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とつぜん、勇者がやってきてツボやタルをこわし出ていった  作者: おいしいカレー屋さん
お金クエスト
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コロシアム

 クエストを求める為受付に向かっている最中。

 ここの酒場は酒飲み場とクエストカウンターが一緒くたに配置されているせいで、非常に騒がしい空間となっている。


 冒険する者、休憩する者、酒を飲む者、情報交換する者、クエストを受けに来る者、馬鹿騒ぎする者、時には喧嘩が始まりどちらが勝つかという賭け事が飛び交う簡易コロシアムまで始まる始末。ここには様々な予定を抱えた人種が集まってくる、故に騒がしい空間に仕上がっている。

 そして今ここにある、クエストカウンターにも騒がしい事がひとつあるようだ。


「おい姉ちゃん、報酬金額がやけに少ないじゃねえの? お?」


「く、国からの税で報酬金額は一割引いた金額をお渡ししています……ですので……記載の金額でお間違い無いです……」


「てめえふざけた事言ってんじゃねえ! 一割を舐めてんのか!? あぁ!?」


 クエストカウンターでモヒカンのおっさんが受付譲を脅迫している現場に遭遇してしまった。

 胸倉を掴み、今にも殴ってしまいそうな殺伐とした状況。

 言い合いが続く。


「こ、この契約書に税の事は大きく書かれていますので騙そうとする気のある書類ではありません……それに契約書はお読みになった上でのサインを頂いてるのでそれは承諾した事となり契約者様に一切の反論は認められません……」


「ゴチャゴチャ抜かしてんじゃねえぞ!? ご立派に口だけ揃えてねえで誠意を見せろやぁ!!」


「で、ですのでそれは契約書によく目を通されずに易々とサインを書いてしまった契約者様に非があるのではないかと私は思います……今回の件はどうか御自身の胸に何が悪かったのか問いただし答えを見つけ自らを納得して頂きますようお願い致します……ご了承下さい……」


「ああああああああ!!!! ふざけるのも大概にしろよぉお!? てめぇえええ!!!」


 ぶち切れる男と、それに対しなんとかなだめようとする女。

 受付譲を助けるかと言われれば、それは首を横に振る。

 この場面は勇者なら止めに入るだろう。割って入り颯爽と場を収めるだろう。


 止めに入る事で良い事なんかなにも無い、怒りの矛先をこちらに向けられ、殴られ蹴られで問題がかさばる。それだけしかない。

 俺は平和主義者で喧嘩はしないし話し合いも面倒臭い。ここまで騒ぎ立てれば誰か他に止める人が出て来るだろう、それまでは我慢してもらおう。俺は厄介事は御免なのだ。

 喧嘩の正しい対処の仕方は、喧嘩になるような事を元よりしない事だ。


「その手を離しなさい」


 ほら、待っていればこうして誰かが手を差し伸べてくれる。威張って自らが助ける必要は無いんだ。

 ヒーローは自分では無い誰かだから。


 ……ただこの場合は「怪人とヒーローとの闘争に巻き込まれた一般人」と言う形になる。

 止めに入ったヒーローはラランだった。


「それ以上その女性に何かするなら、あなたを許す事は出来ないわね」


「あ? なんだぁ? てめぇ…………」


 ラランはパスタを頬張りながらの一喝を決めた。その姿に威厳は無い。


「あら、聞こえなかった?」


「あぁ、聞こえねえなぁ……。もう一回、言ってくれないかぁ!?」


「この男が許さないって言ったのよ」


 この男。

 名をアスミと言うらしい。

 ラランに唐突に蹴られ、前へ押し出される様に倒れこんだ。

 いきなりの出来事に体勢を崩し、顔から倒れるという情けない形で渦中に放り込まれた。

 こんな登場の仕方をすれば、当然に不特定多数の目線を体中に受ける。


 皆がじろじろと目線を向ける中、引く事すらも出来ない状況にまいったまいった。

 お手上げです。

 勘弁して下さい。


「……おい、お前が俺様に楯突こうってのかぁ?」


「ち、違う! 俺は何もしない! 何も出来ない! 争いを止めようなんてこれっぽっちも思っちゃいない! この思いは揺らぐ事の無い真実だ! 真相だ!」


 成す術は、心からの弁解。嘘偽り無い本心。本心とは本当の心と書いて本心。

 殴り合いに発展する事になれば勝ち目は無い、なのでこうやって難を逃れようとしているのだ。

 保身のための一心不乱。

 謝心。


「俺様は今気が触れているんだ……、お前が代わりにサンドバックになってくれるのかぁ……? なぁ……?」


「いや、違うんだ……、何かの間違いだ……、喧嘩を売ったのはそこの女だろう!?」


 こうなった元凶の女を指差す。

 いつの間にかパスタからビールの瓶を一本片手に携えている姿に変貌していながら、この状況を静かに楽観していた。

 いや、見てすらいなかった。


 瓶の持ち方は殴り易い方では無く、ラッパ飲みする方で、完全に外野に徹している。

 あのふざけている奴がこんな状況にしたんだ、俺は本当に全く悪くない。あいつが悪い。

 だと言うのに、こうなるのは世知辛い。


「言い逃れしてんじゃねえよぉ……お前も男だろうが!」


「痛い!」


 暴力。

 とうとう顔に拳を振り掛けてきた。

 痛さと血液の味をじっくり口の中で味わいながら、ふつふつと込み上げてくる。

 怒り。


 怒りの理由は、ただ争いを見ていただけなのに何もしていない一般市民なのに、それなのに殴られたからだ。

 どっちが悪とも知らず制裁するには情報が足りなさ過ぎるあの状況で、ただ見ているのは全然普通のはずなのに。

 周りの人間だって何もせず、我関せずを決め込んでいたじゃないか。


 家が燃えて間もないってのに……なんてついていないんだ……。

 心の内に煮えている感情があるのが取って分かる。

 どうにも耐え切れない。


 こいつも勇者と同じ、許しはしないリストの仲間入りだ。

 おめでとう。

 そしてここからは俺の番だ。

 本気で行く、生きていれば安いと思え。


「……俺は嫌いなものが二つある。理不尽と……痛みと……それとお前だこのモヒカン野郎!」


 心に従い威風堂々、立ち向かっていった。

 これも賭け事で金が飛び交うのだろうか。

 チップが欲しい。

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