
カレンという並行世界の共通点以外に二つの世界を繋げる存在がいる。
「思わぬ収穫かもしれないな…」
……
「クライフさん、おいしそうですね。」
「あ、巡回お疲れ様です。もうすぐできますよ。」
「今日の料理は西の国を回った時に教えて貰ったんですよ。」
そういや、商隊警護隊に入ったのも世界中の料理や香辛料を知れると思ったからと言ってたな。
「なるほど。確かに世界中にいける仕事だと、そういう役得もあるんですね。でも、クライフさんなら冒険者でもかなり上位に行けるんじゃないですか?」
「いやいや、剣はほどほどですが、料理の腕にはそこそこ自信ありましたから、隊長という名の料理番ですよ。冒険者やるにも年齢的に前線は厳しくなってきたので。はははっ。」
「よし。皆さん出来ましたよ!今日は角兎と根菜の煮込みと青羽鴨のスモークに角兎と青羽鴨のガラからとったスープです。」
野営で出てくるには本格的過ぎるだろ…
ポロコの町からここまで3日間全て食事はクライフさんが作っていたが毎回この調子だ。
「「「「いただきます。」」」」
フォークで触れると崩れるほど柔らかい角兎の肉と芋や蓮根に似た根菜がトマトのような木の実とワインで煮込まれている。
濃厚な味わい酸味と甘みの活かされた中にトロトロと溶ける肉の旨み。根菜もホクホクとサクサクが絶妙な食感のアクセントだ。
う、旨すぎる…
青い羽が特徴の鴨胸肉のスモーク。薄くスライスして、それを黒胡椒っぽいスパイスが効いたマヨネーズらしきソースと共にたっぷりとパンに挟んである。噛むと肉の力強い旨みの中にピリッとスパイスが効いてスモークの香りが鼻に抜ける。
はい。最高。間違いない美味さだ。
スープは肉と肉のコラボレーションでこってりしてきた口と胃を休ませる優しい味付け。
しかし、トロトロ肉、ピリ辛スモークサンド、さっぱりスープのコンボは永久にループ出来る最強の組み合わせだ。
そして、毎回食べ過ぎる……
「クライフさんが店出したら俺、絶対通いますよ!」
「ははは!ありがとうございます。喜んでもらえると嬉しいですよ。」
「シドさん。今日も食後の鍛錬行かれるんですか?」
「はい。どうかしましたか?」
「警護任務も明日で終わりですし、軽く手合わせしてもらえないかな、と。」
「ええ、構わないですよ。」
野営地の外れで向かい合う。他の隊員や別の野営組も観戦モードだ。
「なんかギャラリーが多いな…」
「ははは。Aランク同士の立ち合いは珍しいですからね。」
「クライフさんもAランクだったんですね。強いとは思ってましたけど、対峙して納得しました。」
「明日もありますので軽くやりましょう。」
「では…よろしくお願いします。」
お互い刃を引いた訓練用の剣を手にして立つ。魔法は無し。剣のみの手合わせが始まった。
……
「シッ!」
シドは短く息を吐き、一気に距離を詰め、抜刀の勢いを殺さず切り上げる。
クライフは流れるように受け流し勢いを吸収し回転すると横凪を一閃。
シドは最高速で放った初手をあっさり受け流された事に感嘆しつつ剣閃をうねるように潜り体を更に詰めた。追撃に迫るクライフ剣の柄を自身の剣の柄で打ち上げ軌道を変えた。
「ほぅ。」
今度はクライフが感嘆の声をあげた。
そして、二人の剣が消え……
硬質な金属音だけが響き渡る。
凄まじい速さで繰り広げられる剣技の応酬。
キンッ!
舞い踊るような剣の嵐は唐突に止まった。
「剣が折れてしまいました。ここまでまでですね。私の負けです。」
「いえ、紙一重でした。俺も勉強になりました。ありがとうございました。」
「「「「(速すぎて見えねえええ!!!)」」」」
……
「いやあ、さすが『漆黒の英雄』と呼ばれるだけはある。まだお若いのに歴戦の戦場の覇気を纏った素晴らしい剣でしたよ。」
「戦場で鍛えられてきた流派を歩きはじめの幼い頃から叩き込まれてきたので、実戦はこちらに来てから魔獣で鍛錬する毎日です。」
「なるほど…っふ!ふはははっ!」
「…??」
「いやあ!実に悔しい!ですが、全力で剣を打ち合うのは気持ちいいですね!はははっ!」
「確かに。俺も気持ちよかったです。またやりましょう!」
「是非!」
……
前夜は体が高ぶってなかなか寝れなかった…
起きると、クライフさんが一人朝食の準備をしていた。
「早いですね。」
「年甲斐もなく、興奮して寝付きが悪くて起きてしまいました。はははっ」
「俺もです。ははっ」
「昼には着くでしょうから、朝は軽めにしましょうか。」
カリカリに焼いたベーコンと芋のサラダのサンドイッチとゆで卵のシンプルな朝食。旨さは言うまでもないだろう。おかわりは自重しておいた。
「クライフさん、では先行偵察してきます。」
「お願いします。片付けてから追いかけますので。」
「ここを登りきるとひらけた場所があるので、そこで合流しましょうか。」
「了解。」
軽量の荷馬車を伴い、南街道の山道を登る。
ポロコのある王国のキトルス辺境領とメルカトスがあるベスティア共和国の間に伸びる街道の終点にあるミドラ峠を降りた先にメルカトスはある。
5キロほど馬車を走らせると広場に着いた。
「ふぅ。着いたな。」
「確か展望台があるって言ってたな。」
広場の奥にある展望台に向かった俺の目の前に大都市メルカトスが現れた……
『なっ!!?』
『これは……』
それはまさしく現代建築『高層ビル』が建ち並ぶ大都市だった。




