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とつぜん、勇者がやってきてツボやタルをこわし出ていった  作者: おいしいカレー屋さん
洞窟ドラゴン
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のろい

 老人に話しかけられ、出された言葉は「支払いを持つ」という恩恵だった。

 

「お話し、聞こえてたんです……?」


「だからここにいろうが」


 目の前にいるのは数分前に、噂の渦中にいたライフソーサリーこと伝説の老兵。伝説は知らないけれど老兵。

 近くで見ると傷が一層生々しく顔も割かし迫力がある、怖気づいて敬語になるほどには怖じける。


「ここの支払い持ってくれるの?」


 お爺さんに何の感情も抱いていないのかと問いただしたくなる様な、普通の話し方をするララン。


「そう、わしは心が広いから恥ずかしい異名を持つワシは、恥じらいは捨てて話しかけた」


「……そう」


 嫌味から入る辺り、かなり長生きしている。見た目に反して陰気な爺さんだ。


「払ってくれるのは非常に助かるけど、普通見ず知らずの相手の代金を支払うか? まさか詐欺じゃないだろうな」


「こっちで払うと言うに気持ちよく支払いもさせてくれんか、性格悪いぞ若者。しかしその感性は正に解を得ている、支払いを代わるのは交換条件がある。世界はそんなに甘くないぞ若造」


 途端、目つきが鋭く変貌した。

 話してて気持ちよくないタイプの爺さんで、少しだけ怒りの感情が湧いた。

 条件付とは言え、支払いを持ってくれなければ困るのはこっちなのだから断る事も出来ない。

 この爺さんはは非常に危険な人物なんだと、頭の中の俺が囁きかける。嫌な予感と嫌な悪寒とが背中を蠢く。

 何を言われるのか、何を求められるのか。一つ息を飲み込んでから、改めて問う。


「条件……聞こうか……」




 町を出て目の前に広がるのは、始まりの大地という大層な名前の平原。何が始まるのかよく分からないし何故かモンスターが著しく弱い謎の平原。

 その平原から五キロくらい歩いた先に、岩を彫られて作られた様な簡素な洞窟がある。これがあの帰らずの洞窟。

 俺達は今その洞窟の前にいた。

 何人も向かったはずなのに、道中誰もいないという事はもう帰らぬ人となったのだろう。


「ここが帰らずの洞窟か、普通の洞窟だな」


「…………」


「いや、なぁララン、ほら洞窟だよ。男のロマンだよ」


「…………」


「そうか、ラランは女だからロマンがわからないのか。はっはっは!」


「…………」


「……あれは仕様が無かったんだって、わかるだろ? 他にどうしようもなければそれを選ぶしかない、ラランもそれを選んだんだからそれで終わりだ」


「……だからって」


「自分にしかない武器を使えた、俺には無理だ。それはすごい事なんだ。誇っていい事なんだ」


「……だとしても」


「あれをたかだか、とは言わない、尊厳を傷つけられたら誰だって落ち込むし考える事もある、当たり前で正しい行動なのはよくわかってるつもりだ。でもおかげで俺は助かったんだ。情報を得て、どうするかを考えて、ここまで来れた、ありがとうララン、揉まれてくれてありがとう」


「私は許しません。あのお爺さんも、アスミさんも」


 あのお爺さんとはライフソーサリーさん。その人と交換条件で情報を得るために、必要な代償としてある物を渡した。

 支払いをこちらで済ませる代わりにこちらの条件を飲んでくれ。

 それならばとこう言って来た。


「代わりにおっぱいを揉ませてくれはしないか」


 耳を疑い老兵を疑う品の無い一句が飛び出した。


「たった一揉みで良い! たった一揉みなんだ! 揉ませてはくれまいか! わた……わし……僕は一生の分の願いをここに連ねる!」


 続けて乞う。さっきまでの冷静な顔から一転して、まるで獣の様な理性の欠いた動物めいた顔で懇願。

 何をそんなに必死になるのかはわからないけれど、ここまで執着する理由は何かあるのかと察する。

 男のひとつの夢であるのは言わずともわかる、わかるがここまで必至になるのは何か違う。

 老兵の顔がただのエロやスケベ心のリビドーで動かされた顔ではないからだ、切羽詰まり思い詰めた表情に見えた。

 俺は聞いてみた。なぜそこまで必至になるのか。


「……とうとう話す時が来たようだのう。理由も聞かずこのまま揉まれるのは若造らも納得いかんだろう。よかろう、その理由を言い聞かそう」


 良く考えたら誰なんだこの爺さん。

 ゴロツキは食い逃げでもう店を出て行ったし変なじいさんに話しかけられるし、挙句セクハラを申し込んでくる。

 

「僕は……私はある魔女に恐ろしい呪いを、掛けられたんだ……。その呪いは……おっぱいを揉まねば死ぬと言う呪い」


 不快と言う言葉が似合う。何を言ってるんだこの人は。聞き間違いで無ければおっぱいを揉まないと死ぬ呪いにかかっている、と聞こえたんだが。俺の耳が何があっても壊れない完璧な機械仕掛けだったとしても故障を疑う一文。

 そんなのがあってたまるか、誰が何の目的で何がしたくて作った呪いなんだそれは。

 その呪いを誰かにかけて一体何の得があるというんだ。

 そんな嘘を吐いてどうしたいんだ。


「あるわよ、そういった類の魔法は」


 あ、あるんだ……。

 俺の顔に怪訝が一杯書かかれているのを見てか、ラランが答えてくれた。

 たまった話では無いが、事実その呪いを知っている者がいる以上嘘とも言い辛い。何故そんな事を知っているのだララン。


「つまり、あなたにはもう時間が残されていないという訳ね」


「察しが良くて助かるよ、説明する前に察してくれると尚助かる」


「私に黙って揉まれてろと言いたいのね」


「実に察しが良い、もはや気持ちいいわい。揉まれるのはそんなに嫌か?」


「あなたは察しが悪いのね」


「ちゃんと口で話さないと物事は伝わらんぞ。何でもかんでも察して欲しい、言わなくてもわかるでしょ、と言うのは回りの人を遠ざける。結果人生を損させる。良い事は無いぞ若造」


「……私達がここを離れて一番困るのは誰?」


「察する力が悪いとこの社会では置いてけぼりを食らうぞ、それは少し考えればわかる事じゃろ」


「あなたは感情を逆撫でるのがとても上手なのね。答えは私達が離れて一番困るのはあなたよ。それじゃあさようなら」


「困った若者だ。ならば追加で洞窟の事と勇者の秘密を教える、それが知りたかったんだろう?」


 勇者の情報なんてとても興味をそそられるドラを乗せてくるもんだから、勇者の事と揉まれる事を天秤に掛けた結果、渋々承諾したのだ。

 本当に渋々で表情がそこまで変わる事の無いラランが、怒りをあらわにした。

 様に俺には見えた。


「わ、わかりました……早くして下さい……」


「本当に揉んでいいのか? 恥ずかしく無いのか? まだ若いのに他人にほいほい体を許してはいかんぞ?」


「迅速に!」


 その言葉を聞いてからラランの胸に手が伸びる。

 割愛。


「本当に助かった! 生き返った気分だ! ワシの新しい人生の幕開けにかんぱーい! お嬢さんのおっぱいにはかんぱーい! ガハハハハ!」 


 打って変わった様に陽気になった爺さん、それとは逆に揉まれた側は怒りに満ち満ちた顔。はしていないけれど、怒りのオーラが見える。

 ラランからは言葉は無く、爺さんをただただ睨むだけである。

 そういえばあれから下着は買ったんだろうか。特にそういう場面は無かったけれどもしまだ持っていないのだとしたら……。

 それ以上、俺は考えるのは止めた。


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